|
1997年2月。
50歳になるS氏は、郷里である、ある島に里帰りしていた。
自身、何十年ぶりかの帰郷で、妻子は東京においてきていた。
S氏は、二度とこの島の土を踏む事はないだろうと思っていたのだが、どうしても断れない事情があったのだ。
ある島とは、太平洋に浮かぶ、人口は1万に満たない離島としか、このブログでは言えない。
離島とはいえ、漁業と南洋果物の栽培によって、島の生活は豊かではあるそうだ。
観光地としても、客を呼べそうな資源は豊富にあるのだが、何故か島の人間は積極的ではなく、
村役場には観光課もない。島で、宿屋を営むものはほんの数軒しかいない。
つまりは、閉鎖的なのであり、島独自のしきたりや風習が島民をがんじがらめ
にしており、それが嫌で、若かりし頃のS氏は島を出たのだった。
妻子は今まで訪れた事のないS氏の故郷に興味を持ち、同行を求めたのだが、自身が捨てた故郷を
妻子に見せるつもりもなく、S氏は単独でこの島に帰って来たのだった。
どうしても、断れない、事情によって。
そうして、しばらくはこの島に居なければならないS氏が滞在したのは、親戚筋の家だった。
その親戚は、島では「本家」と呼ばれていた。
両親は、S氏が島に居る頃には他界していたので、そこに世話にならざるを得なかったのだ。
親戚筋とは言いながら、島を捨てたS氏への対応はまさに慇懃無礼で、つまりは招かざる客である事を態度で
ありありと示していた。そんな事は織り込み済みだったS氏は、趣味である釣りの道具を一式携えて来ており、
暇があれば、朝でも夜でも、釣りに出ていた。
あの、満月の晩、S氏は、島では殆ど唯一気の合う、親戚の男と夜釣りに出ていた。
その男をE氏としておく。E氏は、島の漁師だ。
島で、S氏に親しげなのは、E氏と、もう一人、本家の一人娘、今年で14になる女の子だけだった。
満月の晩は釣果がよいと言うのは迷信でもなさそうで、磯で振る竿には面白いように魚がかかったと言う。
夜半も過ぎた頃だった。満月もそろそろ西の水平線に近づいている。
E氏が思い出したように、S氏に声をかけた。
Sよう。さっきから気になってたんだが、あれは何じゃ。
E氏があごをしゃくった先は、右手の小さな湾で、その湾の真ん中に、銀色の、真ん丸い物体があった。
その物体は、湾のほぼ中央部にある、○岩と地元では呼び習わされている岩礁の真上に滞空し、
その高度はおおよそ20mほどと見積もられた。真ん丸は、○岩と比較すると、直径が10m程もありそうだった。
―何だ、ろうな?気球?かな…?
S氏はそんな風に返事をしながら、もはや自身の興味を、竿の先から、その銀色の真ん丸に移していた。
E氏は、何故かあっけらかんと、あれじゃろ、○岩の。と言って、豪快に笑う。かなり、酔っているようだ。
○岩には、伝説があって、太古の昔、神が○岩に降り立ち、子供をつくって、それがこの島の始祖になった
と云われている。酔ったE氏は、その神様の事を言っているのだ。
銀色の真ん丸は、そのつるんとした外皮を月明かりに照らされ、ただただ、○岩の上に浮いている。
E氏の言う様な、神がかった風には見えない。明らかに、金属製の工業物である。
S氏らのいる磯から、その真ん丸までの距離はおおよそ500mほどだったが、見る限りでは、継ぎ目や窓らしきも
のはない。一体全体何なのか。
巷で聞く、UFOと言う奴なのか。宇宙人が乗っているとか言う。
は。馬鹿ばかしい。S氏は、自分が妄想に駆られそうになっているのを自覚し、首を振った。
E氏も、何本目かの缶ビールを空けながら、ありゃ、UFOじゃないのかと言いながらも、苦笑いをしている。
つまりは、E氏も、どこから飛んできた気球か風船が、○岩に引っかかっているのだろうと、その程度にしか思っ
ていない風なのだ。
その時だった。
真ん丸が、音もなく、動き始めたのだ。
高度をそのまま保って、湾の奥、つまり、岸の方へゆっくりと動いていく。
