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2010年4月16日金曜日。 インポーター主催の報償旅行に招待された私は、その時ベルリンに居た。 楽しく、充実したベルリン滞在も最終日を向かえ、日本へ帰る朝だった。 午前中の便でベルリンのテーゲル空港を発ち、フランクフルトを経由して成田へ向かう。 集合時間まで30分を残し帰国の準備を終えた私は、ホテルの自室で最後の時間を過ごしていた。 不意に部屋の電話が鳴る。 ツアコンのMさんからだ。 「TOさん!!昨夜は随分遅くまで飲んでたらしいですね。酔っ払って外でヘンな事したでしょう?」 「は…、まあ、確かに…」 脳裏に昨晩の乱痴気騒ぎが蘇る。ホテル近くのアイリッシュ・パブでへべけれになるまで飲んだのだ。 同行の若い男が、酔って上半身をはだけ、ホテルの玄関脇に置いてあるベルリン熊のマネキンに抱きつい て腰を振っていた事が思い出された。 「高級ホテルの前で、あれはマズかったですよ。警察に拘束されるので、今日は帰れません!!」 「え、ええ〜っ!?」 私が、ここ数年で最も驚いた瞬間だった。心臓が喉もとまでせりあがってくる。 「ほ、本当ですかぁっ!?」思わず電話口に叫んだ私に、冷静な声が返ってきた。 「嘘です」 あー、ビックリした。 まったく、ベテランのツアコンは始末が悪い。4月1日はとっくに過ぎてるぞ。 「…で、何なんです?」 「実は、アイスランドの火山が噴火して、飛行制限がかかってます。テーゲル空港も閉鎖されているの で、とりあえず今日は帰れません」 「またまたぁ」 「いえ、9.11以来と言う程の欠航状況です。ヨーロッパ北部では1機も飛んでません」 「―リアルですか?」 「リアルです」 急いでロビーに降りて見ると、既に同行の人達も集合していた。私を含めて総勢11名。 皆不安そうな表情をしている…と思いきや、どことなくニヤニヤしている。 「TOさん、やりましたね!!延泊ですよ、延泊!!」 「もう1泊したいって言ってたのが、ホントになりましたね!!」 「どこ行きましょうか、今日」 それぞれが話しかけてくる。能天気な奴らだ。 ツアコンのMさんだけが一人真剣な表情でラップトップに向かっている。 しばしの間があり、状況説明が始まった。 上空を漂う火山灰を吸い込むとジェット・エンジンが不調を起こすので、飛行が禁止されている。 現時点では、ミュンヘンの空港は開いているが、時間を追うごとに閉鎖される空港が増え続けている。 テーゲル空港再開の目処は全くたっていない。 今日はこのホテルを確保したが、明日以降まで閉鎖が続けば、その後は判らない。 皆それぞれ家や会社に連絡し、延泊になった旨を報告する。 日本でもニュースで騒がれているらしく、現地に居る我々よりも、詳しい情報を持っている。 ウチの店長も「せっかくだからゆっくりしてきな」と言ってくれた。 たかが、火山灰。明日になれば、飛行機も飛ぶだろう。 状況説明を聞いても、そうたかをくくっていた私達は、ホテルに居ても仕方ないので街に出る事にした。 ツアコンのMさんと、インポーターの同行員のKちゃん(女性・独身・かわいい)はホテルに残って情報 収集と対応策の検討をするとの事だった。 お気楽な旅が1日伸びるだけ。 参加者の誰もが、そう思っていた。 数日来雨がちだったベルリンの空も今日は晴れ上がり、火山灰の存在など微塵も感じさせない。 しかし、目に見えぬ灰の檻は、確実にヨーロッパの空を押し包もうとしているのだった…。 (つづく) |
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2010年04月25日
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