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世界はいま、静かなように見えて、実はとても不安定な状態が加速しています。

この2週間で最も世界を混乱させているのは、イラクにおける内紛でしょう。米国が攻め入ったイラク戦争によって排除されたスンニ派が、アル・カイーダ系のテロリスト集団ISISに率いられ、欧米によって後押しされてイラク戦争終了後の現政権を担ってきたシーア派を駆逐すべく、イラク国内で勢力を日に日に拡大していっています。

ここまでであれば、イラク国内におけるスンニ派とシーア派の単なる派閥争いに見えるかもしれませんが、皮肉にも米国が先導して浸透したグローバリゼーションによって、イラク情勢の混迷はインドやインドネシアにまで即時に影響を及ぼすことになってしまっています。

改革派のモディ氏が首相に選出された5月中旬以降、インドの株式マーケットは世界中から再び注目を集めるようになり、株価上昇率は年初来20%を超えていました。多くのマスコミが「世界の投資はインドに向かう」と大きく囃し立てました。

しかしながら、イラク国内のISISによる反政府運動問題が急速に悪化してからというもの、インドの株式指数はそれまでの右上がりムードから一変、膠着〜下落ムードへと潮目が完全に変わりました。為替ルピーも、6月17日には対米ドルで一時、過去2か月間で最低水準にまで売られ浴びせられました。

急落の原因は、インドの石油需要の約75%が輸入に依存していることにあります。すなわち、ひとたび何らかの理由で原油価格が上昇すると、インドのマクロ経済には少なくないマイナス影響が即座に、そして包括的に働いてしまうという因果関係にあります。

今回のイラク情勢混迷は、イラクからの石油輸出に影響が出てインドのみならず世界全体に対する供給量に負の影響が出てくると市場が見越していることにより、原油価格が上昇していて、これが遠因となってインドの金融市場を混乱させています。

インドだけではなく、インドネシアもターゲットにされつつある感じです。

インドネシアも、産油国ではありながら、自国での石油精製事業の基盤・設備がまだ弱く、中東諸国からの石油輸入に大きく依存している国のひとつです。したがって、イラク情勢混迷によって高騰する原油価格は、インドネシアにとっても重大な問題であり、下手をすれば自国の経済成長見通しに深刻なネガティブ・インパクトを与えることさえ想定され得ます。

実際には、インドネシアの金融市場は、イラク問題に対するウォッチを皆が続けているのはインドと同じでしょうが、それ以上に、7月9日に迫った大統領選挙とその結果の方に意識が牽引されていっているのは間違いないでしょう。

特に、昨年あたりから「出馬すれば大本命間違いなし」と言われ続けてきた現ジャカルタ特別州知事のジョコウィ(future)に対して、プラボウォ・スビアント元陸軍上級将校(past)との選挙を通じた戦いが繰り広げられていますが、プラボウォの熱狂的な支持者も徐々に増えて行っています。

すなわち、インドネシアに限って言えば、原油価格の高騰ももちろん大きな課題ですが、7月9日の選挙でだれに投票すべきか、Are you going to vote for the Indonesia’s future, or past?という難しい質問が飛び交っているのも大きな心配事として市場にネガティブな影響を与えています。

中国の海域・空域問題に関しては、いまだに揉めています。ウクライナ問題も、いまだ根本的な至っていません。タイの政権もいまだにはっきりしません。米国でさえ、雇用なきリカバリーが進もうとしています。ほかにも、世界各地で内戦、民族間紛争、経済低迷が続いていますが、過去10年間でそれらを補完するために牽引役となってきた中国自身も、決して持続的な経済成長が約束されているかと言えば、そうでないことが指摘され始めています。

このように、世界中の多くの地域・国で不安定要因が発生しているこの時に、東南アジアの華人資本家達は世界の中でも安定性が見込め、利回りを確保出来、商慣習上も投資が反故にされにくい投資対象の地域と国を常に精査し続けています。

