一度では長いので、続き物にした怪

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捕囚の山2

「―でも、鍵とかかかってないのかな?」

入るつもりは満々で来たのですが、やはりいざとなると腰が引けた私は、思わず言い訳がましい言葉を口

にしました。すかさずBさんが、「いや、ここはいつでも入れるように、鍵はついてない筈ですよ。第一

毎日こんな所まで鍵の開け閉めをしに来るのも大変だろうし」と小声でAの後押しをします。


私は、幽霊や崇りとかを信じていたり恐れていたりしていた訳では無いのですが、何となくしかし強く、

(小屋には入らない方がいい…いや、入ってはいけない。)そんな気がしたのも事実です。

しかし、Aは小屋の入り口にずかずかと近づき、引き戸の取っ手に手をかけながらついとこちらを振り返

り、目線で(開けるよ?)と同意を求めました。

反射的に頷いてしまった私は、 からり と意外と軽い音をたてて開いた入り口の奥の闇を否応なしに注

視する事となりました。


AとBさんがサッと光を差し入れ、私もそれに倣って懐中電灯を小屋の中に向けました。その瞬間…


うっ…


―と、三人が三人とも、息を呑む。


小屋の中には、幾つかの萎れかけた花束と、線香を焚いたらしい小さな香台が置かれておりました。

懐中電灯の頼りなげな明かりの中を、生気を失った花々の色が淡く濃く儚げに浮かび上がっています。


今更ながら、本当に今更ながら、ここで一家が亡くなった…どんな事情があったかは知らないが、ここで

何人かの人が亡くなった…その重い事実が私にのしかかってきました。来るべきではなかった。

私は、(おい、帰ろうよ)と言ったつもりでしたが、いつの間にかカラカラに乾いた口の中で舌が動か

ず、全く声になりませんでした。


Aは、心なしか震える声で、しかし気丈を振る舞いながら「入ろうぜ」と言いながら、またずかずかと小

屋の中に踏み込んで行きました。Bさんも、何故か無言で小屋の中に入って行きましたが、私はどうして

も足が動かず、正直言って立ったまま腰が抜けた様な状態になり、二人を制止する事も叶わず、その場で

立ちすくんでおりました。


それでも、好奇心からか、二人を案じてか、目は小屋の中を覗き込んでいます。そんな状態でも、二人が

照らす懐中電灯の明かりと、Bさんが途中のコンビニで買ってきた「〇ルンです」のフラッシュの閃光で

大まかに小屋の内部の様子がわかりました。

花束の置かれた土間の奥に小さなテーブルがあり、向かって右側には3畳ほどの畳敷きの(―いや、単に

板張りにござを敷いただけかもしれませんが)「こあがり」がありました。小屋の奥の壁、つまり入り口

と反対側の壁には障子がはまった窓があり、その障子は張り替える人も無かったらしく、ぼろぼろに破け

ておりました。


私は、こんな所まで来ておいて言える事でもないのですが、「おおー」とか「怖えぇ〜」とか言いながら

小屋中漁る様に懐中電灯を照らすAと、バシャバシャとフラッシュを焚きまくるBさんの行動がとても

信じられませんでした。


考えてみれば、ここは低山とはいえ人里離れた山の中です。何が起こっても、周囲数キロ以内には誰も

いない。心中小屋の恐怖感とはまた別の、孤独感みたいなものが私の身体を包みました。


こぢんまりとした小屋のこと、そうは言っても、ものの10分もすると二人は飽きてきた様で、そろそろ

帰ろうと言う事になり、私は少なからずホッとしたものです。帰りは往路のはしゃぎぶりも影を潜めて、

言葉少なに山道を下りました。それでも途中、Bさんが言った言葉を今でも憶えています。


「あのさあ、来た時から思ってたんだけど…全然、虫が鳴いてないよなあ…」


そう、私も薄々変に感じてたのですが、うるさい位に秋の虫が鳴く頃です。それが、リンとも鳴かない。

風も凪ぐ夜で、木々草々のざわめきも無い。ザッザッザッと私達が山道を踏む音と自分の息遣い以外には

鼓膜を刺激するものは何もありませんでした。

(何か、変だ、この山…)そう感じてしまうのは心中現場と言う日常離れしたあの場所に行ったからだ。

だから、過大に神秘性を感じてしまうのだ、と自分に言い聞かせておりました。


そうしてそそくさと山道を下りて来た私達が車に辿り着いた時、私はすっかりそんな事は忘れていたので

すが、Aが言いました。


「あれ、あの車がない」


ああ、そう言えば白いセダンが停まってたなあ…と、その辺りを見ても、車が無い。

「帰ったんだろ?きのこ採り…」―果たしてこんな時間(その頃はとっくに0:00を過ぎていました)

まできのこを採る人がいるのか?―そうも思いながらも、私は言いました。

Bさんは無言で、車に乗り込みました。


帰路、暗い林道の脇を心中した家族が歩いていそうで、実はとても怖かったのですが、そんなことも無く

私達は人家の灯りがある「日常」に戻り、私は二人を順次送り届け、自宅へと向かいました。


深夜でも交通量の多い市街地に入ると、先ほどまでの恐怖感は何処へやら、(結構ビビッてたよな〜俺。

Aにまた『お前、すげえビビリ性だったじゃん』とか言われるな〜)と、独り苦笑をしておりました。

カーステから流れる当時流行っていたclassの曲が、車内を明るくしていたのを今でも憶えています。


そうです。その時は、まさかあんな事になるとは思ってもいなかったのです。

ただ単に、暇潰しと武勇伝創りの肝試し…そのつもりだったのですが。

やっぱり、皆さん、生きている人間が行っていい場所と良くない場所はあります。


それを実感した最初の出来事は、あの場所に行ってから数週間後、そんな事も忘れかけていた頃にAが言

った一言でした。




Bさあ、あの後どっか行っちゃったきり、帰って来ないらしいんだ…行方不明なんだって




その時から、それまで私の過ごしてきた、のほほんとして何の変哲も無く平和で当たり前な生活が、

ガラガラガラと音をたてる様に崩れていったのです。


(つづく) 【続きはコチラ



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うわわ〜
これかなり怖い(^^;

確かに人が亡くなった所を遊びで入ってくなんて本当に失礼なことですもんね
TOさんも心霊スポットの取材は気をつけないと・・・

2009/12/2(水) 午前 7:06 悟

おぉー!
そう来ましたか!

続きはCMの後、ですか?

2009/12/2(水) 午前 8:41 [ - ]

予告編は無いのですか〜〜?(笑

Bさん、呼ばれちゃったんですかねぇ。。

2009/12/2(水) 午前 11:13 ☆かっちゃん☆

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いや〜これまた怖い話です。

この辺の引張りがさすがと言うか、絶妙ですね(^^)
僕は良く微妙と言われます。

夜はとても読めそうもありません。
続きが気になります。

2009/12/2(水) 午後 0:35 [ ま〜くん♪ ]

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おぉぉ〜!!by旦那

2009/12/3(木) 午後 10:43 おかっち


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