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ずき、と強烈な視線が背中に突き刺さった様な感触を受けた。それもひとつやふたつではなく、何人も の人間に凝視されている様な。 振り向いても、見回しても、やはり人の姿はない。 しかし、あのカーテンの閉まった窓…観光案内所の中…雑貨屋の店奥…無人のバスの中…そこかし こから射るような視線を感じる。 気のせいだろう。そうに決まっている。運転手が消えた事で、少々神経が過敏になっているのだ。きっ と良く探せば、隠し戸等があり、土塀の向うに抜けられるのだろう。親切な運転手はそこから裏手に 回って村人を呼びに行ってくれているのかも知れない。 しかし、そんな理屈は最早私のささくれ立った神経を和らげる事は出来ず、殆ど一目散に駅舎に向 かった。 その時、広場に降り注いでいた蝉の声がピタリと静まり、信じられない程の静けさが空気を凍らせた。 信じられない静寂が私の身体を包んだ。 叫びだしたい衝動を必死に抑えながら、駅舎に入るとそこで遂に理性の琴線がぷつりと切れた様だ。 自分の喉から絞り出る悲鳴を、何故か遠くで聞いている様な錯覚に陥りながら、私は両手を無意味 に振り回し、頭を掻き毟った。 何故なら、駅舎の内部はつい先程降りてきた時とはまさに様変わりし、何年も風雨に晒されていたと 思しき完全な廃墟になっていたからだ。ベニヤ板の壁は所々で破れ、床面には割れたガラスや空き缶 や古タイヤなどが雑然と散らばっている。 ホームに駆け出ると、そこには線路は無く、雑草の生い茂ったバラ石にわずかに鉄道の痕跡が残され ているだけだ。 叫びながら広場に駆け戻ると、そこはもはやアスファルトが雑草に覆いつくされ原野の様相を呈して いる只の原っぱだった。雑草の茂みの中に、錆びて朽ち果てたバスが頓挫している。 周囲の建物も、其々に綻び破れ朽ちかけた廃屋となっている。 雑草の中にうずくまり、叫び続けた私に、ようやく判断力らしきものが戻ってきたのは30分も経ってか らの事だった。 まず、何としてもここから脱出しなくては。何しろ、道路も途中で途切れ、その先は陰鬱とした森に なっている。 それから、周辺の地図も持参していない私は、太陽の方角で見当をつけ、兎も角道路がありそうな 方向に向かって、森を抜け、川を渡り、谷を越えた。 命からがら、ようやく山の中ではあるが車が通りそうな舗装道路に辿り着いたのはもう日が落ちた後 だった。精も根も尽き果てた私は、ただただ路傍に座り込み、車が通りかかると言う僥倖を待つのみだ。 何時間そうしていたのか、半ば眠りかけていた私の耳に、遠くから響く車の音が飛び込んできた。 森の木々を縫ってヘッドライトの灯りが近づいてくる。屋根にも灯りが見える事から、タクシーがやって 来た事が判った。 こんな山の中に、しかも夜中にタクシーが走るものなのか。しかしその時の私は、いやきっと山奥の 集落に客を送って行った帰りの車だろうと合点を決め、よろよろと立ち上がろうとした。しかし、自覚す るより更に疲れきっていた私は、立つ事すらなかなか覚束かず、弱々しく腰を上げようとしているうち に、灯りはますます近づいてくる。 ああ、もう目の前を通り過ぎてしまう…と、その瞬間、人間の潜在能力とは凄まじいもので、私はタク シーのトランク付近に飛びつき、バンパーを足がかりに、必死に手を伸ばし…。 しかし、そこで私は力尽き、道路に転がり落ちてしまった…。 幸い、私は大きな怪我も無く、翌朝通りかかった車に救助され、まさに九死に一生を得る事ができた。 あの謎の体験の恐怖も薄れ掛けてきた頃、動画サイトに「タクシーに追いすがる幽霊」なるものが 投稿されていると聞き及び、もしやと思い見てみたが…これは恐らく… (こんだけ長く書いといて、オチがこれかい!!) |
旅の怪
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最初から読んできましたが、面白いお話でしたね。
それにしても、オチがこうなるとは・・・(笑)
2009/8/31(月) 午後 4:40
すみませんでしたぁ(苦笑)
2009/8/31(月) 午後 5:35
こりゃ1本取られました。
お見事。(^−^)
2009/8/31(月) 午後 6:33
フム。by旦那
2009/8/31(月) 午後 11:11
辿り着けて良かったですね〜
…え? オチ? (笑)
2009/8/31(月) 午後 11:24 [ イレイズ ]
むふふふふふ(;^ー^)ノ
タクシーの文字が出てきて気付きましたぁ☆
2009/9/1(火) 午前 0:34
はい、ありがとうございました。
お話ごとの”ジ、ダ、イ”のお三方と話し手のTOさんにまるで、ツリーハウスの”ぼくたちの秘密基地”で「あのね〜・・・」と、一生懸命話す子に「うんうん、それで・・」とのめり込んで聞く少年達を見ましたね。そして、ズーッと黙っていたテとカのお二人が、最後に「なぁーんだ、そういうことかよー」って、口を開く。
6人組の少年達。かわいいですね。
2009/9/1(火) 午前 1:32 [ gol*enl*ly3* ]
Σ(爆゚∀゚):;*.':.ガッハ─────ッッ!!!
TOさんァ'`,、,、ァ ((((ミ(ノ∀`*)ノ彡))) ァ'`,、,、ァ
吹いた!!!
んも〜〜〜面白すぎます((((((((((ノ∀`)・゚・。 アヒャヒャヒャヒャ
途中まで世にも奇妙な・・・でドラマ化を考えたのに!!
((*´゚Å゚):;*.':;ブッ 傑作ポチ♪
2009/9/1(火) 午前 8:18
はじめから幽霊だったって事でしょうか?
なぜ周りが急に廃墟に?幽霊が狐に化かされた?
わからんちんでごめんなさい(汗)
で、駅名は何だったのでしょう?
2009/9/1(火) 午後 0:52 [ ま〜くん♪ ]
そうか〜、あの動画の人の正体はこの人だったのか〜〜www
駅名を考える友の会を発足しましょうか〜w
「的士」とかw
2009/9/1(火) 午後 1:55
なんか『世にも奇○な物語』みたい・・・(^^;
これでちょっとしたショートムービーが作れそうですね
2009/9/1(火) 午後 4:24
皆様、長々と与太話にお付き合い下さり有難うございましたと同時に、申し訳ない…。
駅名は、謎めかして伏せたのではなく、単に適当なのを思いつかなかっただけです…。
2009/9/1(火) 午後 5:19
やっぱり!! だろうな〜と思っていました。
そういうところが、いいのよね。だから、TOさんって、ファミリアーなんだな〜・・・
2009/9/1(火) 午後 10:43 [ gol*enl*ly3* ]
gol*enl*ly3* さん、ファミリアーと言う評価は初めてお受けし、嬉しい限りです!!私は単に自分の想像力の限界かと思っておりましたが…。
ちなみに、私が最初に就職したのは「ファミリア」と言う車を造っていた自動車メーカーです…。
2009/9/1(火) 午後 11:43
なんか好きです、この話。2回も読んでしまいました〜。
寂れた駅前の風景が脳裏に浮かんできます。
2010/5/20(木) 午後 10:42 [ - ]
hig*m*ru*01さん、有難うございます!!
昔の記事を読んで頂けると、何だかとっても嬉しいです。
2010/5/21(金) 午前 10:04