その対象として、日本の不動産投資が最近見直されています。日本の不動産投資信託(REIT)は今春以降上昇基調にありますが、単なる年度末(3月)の駆け込み需要的なものだけでなく、比較的に安定的に大型の投資が今も続いて流入基調にあります。

華人資本家達にとって、アベノミクスで一定程度2013年中に上昇したと考えられている日本国内の不動産の価値も、実はまだ2020年の東京オリンピックなどを見据えた将来的な価格の成長性利回りを考えれば、まだまだ割安のものも多い、というソロバン勘定になるようです。事実、日本の森ビルも、今後10年間で総額1兆円規模の投資を行っていく、と虎の門ヒルズ完工時の報道会見で発表したりしています。

この背景には、今まで投資先として先行して想定されてきた中国の不動産(特に住宅)価格の下落が鮮明になってきている、ということもあると考えられます。

しかし、日本の不動産価格を考えた場合、すでに世界水準でとても高価で、一本調子で天井知らずに上昇し続けるとは考えにくいことからも、天井を打つのは遅くないという考えもあります。ただし、逆説的には、(不動産価格が)急激に下がるという要因が現実的にはあまり見当たらないというのも遠因になっています。

したがって、アジアの華人資本家達は、中国不動産から日本不動産へのシフトを一定程度完了したら、次はどこへ向かうのでしょうか。

答えは様々有り得ると思いますが、価格や利回りの上昇チャンスというのは、常に需要が供給を上回るタイミングに発生します。すなわち、現在はダメだと見られても、実は半年後または1年後には今から想定も出来ないほどパワフルな成長ゾーンに入っているはずの地域・国になるということでしょう。

例えば、現在は観光客も寄り付かず、経済成長も滞って土地の価格も下落傾向にある、タイのような。

華人資本の動きをみていると、まさしく投資の基本(下げ相場で買い、上げ相場で売る)そのもの、ということを学ぶことができます。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2014

先週中にアジアで発生した最大のイッシューは、何と言ってもタイにおける軍のクーデターでしょう。

昨年11月、インラック前首相率いる政権がタクシン元首相の帰国に道を開く「恩赦法案」を下院で強行採決させたことに端を発し、タイは政府派と反政府派の間で終わりの見えない政情混乱に陥りました。

それから先週まで、半年が過ぎても事態の根本的な改善が見えなかったことから、最後の手段的にタイ国軍が政府と反政府派を覆うような形で、プラユット陸軍司令官が暫定的に行政トップを司る軍事クーデターが勃発しました。

過去19回の軍事クーデターを歴史上繰り返してきたタイなので、内外からは想定内の出来事であったという反応が少なくなかった一方、非民主的でありなおかつ経済への打撃も大きくなることが容易に考えられる軍事クーデターをなぜこの重要な時期にやるのか、という批判的な反応も多く出ているように見受けます。

タイ国軍というのは、正式にはタイ国防省の国軍最高司令部 (Royal Thai Armed Forces Headquarters)の下部組織であり、基本的には王様に帰属する軍組織です。したがって、最高意思決定者は王様なのです。実務トップは、陸軍司令官となっています。

したがって、今回の軍事クーデターに対するタイ国内での一般的な見方は − 「陸軍が単独でやっているはずはなく、王様の了解や指示がその背景には必ずある」 − というボトムラインがあります。そして、クーデターを起こして「中立的な調停者」を演じている陸軍は、根本的に自らが前面に出ることで王様をフロントラインに立たせることなくかばい続けている、というシナリオに沿って動いていると信じられています。

タイの長い歴史と伝統に支えられた王室の位置づけを考えれば、上述したようなボトムラインや考え方は大方間違っているとは考えにくいことは確かです。

換言すれば、昨年11月以降先週までの混乱と見通しのない対立に業を煮やした王様が、陸軍司令官と密かに協議し、事態を打開するために致し方なく今回のような軍事クーデターを実施することを容認した、ということでしょう。

