旅の怪

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霧の湖

飲みの席で知り合ったFさんから聞いたお話です。
 
 
奥さんと結婚する前、今から30年ほど前でしょうか、二人で旅行に行った際に、とある湖に立ち寄ったそうです。
 
湖は、ダムでせき止められた人造湖で、天気の良い秋の休日の事、観光客や釣り人で賑わっていたそうです。
 
湖にはお約束のボート乗り場があり、Fさん達は手漕ぎのボートを借りて湖面に漕ぎ出ました。
 
爽やかな風が湖を渡り、Fさんたちは「ここから先は行ってはいけません」のブイのところまでボートを進め、
 
のんびりと歓談しておりました。湖面には、他にも多くのボートが浮かんでいました。
 
 
湖面に出て15分ほど。湿った風がふうと吹いたかと思うと、白い霧がFさん達のボートを覆いはじめました。
 
こんなに天気がいいのに霧?と思っているうち、霧はあっという間に濃く深くなり、向かいに座った奥さんの
 
姿もかすむ程です。「岸に戻りましょ」と怖がる奥さんを、「山の天気は変わりやすいからな。しばらく待てばすぐ
 
晴れるよ」となだめながら、Fさんは岸の方向に見当をつけて、ボートを漕ぎました。
 
 
さて、せいぜい5分も漕げば岸に着く筈なのに、しばらく漕いでも一向に辿り着きません。
 
「おかしいな。方向を間違ったか」と、Fさんも少し焦り始めた頃、妙な事に気付きました。
 
さっきから、あれだけ浮いていたボートに、一艘も出会ってない。
 
それに、さっきまであちこちから聞こえていた、子供連れ客の歓声が全く聞こえない。
 
霧に閉ざされ、シーンと静まり返った湖面には、Fさんの操るオールがたてる水音だけが響いています。
 
 
「あ、岸が見えた!!」とFさんの背後を指差す奥さんの声に振り返ると、霧の中にこんもりとした森のシルエットが
 
黒く見えています。「ああ、ホントだ。良かった…」とホッとしたのも束の間、どうも様子がおかしい。
 
近づいていくと、そこは岸ではなく、木々が生茂った小さな島でした。周囲がせいぜい数十m位の。
 
この湖に、島なんかあったっけ?
 
 
そこで、Fさんたちは異様な光景を目にしました。
 
バシャ バシャ… と響く水音に、霧を透かして見てみると、島の一角から、白装束を身につけた人達が
 
列をなして、湖に入っているのです。岸には、順番を待つように、十人以上の白装束が無言で並んでいます。
 
湖に入った人はそのまま歩み続け、湖面が足から腰、胸に達しても淡々と進み続け、遂に頭が湖面に
 
沈んでも、再び浮き上がって来る事はありませんでした。
 
(何かの儀式?集団自殺?一体、何をやってるんだ?)
 
あまりに現実離れした光景にFさん達が言葉を詰まらせていると、霧がますます深くなり、数m先の島影さえ
 
見えなくなりました。
 
 
恐ろしくなったFさんが、必死になってあてずっぽうにボートを漕いでいると、1分としないうちに、
 
さっきと同じ様に突然霧が晴れ、そこには観光客の歓声にあふれるのどかな湖の風景が広がっておりました。
 
驚いた事に、Fさん達は岸のすぐ傍まで来ていました。
 
湖を見渡しても、島などはひとつもなく、霧のひとかけらも見当たりませんでした。
 
 
キツネにつままれたような気分で、いや、実際にキツネに化かされたのかと真剣に思いながらボートを返し、
 
「この湖に、小さな島って、ありますか?」と係の人に聞いてみると、「いや、ご覧のとおり、島なんてありません
 
よ」。―「さっき、霧が出ましたけど、ここではよく霧が出るんですか?」 「へ?霧?いや、今日はずっとこの陽気
 
で、霧なんか出ませんでしたよ?」 
 
 
「早くここを離れましょうよ」と奥さんに急かされて、バス乗り場に向い、やってきたバスに乗ろうとすると…。
 
 
バスの中は、ずぶ濡れの白装束の人々で一杯でした。
 
 
老若男女の白装束が、髪の毛や袖口からポタポタと水滴を滴らせながら、それぞれが全くの無表情、無言で、
 
バスの席を埋めています。
 
一番奥の席だけが2つ、空いているだけで、まるでそこはFさんたちが座る為に空けてあるかの様でした。
 
「う、うわあ」 「ひいっ」 思わずバスから転げ出たFさん達の背後でバスは出発して行きました。
 
 
あのまま、バスに乗ってたらと思うと、心底ゾーッとしますよ…。
 
あんな、訳の判らない、気味の悪い思いをしたのは、後にも先にも、あれっきりですよ…。
 
Fさんは、そう言いながら、ぶるっと身体を震わせておりました。
 
 
(↓)その湖の名も聞きましたが、敢えて伏せます。ちなみに、「心霊スポット」として有名な場所です。
イメージ 1
 
 
 
 
 
 
イメージ 2                                       「あ、ああ…。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閉じる コメント(8)

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とりあえずダム湖のダム穴は怖い。まさに湖のブラックホール。

2011/10/5(水) 午後 8:39 [ リットリオ ]

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リットリオさん、想像したくないですね〜。

2011/10/5(水) 午後 9:44 TO7002

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TO様の「復活」楽しみに待って居りました。これで又、面白い話が読めると思うと嬉しいです。この「島」は彼岸に存在しているのですかね?霧に包まれたボートは、お二人ごと「あの世」に入り込んでしまったのでしょうか。お迎えバスに乗ってしまっていたら、このお話も読めなかったかも知れませんね。

2011/10/6(木) 午前 10:25 [ そまりん ]

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こっわ!!!
湖などは良く行くので思い切り想像してしまいました。

2011/10/6(木) 午前 10:51 minami♪

あ、ああ・・・、あ゙?(▼△▼ )←何故ガンたれる?(笑

・・・

そのダムが三途の川の役割をしていたのかなぁ??
でも、バス移動なら楽でいいかも。。( ̄〜 ̄;)

2011/10/6(木) 午前 11:40 ☆かっちゃん☆

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そまりんさん、復活と言うほどのものでもございませんが、またゆるゆると続けて行きます!しかし、あの世への入口って、結構あちこちにあるのかもしれません。湖が三途の川につながっていたのでしょうか?

2011/10/7(金) 午後 0:24 TO7002

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ミーさん、最近私は湖とか行ってませんねぇ。久しぶりにボートの上で一杯なんてやってみたいです。

2011/10/7(金) 午後 0:25 TO7002

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かっちゃんさん、あの世行きバスでもPASMOとか使えるのでしょうか。

2011/10/7(金) 午後 0:27 TO7002


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