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黒い男(完)

言葉を失ったAさんに、「これ、どうしよう、引っ張られて痛いんだよ…」と、Bさんは訴えます。

「だ、誰…何が引っ張って…」Aさんの声も震えています。

「見れねえよぉ    怖くてよぉぉ」

Aさんも、助手席側のドアミラーが見れません。怖くて。


Aさんが路肩に車を停めようとすると、Bさんが叫びました。

「停めんな!!入ってくるぞ!!」



パニックになりながら、Aさんは檀家になっているお寺の住職のおじいさんを思い出しました。


あそこにいこう、あそこに行こう、あそこにいこう


一心不乱に、隣のBさんさえも振り向かず、Aさんは寺へ急ぎました。

もうすぐ山門が見える、と言う時、Bさんが「○×△□!!」と聞き取れない叫び声をあげました。

無視して、お寺の駐車場に滑り込み、隣を見ると、Bさんが息を切らしながら左手を擦っていました。


言葉にならない顔でAさんを見ています。すっと差し出されたBさんの左手には、手形が

青あざになって残されていました。


一息ついて、Bさんが言いました。「引っ張られて、腕が千切れるかと思った…凄ぇ、痛かった…でも、

ここに着いたら、離れた…」そんな事をとつとつと語りました。


Bさんの腕が開放された事で、二人にも多少考える余裕も出来ました。

よく考えると、深夜の事。早寝早起きの住職が起きている訳もない。

どうしようか、どうしようか、と言い合っていたら、Bさんが叫びました。

「あ?アイツ!!アイツ、何!?」


反射的に目をやると、そこには、あの、夢に出てきた黒衣の男が立っていました


Aさんは、途中から確信していました。Bさんの腕を掴んでいるのは、あの黒衣の男だと。

やっぱり、そうか…。


そんな事を思いながら黒衣の男をただじっと見つめていると、その男は、何か心に決めた様に

自分達の車へ歩を進めはじめました。


成す術も無く、ただ身体を固めていると、黒衣の男はするすると音もなくボンネットに這い上がり

フロントガラス越しに二人を見廻しました。死人の顔色で…。



Aさんの記憶はそこで途切れました。



次に、二人が目覚めたのは、3日後。Aさんの自室に二人並んで寝かされていました。

Aさんの母親が言うには、あの日の夜、お寺の次男があんた達を連れてきたと。

それから大変だったのよ、と言う母親の顔は明らかにやつれていたそうです。


何がどう大変だったのかは残念ながらOさんも聞いていないので判りません。


因みに、その時お寺の住職さんから、何やら読めない文字を書いた木簡を貰ったそうで、あと3年間

は二人ともこの木簡を肌身離さぬ様にと言われたそうです。


更に、気持ちが悪いのは、住職の言いつけどおり木簡を身に着けていたAさんは今も健在ですが、

そうではなかったBさんは、その翌年、亡くなったと言う事実です。

死因は不明で、自室の布団の中で眠ったまま逝っていたそうです

(おわり)

黒い男 その3

事件から数ヶ月経ったある夜、友人のBさんが遊びに来ました。

Aさんは飲めないので話だけ付き合っていましたが、車で来たBさんは、端から泊まるつもり

だったので、くいくいと缶ビールを開けていきます。


言うともなしに、Aさんは一家心中が近所であった事をBさんに語りました。

Bさんは、他人事に面白がって「その家、言ってみようぜ!!」と言い出しました。

冗談じゃない、と、最初は相手にしなかったAさんも、Bさんがあまりしつこく言うので折れました。

てっきり歩いていくのかと思っていたAさんに、Bさんが「面倒くさいから、俺の車で行こうぜ。

お前、運転してくれよ」と言いました。


Aさんは仕方なく、Bさんの車のハンドルを握り、車では数分もかからない、例の家へ向います。

その家は既に住む人が死に絶えた為、灯りも点らず、周囲の住宅の中で一際暗く佇んでいました。

車でゆっくりと通り過ぎると「なんだ、別に普通の家だな〜」と、興味を失くしたBさんの言葉を受けて

「じゃあ、とっとと帰ろうぜ!!」と、Aさんはアクセルを踏みこみました。


ちょっとややこしい話ですが、そこからAさんの自宅に帰るには、一方通行の細い路地を抜け、

一旦国道の大通りに出てから少々大回りして行かなくてはなりません。


早くあの家から離れたい一心で運転していたAさんが、さっきまで助手席で軽口を叩いていた

Bさんが無言になっている事に気付いたのは、国道に出て暫くしてからでした。


ちら、と横目で見ると、Bさんは心なしか青ざめて表情を固くして前を見ておりました。

窓を開け、手を車外に出しています。

酔って気持ち悪くなったか…飲み過ぎだよ…と思いながら「どうした?気分悪い?」

と声を掛けると、Bさんはぼそぼそと言いました。

「……○、さあ」

Aさんは窓から巻き込む風の音で良く聞き取れませんでした。

「え?何?」

「俺の、手、さあ」

「手がどうしたって?」

また横目で見ると、Bさんが不自然にドアに凭れており、左手は肩まで車外にでています。

危ねえなあ…と思い「手、引っ込めろよ」とAさんが言うと、Bさんは泣き笑いしながら言いました。


「俺の手、さあ…外から、誰かに、摑まれてるんだよ」(まだつづく)

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