今回問題の根本になっているタクシン前首相が、首相の座を追われた2006年9月の際にも、軍事クーデターが発生して政権交代が起こりました。しかしながら、当時の無血クーデターが発生してから次期政権発足のための民主的な総選挙(2007年12月)実施まで1年強もの時間がかかったことは、タイのマクロ経済にとっても停滞の時期となった経緯があります。

この事実から考えても、今回の軍事クーデターによって総選挙が実施されて民主的な次期政権が始動するまでは今から最低でも1年かかるものと思われ、その間に経済活動も一定のダウンサイドリスクを背負うことになるのは明らかです。

IMFが公表しているタイの2014年における経済成長率想定値は2.5%ですが、これがスローダウンしてどこまで落ち得るのか、またどこまで持ちこたえられるのか、市場関係者の興味はそこに尽きます。

なぜなら、タイの経済規模(GDP)はASEAN全体の約16%を占有しているため、仮にタイの経済成長率が想定よりも1%下落するとなると、ASEAN全体にとっても1%以上の経済損失につながるために、来年2016年に開始が予定されているAEC(ASEAN経済共同体)にとっても幸先の悪いスタートであり、しかも先行きに不安を残す要因になってくる、というネガティブ要因につながるからです。

タイの華人財閥といえばCP(チャロンポカパン)グループですが、CPにとっても最大の商売相手国である中国が最近、日本のみならずベトナムやフィリピンなどASEANメンバー国とも南シナ海上で軋轢を増し続ける中で、タイ経済自体が失速してAECのスタートに何らかの影響が及ぼされれば、CPも短期的には事業ポートフォリオを見直したりするなどの対応に追われることは明らかです。

そんなタイの自国内政事情に端を発した混乱ですが、ASEANにとっては百害あって一利なしであり、なおかつ最近の中国による海上での挑発行為なども、日本を含む外国企業にとっては「日本とアジアのビジネスは一体全体どうなっていくのか?」という不安を抱かせる要因になってしまっています。

中国に関しては、ロシアとの蜜月ぶりをアピールして日米などの外交筋にプレッシャーを与え続けていますが、タイのような軍事クーデターや天変地異的な激変が自国内で生まれる可能性は、短期的には極めて低いと考えられます。

したがって、最近の中国に関するカントリーリスクの大きな部分は、尖閣や南シナ海において実弾の発射であり、いわゆる偶発的な戦闘が始まってしまうことです。日本もASENA諸国も、自国の‘戦争リスク’に対して、とにかく建設的な予防手段を置いていくしかないのでしょう。

一方、タイのマクロ経済後退見通しが鮮明になってきた中で、ASEANを次に牽引するのは間違いなくインドネシアとフィリピンであり、前者(インドネシア)は7月の大統領選挙を波瀾なく無事に終えることが出来ればタイの代替生産地・消費地に十分なっていくことができるでしょうし、後者(フィリピン)はインフラ投資のための官民資本を十分に取り込んで成長を持続させる仕組みとインセンティブの用意ができれば、地域全体の経済成長も大きく落ち込むことにはならないと考えられます。

域内の華人資本家達も、上記のようなシナリオセッティングを急いでおり、ハイケース・ローケースで資本を分散させてリスクヘッジを急いでいるように見えます。

ASEANにとって、ひとつの正念場がやってきたように思います。しかしながら、先行きは決して悲観的になる必要はないと考えます。なぜなら、インドネシアとフィリピンによる牽引は、想定以上の力強さになってきたからです。この2国を注意深く見続けましょう。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2014

まるで謎解きを考えさせられる、先行き不明のミステリーゲームのような展開になってきました。

5月17日(土)に中国の青島で開幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会議において、1か月前には想定されていなかった日本と中国の閣僚会談が実現し、中国の高虎城商務相が「日本との経済貿易を重視しており、関係の安定と発展を望む」と、想定以上の前向きな関係改善意欲を示したことに、市場はとまどっています。

