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駅前は、かろうじて舗装された広場になっていた。広場のアスファルトにはそこかしこに亀裂が走り、 そこから雑草が伸び出ている。 広場と言っても、バスが2〜3台停まれば一杯になってしまう程度の広さだ。実際そこはバス乗り場ら しく、錆びたバス停が隅にぽつんと一つ佇んでいる。 しかし、広場にはバスはおろか人一人の姿もなく、やけに広々として見える。 南中からやや高度を下げた太陽がうす黄色く広場を熱し、シワワワワワ…とここでも蝉の声が空気を 満たしている。 バス停の向うに、電話ボックス2つ分程の大きさの木造の小屋があり、ガラスに古めかしい書体で 「所内案光観」と書かれている。右から書くと言う事は、相当昔からここにあるのだろう。白く塗られた 板壁はやや煤けて見える。 駅前広場を囲むように数件の民家が立ち並び、中には食堂や、雑貨屋らしき店も並んでいる。 どうやら、この山間の中心的集落の様だ。観光案内所があるということは、今は寂れて見えるが、 昔はそこそこに観光客を集めていたのだろう。知られていない秘湯や珍観奇観の類に巡り合えるかも しれない。私の好奇心が疼きだした。 試しに、観光案内所を覗いてみると、中は半畳ほどの畳敷きで、隅に書類棚や茶箪笥が置かれて いる。その生活感から、まだ観光案内所として機能しているらしい事に少々驚いた。 声をかけるまでもなく、誰も居ない事が判るが、座布団の脇につい今まで口にしていた風に湯飲み茶 碗が湯気を上げている。 どのみち、近在の人がやっている案内所だろうから、何か急に用でも思い出し、自宅に戻ったのかも しれない。それとも、明けても暮れてもやって来ない観光客などにはとうに見切りをつけており、 その辺の民家で茶飲み話でもしているのだろうか。茶をそのままにしてある所から、しばらく待てば 帰ってくる気があるのだろうが、私はとりあえず案内所を離れて、食堂を覗いてみる事にした。 早めの昼食を駅弁で済ませていたのだが、腕時計が午後2時を指すのをちらと見ると、急に空腹 を覚えたからだ。 広場を横切り、白っぽく脱色しかけた紺色の暖簾に「めし処」と染め抜いてあるのを確認した私は、 木製の引き戸をカラリと開けた。 当然、いらっしゃいなどと声が掛かると思っていたが、拍子抜けな事に、店内からは何の反応もなかっ た。安手のテーブルが三つほど並んだ店内は他に客も無く、しかし、壁際に置かれたテレビの電源は 入っており、昔見た記憶のあるドラマが再放送されている。 扇風機がきしきしと首を振りながら店内の空虚な空気をかき回している。どうやら、やはり営業中では あるらしい。店の一角には、小さな本棚に雑誌類が詰め込まれていた。 すみません、と厨房に声をかける。無言なので、昼寝でも決め込んでいるのかと思いながら、中を 覗くと、誰も居なかった。古びてはいるが、使い込まれた鍋などの調理器具がやや雑然と棚に置かれ 壁に掛けられている。それぞれが何十年もここに居るのだという存在感を示し、これでも、使う人に とっては、手を伸ばせば目的の器具に達する様に巧に配置されているのだろう。 まな板の上には、何故か切りかけの胡瓜や白菜などが放置されていたが、それらはつい今しがた畑 から獲ってきたばかりの瑞々しさを残していた。どうせ、客などめったに来ないだろうし、馴染みの客先 へ出前にでも出ているのだろう。 手持ち無沙汰になり、取り敢えず壁に貼られた品書きを眺める。 どれも変色してはいるが、値段の部分だけはやや新しい紙が上貼りされており、この店もご時勢に合 わせて価格を改定している事を忍ばせている。どの品もやはり都会と比較すると相当に安い様だ。 定食類には生姜焼きやとんかつ、焼き魚などごく当たり前の品名が並び、何かご当地ならではの料 理が無いかとの若干の期待はすぐに裏切られた。 麺類もラーメン、そば、うどんとありきたりのものだ。その先は惣菜類が名を連ね、ビール、酒と続く。 地酒と思われる銘柄が二つ程あったので、夜は地元の人達が集う飲み屋になるのかもしれない。 民宿の一軒でもあれば、そこに宿をとってここで一杯やるのも良いかもしれない。探せば恐らく一件く らいは宿屋もあるだろうと期待が持ち上がり、そうだ後であの案内所で聞いてみようと、ここでやっと 本日の計画らしきものが出来上がりつつあった。 しかしさて。半刻過ぎても、店の人は現れない。何となく、泥棒に入って潜んでいる様な、居住まい が悪い気分になって来たので、暖簾をくぐり直して広場に出た。隣の雑貨屋にも人の気配は無く、店 先のたらいの中で氷水に漬けられたラムネが涼しそうに揺れているだけだった。 観光案内所に戻ってみても、案内係は戻っておらず、湯飲みの茶はとうに冷めてしまっており、すでに 湯気も消えていた。 一体この集落の人々は何処に居るのだろうか。滅多に余所者が来ないものなので、全く無防備に店 を空にしているのか。しかし、この駅に降り立って小一時間が過ぎているが、通りを歩く人影すら目に していない。考えてみると、本線の駅からこっち、人の姿を見ていない事に気がついた。 ここまで乗ってきた電車ですら、運転士の姿を見た憶えはなかった。まさか、無人で走る電車である筈 も無く、運転台に立つ後姿位は目にしていた筈だ。私が意識していなかったので、記憶に残っていな いだけなのだろう。しかし、まさか…。 (つづく)
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旅の怪
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何かある、
きっと何かある。。。(@@)
2009/8/31(月) 午後 6:21
だんだんワクワクしてきたぁ〜!!by旦那
2009/8/31(月) 午後 11:03
((o(^-^)o))ワクワク♪
2009/8/31(月) 午後 11:07 [ イレイズ ]
透明人間の村…なワケないかw
2009/9/1(火) 午後 1:48