S氏は、おい、動いたぞとE氏に言い、二人の目が真ん丸を追う。
真ん丸は、丁度、岸の上空に差し掛かった時、しばらく、たぶんおよそ4・5分、そのままじっとしていた。
明らかに、真ん丸は、何らかの意思を持って行動している様に見えた。
だから、S氏もE氏も、無言で、そのさまを見守っていた。
すると、真ん丸は、突然、オレンジ色の光の塊に姿を変え、ピィィィィィ……と、高周波の音を発しながら、
湾に面する道路に沿って、飛び去っていった。道路は、湾から外れると大きく右にカーブして山間部に入る
のだが、オレンジの光は、それを忠実にトレースして、山の向こうに消えて行った。
S氏は、オレンジ色の光が照らす森の木々が、一瞬、まるで夕日に染まる様に見えたと述べている。
ともあれ、S氏とE氏は、自分達が見たものは尋常ならざるものだが、それがこの島の一番大きな集落のある
方へ飛んで行った事に危機感を覚え、兎に角駐在に行こうと、そそくさと荷物をまとめ、E氏所有の軽トラ
を走らせた。
集落の中心部にある駐在所に着くと、黒山の人だかりが出来ていた。
集まった住人達は、不安そうな面持ちで、何事かを語り合っている。
彼らの言葉を聴いていると、皆、オレンジ色の光が集落の中を飛び過ぎるのを見たらしい。
やっぱり、あれ、かねぇ。
でも、昔じゃないんだから。
アメリカの、兵器じゃないか。
いや、あれじゃないのかねぇ。
―と、口々に、自分の解釈を論じている。
駐在は、電話にかかりきりで、その相手は恐らく本島にある警察署であるらしかった。
30分も待って、ようやく駐在が電話を置くと、S氏とE氏は、目撃した物体の情報を報告した。
最初は、胡散臭そうに見ていた駐在も、S氏やE氏が素性を明かすと、ああ、本家筋の方ですなと
真剣に話を聞いてくれた。
ふんふん。なるほどね。では、あれは、海からきたんじゃな。
と、初老の駐在は調書をとる。
その時S氏は、その集団から一歩引いたところに、見慣れぬ男が立っているのに気付いた。
島民全部を顔見知っている訳もないので、見慣れぬ、と言うのも変だが、その男の風体は、明らかに島民の
ものとは違っていた。その男は、暗い緑色のジャンパーを羽織り、そのジャンパーには、以前にはそこに張り
付いていたであろうワッペンを引き剥がした跡があちこちに残っている。
常夏といってもいいこの島で、こんな厚手のジャンパーを着る島民などいるはずもない。
観光客?―いや、この島に観光に来る物好きなどほとんどいない。
男の皮膚は浅黒く、背はさほど高くはないものの、がっしりとした体格をしている。
目が合った。その男は、明らかに自分が証言した話に関心を持っている。そんな目だった。
その目つきはひどく理性的で、何かしらの、特別な職業に就いている事を思わせる。
S氏は、人波を掻き分けて、その男の方へ行こうかしたが、男はすいと、その場を立ち去った。
(↓)連敗するにしても、負け方ってもんがあるだろう。
|

- >
- エンターテインメント
- >
- 超常現象
- >
- UFO




日本(と、いうか世界中)には「空からやってきた使者」系の伝承とか多いですよねぇ。
こういう伝承の正体が実は異星人だったらいいな〜。と、夢見てみる。
それにしても初め公開だったのに、非公開になっていたとは……^^;
あまり公にはできなさそうな話だったので、どこから圧力が加わって削除されたのかと思いました^^;
謎の男の陰謀ですね! もしや秘密機関?
2011/8/20(土) 午後 9:18 [ リットリオ ]
リットリオさん、MIBの脅迫によって、非公開にしておりました。
実はこれ、続き物の第2話なのですが、第1話はどこかに埋もれてしまっております。
2011/8/20(土) 午後 11:38
まっこと不思議な話ですねぇ〜…(・ω・`)
2011/8/21(日) 午前 8:57 [ エド ]
エドさん、そのうち続きを記事にします。
2011/8/21(日) 午後 1:57