一方、中国とベトナムおよびフィリピンとの間にそれぞれ存在する「南シナ海問題」は、この2週間で急激に先鋭化しました。特にベトナムとの間では、中国が領海を主張して石油掘削作業を開始している西沙(パラセル)諸島近海海上で現在も睨み合いが続いており、ベトナム海上警察と中国国家海洋局の公船同士が体当たりや強烈な放水射撃で直接的に相手を攻撃するという、完全に「疑似戦争」の異常事態が継続中です。

この事態に対して、ベトナム国内でも中国系企業の工場や事務所が反中デモ隊に襲撃されるなど、事態は現時点では最悪のシナリオを辿っているように見えます。

ベトナムのズン首相も「中国は恥知らずにもベトナム領海を侵犯し、深刻な違法行為を繰り返している」と強く批判し、11日にミャンマーの首都ネピドーで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で他国からも「ASEAN加盟国としての結束」を取り付けることに成功しています。

フィリピンでも南沙(スプラトリー)諸島で、3月下旬にフィリピン軍が駐屯地としている座礁船への補給を中国の沿岸警備隊が妨害したのに引き続き、最近では同諸島近海へ大量の砂を搬入して局部的な埋め立てを行い「新しい島」を中国が作ってしまうという、何とも強引な「実効支配」を着々と進めていることが報じられています。
フィリピン国内でも、反中デモが日に日に増加していっています。

一方の中国政府は、報道官発表を通じて一貫して「自国の領海内における行為は、他国から何ら干渉されるべきものではない」と言い続け、自らには何の非もない、と開き直りまくっています。

これら一連の状況を概観する限り、中国は一体何を考えているのだろう、と首をかしげざるを得ません。

経済力や軍事力、はたまた兵力だけでいえば、近年の中国がベトナムやフィリピンのそれと比較されるレベルではないものは、いわずもがなです。しかしながら、11日のASEAN首脳会議で採択された議長声明が異例の「ASEAN全体からの中国批判」とも言えるレベルの強い懸念表明であったことは、中国とASEANの間に大きな「転換点」を作ったと言えます。

今までのASEANは、中国の強力で持続的だった高い経済成長から受けていた恩恵に基づいて、南シナ海問題や他の域内問題に対して「懸念はするが公式な懸念表明はしない」という従属的な姿勢が主でした。この根本には、中国がASEAN各国に対して広く深く展開していた投資・経済協力と、華人ネットワークを活用した強い影響力の効果がありました。

しかしながら、現在のASEAN各国から見た最近の中国は「そこまで横暴になる必要はないだろう」「ASEANは中国の占領下ではない」「中国の経済力はもはや持続的高成長とは言えない」といった要素が重なって、3年前の中国とはもう違う、という考え方がコンセンサスになってきたように見えます。

仮にそうだとすれば、ASEANは中国をけん制するために、より日本および米国との結びつきを強めてくることが容易に想定できます。これは、日本と米国にとっては「最高のシナリオ」のひとつだと言えます。

一方、中国が仮にASEANと暫く一定の距離を置かざるを得なくなった場合、最悪のシナリオの一つはロシアとの協調を深めはじめることです。

ロシアはウクライナ危機で米国を困惑させ続ける一方、大きな外貨獲得源である天然ガスの輸出先である欧州が制裁的にガス購入を絞り始める場合、代替的な購入先として中国を頼ることは明白です。

そうこう考えると、短期の「最悪のシナリオ」として単純に考えられるのは「ASEAN・日米 vs 中国・ロシア」という対立軸です。

ここで冒頭の日中貿易担当相間会談に戻ります。なぜ中国は日本に対して、想定を超える前向きなメッセージを出したのでしょうか?

