過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

この街で

僕が小さい頃、この街に、気付けば、君がいた。


赤いスカートの、小さな女の子。

いつ頃知り合ったのか、名前は何と言ったのか、そんな事は憶えてないけど。

でも、君がいたことは、よく憶えてる。


毎日毎日、夕暮れ時に、土管の空き地で、君は赤いスカートを翻して走りまわっていた。

スモッグに滲んで茜色に燃える西日が、君の赤いスカートを、さらに紅く染めていた。


その頃は、何本もの、煤けた、高い高い煙突がもくもくと、煙を吐き出しているのが、頼もしかった。

あの煙突の下で、僕のお父さんとお母さんが、働いている。

あの煙突の間に夕日が沈むと、あの煙突の下から、お父さんとお母さんが帰ってくる。


ラジオでは、もうすぐ日本がアメリカの次に優秀な国になると言っていた。

あの煙突は、あんなのが日本中にあって、たくさん物を作って、日本を豊かにすると言われていた。


でも、あの煙突は、身体に良くない物を吐き出していた。

僕のお父さんとお母さんが働く煙突は、良くない物を出していたんだ。


君はそれで死んだ。


あの日、土管の空き地で咳き込んで、スカートよりもっともっと赤い血を吐いたあと、煙突に沈む夕日に

染められながら、そのまま、君は死んだ。


毎日毎日、同じように沈む夕日が、その日に限って、君にとっては最後の夕日になった。


君のお父さんとお母さんは、煙突の下で働く人の髪を切る、床屋さんだった。

君のお葬式の翌日も、煙突の下で働く人達の、髪を切っていた。



今はもう、随分前に煙突も無くなり、今はもう、随分前に僕の両親も亡くなった。

今はもう、煙突があった所には、大きなショッピング・センターが出来て随分経つ。

今もまだ、僕は、相変らず、この街に住んでるけど。

何も変わらないように見えても、あの土管の空き地は、何処にあったのだろう。そんな事がわからなくな

るほど、街は変わった。君のお父さんとお母さんの床屋さんも、いつしか消えてしまった。


でも、この間、夕陽の中で、赤いスカートの、小さい女の子が、跳ねるように、道端で遊んでいるのを見

た。車の中から、確かに見た。夕陽が、赤いスカートを更に紅く、染めていた。


しかし、振り返るミラーの中に、その姿は無く、只々、茜色の夕暮れが映るだけだった。



知ってるかい? 今、僕には、あの頃の君と同じくらいの娘がいるんだよ。



その娘を連れて、家族で出掛けた、大きなショッピングセンターからの帰り道の、ささいな出来事

だった。






【TO注;またまた、人から聞いた話を、大幅脚色してしまいました】



全1ページ

[1]


.
TO7002
TO7002
男性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

ブログバナー

過去の記事一覧

1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
検索 検索

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事