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僕が小さい頃、この街に、気付けば、君がいた。 赤いスカートの、小さな女の子。 いつ頃知り合ったのか、名前は何と言ったのか、そんな事は憶えてないけど。 でも、君がいたことは、よく憶えてる。 毎日毎日、夕暮れ時に、土管の空き地で、君は赤いスカートを翻して走りまわっていた。 スモッグに滲んで茜色に燃える西日が、君の赤いスカートを、さらに紅く染めていた。 その頃は、何本もの、煤けた、高い高い煙突がもくもくと、煙を吐き出しているのが、頼もしかった。 あの煙突の下で、僕のお父さんとお母さんが、働いている。 あの煙突の間に夕日が沈むと、あの煙突の下から、お父さんとお母さんが帰ってくる。 ラジオでは、もうすぐ日本がアメリカの次に優秀な国になると言っていた。 あの煙突は、あんなのが日本中にあって、たくさん物を作って、日本を豊かにすると言われていた。 でも、あの煙突は、身体に良くない物を吐き出していた。 僕のお父さんとお母さんが働く煙突は、良くない物を出していたんだ。 君はそれで死んだ。 あの日、土管の空き地で咳き込んで、スカートよりもっともっと赤い血を吐いたあと、煙突に沈む夕日に 染められながら、そのまま、君は死んだ。 毎日毎日、同じように沈む夕日が、その日に限って、君にとっては最後の夕日になった。 君のお父さんとお母さんは、煙突の下で働く人の髪を切る、床屋さんだった。 君のお葬式の翌日も、煙突の下で働く人達の、髪を切っていた。 今はもう、随分前に煙突も無くなり、今はもう、随分前に僕の両親も亡くなった。 今はもう、煙突があった所には、大きなショッピング・センターが出来て随分経つ。 今もまだ、僕は、相変らず、この街に住んでるけど。 何も変わらないように見えても、あの土管の空き地は、何処にあったのだろう。そんな事がわからなくな るほど、街は変わった。君のお父さんとお母さんの床屋さんも、いつしか消えてしまった。 でも、この間、夕陽の中で、赤いスカートの、小さい女の子が、跳ねるように、道端で遊んでいるのを見 た。車の中から、確かに見た。夕陽が、赤いスカートを更に紅く、染めていた。 しかし、振り返るミラーの中に、その姿は無く、只々、茜色の夕暮れが映るだけだった。 知ってるかい? 今、僕には、あの頃の君と同じくらいの娘がいるんだよ。 その娘を連れて、家族で出掛けた、大きなショッピングセンターからの帰り道の、ささいな出来事 だった。 【TO注;またまた、人から聞いた話を、大幅脚色してしまいました】 |

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