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書きたいとずっと思っていたのですが、なかなか話してくれた本人の許可が得られませんでした。
が、本日やっと「書いていいよ。」と言ってくれたので、書きます。
彼は、金は無いけど夢があると、若い頃にアメリカに渡りました。
サンフランシスコの片隅、倉庫を改装したアパートに居を構えましたが、そこには世界中から同じ様な
若者が吹き溜まりの様に住んでいました。
一番最初に声を掛けてきたのは、浅黒く精悍な顔をした兄ちゃんでした。
「お前、チャイニーズか?タイランドか?まさか、エスキモーじゃないだろうな?」と。
「ジャパンだ」と応えると「そりゃ、随分遠くから来たな。所で、ジャパンはどこにあるんだい?」
と大笑い。そして「俺は、ジェッタだ。今からお前とはフレンドだ」と、また笑いました。
他の住人達とも馴染んでくると、ジェッタがそのアパートのリーダー的存在である事が判りました。
毎晩の様に誰かの部屋で飲んではギターを弾き、片言の英語で語り合い、喧嘩し、時には一緒に泣く。
そんな中でも、ジェッタは真ん中に座って誰かが買ってきた安酒を飲みながら、ただ笑っているだけ。
でも、そこに居る誰もが、まずジェッタに話しかけていました。
ジェッタと言うのは勿論本名ではありませんが、皆彼をそう呼んでいました。
ある時、コリアンの友達に、何故彼をジェッタと呼ぶのかと聞いたら
「さあ?俺が来た時からそう呼ばれてたから。」と。
誰も彼のの本名は知りませんでしたが、彼がプエルトリコから来たと言うことだけは皆知っていました。
ジェッタは、いつもブラブラしていましたが、ふと気付くと一月も部屋を空ける。
そして、またふと気付くと、いつの間にか帰ってきている。
そんな奴はミルキーウェイの星の数以上にいたそうで、誰も彼が何をやって食っているのかは
知らなかったし、詮索もしませんでした。
そんな日々が2年も続いた頃、ジェッタの姿がまた街から消えました。
皆、その内ぶらりと帰ってくるだろうと気にもしていませんでしたが、いつまで経っても帰ってこない。
そうして、3ヶ月も過ぎました。
そろそろ皆も心配になってきた頃、アパートの管理をするおっさんが1年ぶりにやってきて、
連れて来た若いの二人に命じて、ジェッタの部屋の荷物を運び出し始めました。
たまたま居合せた私の友人は「何するんだ?それはジェッタの物だろ?彼の許可はあるのか?」と
詰め寄りました。騒ぎに気付いた他の住人達も集って来ました。
管理人はジロリと住民を見渡し言いました。「彼の許可だって?彼がそんな事を出来る訳が無い。」
「何故だ!?」と聞くと
「彼はとっくにモルグ(警察の死体保管庫)から墓場へ行ったからさ。」
彼が何故そうなったのかは、調べようもありませんでした。
どちらかと言うと、警官の顔は見たくない様な連中ばかりだったので、警察に聞きに行こうとする者も
いませんでした。
そうして、ジェッタはいなくなり、何となく皆で飲むことも少なくなって来たある夜。
ジェッタが部屋を訪ねて来ました。すっと風がそよいだので振り向くと、そこに立っていました。
「よう。さよならを言ってなかったから、言いに来た。」と、初めて会った時と同じ笑顔で言いました。
不思議と、怖いという感情は全く無く、ただ再会できて嬉しかったそうです。
「…ジェッタ、この街に来て、最初の友達が君だった。」
涙声だという事に、彼が気付かなけらばいいがと思いました。
「光栄だね。夢を叶えろよ。」
そう言ってジェッタはロックしてあるドアを開け、出て行きました。
翌日も、誰も何も言わなかったが、何となく皆ジェッタの訪問を受けた、そんな雰囲気だったそうです。
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