これを「中国政府が日本に悪印象を持たれ続けると、益々日本からの投資が減り、減速してきた中国経済に対してネガティブな影響が続くので、これを打開したい」というのが新聞報道の一般節論調です。しかし、本当にこれだけでしょうか。そうであれば、もっと早い段階で同様の前向きメッセージを出すタイミングは、何回もあったはずです。

やはり、中国の日本に対するメッセージは、ASEANとの緊張にリンクしていると考える方が自然と思われます。すなわち、中国にとってはASEANが想定上に結束して強いトーンのメッセージを出してきたことに、明らかに動揺していると見るべきでしょう。コントロール下にあったと考えていたASEANが、明示的に反旗を翻した最近は、中国にとっては想定外の抵抗に写っていると考えられます。

これから、中国を中心としたアジアのパワーバランス、そして米国やロシア、欧州なども関係する全世界の国際関係がどうなっていくのか、本当に想定が難しくなってきました。性質の悪いミステリーゲームのようですが、起こっていることは現実の世界です。

しかし、ASEAN各国も留意しなければならないのは、自国から中国系企業や華人資本家を締め出すようなことをもしした場合に、1998年5月にインドネシアの首都ジャカルタで起こったアジア通貨危機に連動した民主化を謳った大暴動で、国の8割の富を握ると言われる華人資本が海外に流出したことで、その後6年間にわたり経済が低迷したことは、まだ記憶に新しいはずです。

ベトナムもフィリピンも、華人資本家の暗躍無くして現在の経済成長は成し得ていません。したがって、領海問題に対する中国政府への抗議と、自国内における無関係の中国系住民への無差別攻撃などは、決してリンクして行うべきでないことは、肝に銘じるべきでしょう。

ちなみに、インドネシアでは約30年の周期で、華人系市民に対する厳しい差別的攻撃が発生し大量の被害者が発生しています。1965年「9月30日事件」および1998年「ジャカルタ大暴動」がそれですが、これら以外にも1973年「バンドゥンにおける反華僑・華人暴動」や1974年1月「1月15日事件」という排華運動がありました。古くは、1740年10月「紅河事件」で大量の華僑・華人が虐殺されました。

今回の南シナ海問題が、ASEAN各国で連鎖的な華僑・華人差別運動につながらないことを、心から願っています。
( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2014

オバマ米国大統領の来日が嵐のように過ぎ去りました。

水曜夜に来日し金曜午前中に離日するという、実質滞在1日半の強行日程であった前代未聞の「国賓」でしたが、日米両政府間にとって間違いなく本論であった環太平洋経済連携協定(TPP)協議を通じて、今後のアジア経済を考える上で多くのことが浮き彫りになった意味深い「国賓」来日でもありました。

いみじくも、オバマ大統領離日直後のタイミングで、麻生副総理・財務相が「TPP合意は秋の米国中間選挙まで無理なのではないのか。今のオバマ大統領に議会をまとめる力はないと思う」という失言がありましたが、実態的にはこの発言は的を得ていたのかもしれず、安倍政権全体の本音だったのかもしれません。

昨日(4月26日)付けの日経朝刊にも、今後のTPP交渉について3つのシナリオ(夏までに決着/米中間選挙後の11月に合意/交渉難航し越年)が予想されていましたが、どれが最も可能性が高いかは別として、いずれもオバマ大統領が難しい調整を余儀なくされている国内議会との折り合いをどう付けるのかというのがコントロールポイントであることは変わりありません。

言わば、もはや世界の民主主義のお手本を自認してきた米国が民主主義に振り回されているという、歴代最もリベラルと言われるオバマ大統領にとっても、自身の頭痛が民意で選出された議会であるという、ジレンマと言う以外何者でもない状況が、ここでも明らかになっています。

