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羽衣橋…って横浜の関内にある橋なんですけど、川に架かる橋ではなくて、半開放的に地下を通る首都高を跨
ぐ橋であります。
しかしながら昔は羽衣橋もちゃんとした橋だった。と言うのも、昔のここには川が流れており、川と言うのは大岡
川の支流ですが、昭和40年代にその川が埋め立てられて、その後高速道路になったそうです。
それで、無粋な高速道路を渡る羽目になった羽衣橋は川面を渡る季節の風を感じる様な情緒もへったくれもな
く、今やただの交差点になっております。
ある、私の良く良く知っている男が、つい先日、ここで幽霊を見たそうです。
根岸線下りの終電もとっくに終わった初夏の夜、うだるようなと言うのは簡単ですが、深夜を過ぎても立っている
だけで汗だくになる夜でした。ワイシャツからズボンから、全てのものがべとべとと肌に吸い付いてくる。
福富でへべけれになったその男が、行きつけの安いところで朝まで飲もうと羽衣橋をふらふら歩いていた時。
羽衣橋の歩道に、女がいたそうです。
真夜中でも、まあまあ明るい羽衣橋ですが、そのなかでも、切絵で抜いた様に、その女は際立っていました。
上から下まで真っ白な出で立ち。その服装たるや、まるで昭和初期のファッション。白バラの飾のついた、つば
広の白釣鐘帽子を被り、髪は漆黒の短髪。純白の半そでワンピースの裾は膝丈で、その下に伸びる足は白スト
ッキングで足元は白いヒール。化粧ではない色白な顔は古風な眉太くちびる肉厚美人。年の頃なら20の半ば。
真面目そうだが情熱的っぽい。
まるで、おばあちゃんの若い頃の写真から抜け出てきた様な、旧くてお洒落な女性だったとか。
汗腺から滲み出るものとは無縁の如く、その女は涼しげでした。
女に近づくにつれ、美人と見たら口説かずにいられない性分、当然その男は女性に声をかけました。
何と言ったかは知りませんが、どうせ「おねえさん、一緒に始発待とうよ」とか何とか言ったのでしょう。
「―いえ、人を待ってますので」
「じゃあ、その男が来るまで、その辺で飲むというのは?」
「―待ち人が男性とは言っておりません」
「またまた。―では、家の方が迎えに来るとか?」
「―家人はおりません。―あまりかまわないで頂けます?」
「まあ、そんなつれなくせずに…」
ふう、と突然、梅雨明けの風が強く吹き、その風は、ここの所いつになく湿気を含まず爽やかであり…。
その風によって女の白い帽子が高速道路に舞おうとし、男が取りとめようと手を伸ばすと、その帽子は指先で、
煙の様に消え。
見返すと、女も、姿かたちが何処にもなく。
ただそこには、酔客を乗せたタクシーが主奏者の、やや静かになり始めた街の喧騒だけが残っていたとか。
この話を聞きつつ、この、私の好きなこの曲を、思い返しました。
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