旅の怪

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船旅2

そうこうしている内に船は、中継地であるロードス島の桟橋に着いた。パブで飲みはじめたハリーは全く興味がないようで、追加のビールをオーダーしている。あらかじめ貰っておいたランディングカードとパスポート、いくばくかの現金を身につけ上陸する。小さな港を取り囲むように城壁が建っていた。その向こうには古い石造りの城が見える。海岸から城壁をくぐると小さな町があり、これまた小さな広場に面した雑貨屋でタバコと食料を買いだす。滞在時間は1時間しかないので、これと言って何も見て回れない。しばらく砂浜でボンヤリ海を眺めるだけだった。船に戻ると、ここから乗ってくるらしい身なりのよい客が何人かいた。彼らはアッパーデッキの客だ。ランディングカードを係りのおっさんに渡す時、雑貨屋で買った袋も改められた。やる事はきちんとやっている。
 
船は3時過ぎに出航。藍色に深く澄んだ海面に、またイルカが跳ねている。水面下を泳ぐイルカの流麗なシルエットも透けて見えた。甲板の手すりには真新しい塩が結晶している。寝床でしばし昼寝すると、船は夕焼けに染まっていた。昼間は甲板で日向ぼっこを決め込んでいた連中もギャラリーに戻り、また賑やかになってきた。ハリーは、ずっとパブで飲んでいたらしく、ベロベロになって、ガターンと大きな音をたてて椅子から崩れ落ち、そのまま眠ってしまった。ホールには酒がまわり、兄ちゃん達がギターを鳴らし、どうやらアムステルダムの奴が持ち込んだらしきハッシシの煙が漂い、皆手を叩き、空き缶を鳴らして騒いでいる。そんな中で、じっと本を読む奴、ととっと寝る奴、飯を食う奴、考え込む奴、日記を書く奴、女を口説く奴と、好きな事をして寛いでいる。ふと見ると、暗い船窓を鏡代わりにして散髪をしている奴までいた。私も、イタリア人と、アメリカ人とユダヤ人とパレスチナ人と一緒に飲んで騒いで、そして寝た。
 
夜が明けると、日本で言う大晦日の日。朝方まで騒いだのに、8:00には目が覚めた。今日もいい天気だ。ふと見ると、ハリーはすでに飲んでいる。甲板に出てみると、名も知らぬ島が白い岸壁を見せながら通り過ぎていく。ようやくみんなも起き出し、またギャラリーが賑やかになってきた。トイレの脇に設置されていたシャワーを浴び、久々にサッパリした。11:00、キプロスに入港。予定で13:00の筈だったが、船脚が速かったらしい。ランディングカードを貰う時、停泊時間を聞くと、18:00までに帰って来いと言う。ドラクマも使えると言うので、余った小銭減らしに丁度いい。港の周りには何も無く、まだ新しい街道をてくてくと歩く。やたらと車屋やバイク屋が多い。何となく日本の郊外に似ている。「Town centre」の看板を頼りに5Kmも歩いて、やっと市街地に入った。古い家屋の残る旧市街と言った趣。土産物屋やカフェもある。その先には古城、その先には海。真っ青な海を行きかう貨物船を眺めながら、日光浴をする。片手には船から持ち出したビールがある。何時間か眠ってしまったらしく、潮風に目を覚まし、街道沿いの果物屋で新鮮なオレンジを買って船に戻った。今年最後の夕陽が港の向こうに沈み、船に明かりが灯る。いつもの如く、いつの間にか岸壁を離れた船は、星降る海に漕ぎ出した。
 
大晦日のサービスなのか、ギャラリーにも夕食が配られた。想定外のプレゼントに皆大喜びでかぶりつく。それを食い終わった頃、皆が集まりだした。ワインとフルーツカクテルがまわり、だんだんと盛り上がってくる。私も、イタリア人とアルメニア人とポーカーをしたが、イタリア人にタバコを全部巻き上げられてしまった。年明けの瞬間、ギャラリーの盛り上がりは最高潮に達し、男女を問わずハグとキスとハッピーニューイヤーの嵐が巻き起こった。それからみんな踊りだし、ラバンバを大声で歌いながら、船内を練り歩き、船長主催のニューイヤーパーティーで上級船客たちがダンスを踊っているホールにまで雪崩れ込んだ。そうして船が沈むかと言うほどの大騒ぎを繰り広げた上で、初日の出はイスラエル領海上で迎えた筈だが、それを見たものは皆無だっただろう。
 
 
初夢は泥酔の彼方に消え、それでも私は朝早くから下船の準備をしていた。イタリア人も、割としゃんとして荷をまとめていた。ふと見ると、ハリーの姿が無い。姿どころか、ハリーの寝床だったソファーは、何事も無かったように、綺麗サッパリとしている。あの男がこんなに早起きする訳はないが…。昨夜もハリーは…あれ?昨夜あの騒ぎの中にハリーはいたっけ?イタリア人に訊くと、そう言えば、見なかったなぁと言う。窓を覗くと、ハイファの町並みが迫っている。あれがイスラエルか…と感慨にふける間もなく、7:00丁度に船は接岸した。タラップは使われず、車が並ぶガレージから降ろされた。ほとんど真っ先に降りた私とイタリア人は、パスポートコントロールに入る前でハリーが降りてくるのを待っていた。お互い急ぐ旅でもない。最後にお別れの握手くらいしたかったのだ。
 
しかし、彼は降りて来なかった。
全ての乗客が居なくなり、係員から促されて私達がその場を立ち去る時まで。
彼は降りて来なかった。

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んー、つまりハリーはキプロスに置いてきぼり食らっただろうっていう、トゥーさんの実体験?w

2011/3/31(木) 午前 7:47 [ リットリオ ]

酔っ払って船から落ちて、本来のイルカの姿に戻った、イルカ王子の話ですよね?(・▽・)

2011/3/31(木) 午前 9:41 ☆かっちゃん☆

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リットリオさん、殆ど実体験です。

2011/4/1(金) 午後 10:30 TO7002

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かっちゃんさん、あのオヤジが王子とは思えませんが、まあそう言う事にしておきましょう。

2011/4/1(金) 午後 10:32 TO7002


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