今朝の同誌朝刊では、「すきやばし次郎」での夕食を交えた会話の一部や出席者選定を巡る経緯が書かれていますが、これが真実かどうかの判断は読者に任されるとしても、現時点での支持率が自分よりも安倍首相の方が数値的に高いことを引き合いに出したことは他メディアでも紹介されていることから、如何にオバマ大統領が支持率と議会対応に悩まされてTPPにしても日中韓関係にしても自らの考えを貫き通せない実情があるのかが、もはや疑いのない事実であると言えます。

TPPが善か悪かは、もはや日本国内では安倍政権が君臨する限り、二者択一で議論すること自体愚問でしょう。

しかしながら、真に重要なのは、TPPがどのような内容で最終的に合意され、その結果参加する12ヶ国にとって何がメリット・デメリットとなり、さらにはTPPの実現がその後の環太平洋経済圏全体、アジア経済圏全体、ASEAN経済共同体、世界経済全体にとってどのような影響を及ぼしうるのか、この先行きを考えていくことでしょう。

特に当研究所は、TPPの行方が、中国も参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)と、ASEANにとって大きなマイルストーンになる来年の東南アジア経済共同体(EAC)発足にどのような影響を及ぼすのか、どのようなビジネスチャンスを作り出すのか、それが域内経済で最も大きな影響力を持つインドネシア華人資本家達にとってどのような意味を成すのか、という点に尽きます。

その観点から、先週のオバマ大統領来日とTPP合意延期という結果が確定した直後に、マレーシアのムスタパ貿易産業相が「両国はTPPでは合意に至らない」と記者会見でコメントしたことは、ある意味ショッキングでした。

マレーシアは、TPPオリジナルメンバー4カ国(ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイ)に次いで、日本よりも早い段階でオーストラリア、ペルー、米国、ベトナムなどと同時期からTPP協議に入っている「第2古参組」ですが、米国が強引に交渉をリードする近年の経緯に対して違和感を示し始めており、ベトナムとともに「TPP離脱可能性の高い国」と言われていました。

ベトナムとマレーシアは、特に国営企業に対する保護的産業政策が強い国であり、米国にとってはTPPによって各国国営企業が独占していた国内市場に入っていけるメリットがある一方、両国にとっては国営企業改革は大きな痛みを伴うことが想定されることから、国内からはTPP参加に対して厳しい声が多く出されてきました。

そんな中、ベトナムのディン・ティエン・ズン財務相が来日し、ベトナム国営企業の民営化を加速させるために外資の出資比率を今までの最大49%から60%まで引き上げることを検討を開始したことを公表したことは、大きな衝撃でした。

実際には、まだベトナム国内での検討と議会承認などが必要とされますが、財務相が方針を表明したということは大きなコミットメントを意味しており、ベトナムの政治構造を鑑みれば条件付にはなるかもしれませんが、おそらく表明された方向どおりで決着が付くのではないかと言うことは容易に想像できます。

これは、ベトナムがTPPに対して死に物狂いで喰らいついていくぞ、と言っているのも同じであり、マレーシアにとってはトランプのジョーカーをベトナムから出されたような、そんな衝撃的出来事でしょう。
こうなると、この衝撃を市場で誰が一番喜ぶかと言うと、日本や米国のメーカーでもありますが、実はTPPに参加する12ヶ国以外の国々、たとえばタイやインドネシアの華人財閥なども、大きく身を乗り出してソロバンをはじき始めたに違いありません。なぜなら、ズン財務相は「日本からの投資は最優先だ」と述べてはいるものの、他国からの投資を排除するなどとは一言もいっていません。

日本や韓国以外のアジア域内の資本としては、ベトナムに対する投資は台湾がドイモイ開始後から先行し、中国が近年は大きな投資を連続的に行っています。しかしながら、ベトナムは中国からの投資に対して敏感な部分があり、すべてを歓迎している訳ではありません。ここ数年では、タイのCPグループが資本力と華人ネットワークを生かして、ベトナムの資源と消費材などを中心に、じわりじわりと影響力を強めていっています。東南アジアでは有名な百貨店「ロビンソン」も3月にハノイに開店し、ホーチミンにも10月開店予定だそうです。

TPPの行方とアジア経済圏への影響、そしてその中で華人資本がどのように暗躍するのか。ますます目が離せない状況になってきました。

来年はASEAN経済共同体発足も重なり、本当にエキサイティングでもあり、成長する市場の取り合いさえ発生する戦国時代にもなりそうな気配です。


( tknaito 研究主幹 ) Copyright ?? tknaito 1999-2014

先週は、世界がリーダー不在の「Gゼロ」状態で混沌としていることを、改めて認識した機会でした。

ワシントンで11日まで開催されていたG20財相・中銀総裁合同会議では、驚くべきことに共同声明で米国議会が国際通貨基金(IMF)改革案を批准しないでいることに対して「深く失望」というこれ以上ないレベルの強いコメントが共同宣言に盛り込まれて採択されました。G20で米議会が名指しで批判されるのは、異例の出来事です。

2008年のリーマンショックを受けて、4年も前の2010年に、G20で世界経済の安定化には旧来の欧米主導型プレトンウッズ体制によるIMF運営ではもはや現実的ではないとして、BRICS5か国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に代表される新興国によるIMFへの出資比率を上げることを容認しました。同時に、出資比率に見合う正当な権利として発言権を認めることをG20では基本的に合意して、過去4年間に参加各国で批准手続きが進んでいました。

しかしながら、IMFの「筆頭株主」である米国では、議会がBRICSを始めとする新興国が急激に発言権を大きくすることを許容すると米国の利益が損なわれると恐れ、今まで批准を避けてきました。

米国の批准遅延は、大国のエゴだとずっと非難されてきましたが、ここに来て米国自体のマクロ経済が安定してきたことに基づき、FRBがリーマンショック後から継続してきた量的緩和(QE3)縮小を今秋にも終了し、来年前半には利上げに踏み切るのではないかというニュアンスの発言をイエレン議長が3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で示唆したことからも、ブラジルのマンテガ財相やインドのラジャン中銀総裁らが「米国は自国の金融政策が世界経済に与えるネガティブな影響を全く無視しており、無責任きわまりない」と強い批判を展開しています。

今回G20における議論でも、前IMF調査局長でシカゴ大学教授でもあったラジャン総裁を筆頭に、国際金融界の論客面々が強く発言を踏み込んだことが、異例の共同声明採択につながったようです。

時を同じくして、ワシントンのほぼ裏側にあたる中国海南省の博鰲(ボーアオ)にて4月8〜11日まで開催されていた「博鰲アジアフォーラム」にはアジアの政財界要人が3000人以上集まり、中国の李克強首相が基調講演を行いました。

博鰲では、3月の中国貿易統計も発表され、市場予想以上に輸出入が落ち込んでいることが世界中の市場にマイナスインパクトを与えました。日経平均株価も例にもれず、4月11日午前の場で300円以上下落し、大きく動揺しました。

「博鰲アジアフォーラム」は、中国の呼びかけで「世界経済フォーラム(WEF)のアジア版」を目指して2001年に始まったものであり、日本も福田元首相が全面的に協力するなどしていますが、WEFやG20と比較するにはまだまだレベルが段違いに異なります。

それでも、中国のトップが毎年メッセージを発する貴重な機会として市場関係者は注目しており、今年も前述の貿易統計落込みに加えて、李首相がTPPについて「中国はオープンな態度だ。公平で開放的な貿易環境につながるなら、TPPが成果を上げることは望ましい」と自由貿易に対する応援ともとられる発言をしたことが注目を集めました。

今月初め、習近平国家主席がドイツ訪問時の講演で「中国は他国の制度はまねしない」と述べて、経済改革は進めるものの、欧米型民主主義を念頭においた政治改革は真っ向から否定した事実を踏まえると、今回の李首相による「自由貿易歓迎」と習主席発言の「共産主義の堅持」が本当に持続的に両立していくのか、不安を覚えるのは当研究所だけではないはずです。

要すれば、米国も中国も、自国の政治経済体制における持続可能性に大きな不安を抱えていることがこれら一連の事象から改めて浮き彫りになっている、と言っても過言ではないと思います。

中国の場合、それでもまだ世界の中で際立った経済成長と米国債に代表される巨額の債権と外貨を保有しているので、自国の不安をかき消すためにとにかく新たな国際体制を構築することに力点を置く戦略に出ています。それは、中国が中心となってアジア各国のインフラ建設を支援する「アジアインフラ投資銀行」設立構想であり、世界銀行・IMF体制に代わる「BRICS開発銀行」設立構想であり、「博鰲アジアフォーラム」そのものでもあります。

米国はと言えば、オバマ大統領は国内ではレームダック(死に体)化しているという認識がほぼ一般化しつつあり、国際政治学者のイアン・ブレマーが予言したとおり「Gゼロ」の状況を作り出した戦犯とも言われています。それは、昨年のシリア攻撃の議会却下、そして今年のクリミア半島問題を巡るロシアのプーチン大統領に対して有効な手立てが打てていない実情が如実に表しています。

G20と博鰲アジアフォーラムは、G2と言われるべき米中それぞれの国で同時期に開催され、本来であれば世界経済のトップ2である両国が大きくスポットライトを浴びる晴れ舞台であるはずであったのに、今年は両国にとって全く意に反して「米中は大丈夫なのか」と世界中が改めて意識したイベントとなってしまいました。

このような中で、インドネシアでも4月9日にジャカルタ市場の総合株価指数が3%超下落して唖然となりましたが、この背景には全く別の理由がありました。

それは、9日に投開票されたインドネシア総選挙で、当初予想では25%程度は得票できるのではないかと考えられていた最大野党・闘争民主党の得票率が、単独で大統領候補を擁立できる水準には届かない19%にとどまったという報道がなされたことに由来します。この「予想外の展開」に市場関係者からは、7月9日に予定される大統領選は決選投票までもつれこむ可能性が高くなり、政治的に不透明な期間が長くなるという連想が働き、インドネシア株や通貨ルピアが急落しました。

インドネシア国内事情としての選挙の行方は、予断を許さない状況が続くのは確かですが、大統領候補として最有力と言われている人気政治家のジョコ・ウィドド氏(現ジャカルタ特別州知事)が所属する闘争民主党が第一党に返り咲いたことはとりあえず想定通りの結果であることから、最悪の事態は回避できているのは事実です。したがって、確かに大統領選が少し混乱する可能性があったり、仮にジョコウィ氏が大統領にすんなり当選できても議会で野党が連携して政策を邪魔することで混乱が起こる可能性はまだまだ有り得ますが、少しずつ前に進んでいると言えるのではないでしょうか。状況はよくモニターしなければなりませんが。

G20と博鰲アジアフォーラムに代表される米中2大パワーの影響力低下は、一時的かもしれませんが、世界にとっては大きなリスクです。こういう事態が続く中で、投資ポートフォリオをどう構築していくのかは、至難の業です。

一方、インドネシア市場も国内政治事情で一時的に混乱しているように見えますが、おそらく華人資本家達はこの現象をしたたかに見ており、最悪の事態(闘争民主党が第一党を取れないこと)は回避できているのだから株価や為替が大きく下落したのは一時的な動揺であり、今後の状況次第で反発は十分に期待できるであろうことから、逆に現在は今後の大きなリターンを狙える底値の投資機会だ、と捉えていると考えられます。

マクロをとらえ、機会を緻密にうかがう。これが、典型的な華人資本家的発想です。

( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2014

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