ホメオパシーとは、「症状を起こすものは、その症状を取り去るものになる(同種の法則)」との考え方を根本とし
た代替療法(通常医療の代わりに用いられる医療)です。ヨーロッパやインド、中南米などでは一般に広く浸透し
ているらしいですが、最近は日本でも有名人のホメオパシー信奉者も多く、かなりの広まりを見せています。
約200年前、ドイツの医師サミュエル・ハーネマンがマラリアの薬を飲んだところ、マラリア同様の症状が出た事
がホメオパシー考案のきっかけになったとされています。鉱物や植物など色々なものを原料とし、それを極限ま
で希釈して(原液を水で1/100に希釈して激しく振り、それをさらに1/100に希釈して…を何度も何度も、時には20
0回も繰り返す)できた液を砂糖玉にしみこませて乾燥させたりしたものが”治療薬(レメディー)”となります。
これを服用すると自然治癒力が高まり、生命力が高まって病気が治ると言う寸法です。
簡単に言うと「毒をもって毒を制す」と言う訳なのですが、一般的な”レメディー”でも希釈度は100の30乗倍と言
います。こんなに希釈すると原液中の物質は分子一つも残っていない筈ですが、しかし効くのは何故なのか。
それは、元となる物質の「オーラ」や「波動」、「パターン」を「水が記憶」していて、それらに対する体の抵抗力を
引き出すことにより、自己治癒力などが高まるからなのです。
そんなもんが効くとは、聞くからに(洒落です)アヤシイ感じがしますが、実際にかなりアヤシイ。
ホメオパシーには100年以上前から様々な批判が行われております。決定打は、2005年に『The Lancet』と言う
著名な医学誌に掲載された論文です。それによると、「大規模で綿密な臨床試験が行われるとホメオパシーの
効果は薄弱となる」と言う事でした。ホメオパシーはプラセボ効果(偽薬効果。偽の薬でも、飲む人の思い込みで
ある程度の薬効があらわれる事)以上のものではないと言う事がはっきりしたのです。アメリカの国立補完代替
医療センターもホメオパシーは科学・物理の法則に則っていない事を認めていますし、ホメオパシーと「自然治
癒力」の関係が免疫学的見地から科学的に立証された事もありません。
そしてこれはホメオパシーの黒歴史なのですが、ナチスドイツでは、ホメオパシーは厚遇されておりました。1937
年にベルリンで開催された第一回国際ホメオパシー学会には、副総統ルドルフ・ヘス、親衛隊長官ハインリヒ・ヒ
ムラーも出席するほどでした。しかし、その後の研究ではプラセボ効果以上のものは出ず、ダッハウの強制収容
所で行われたマラリアや敗血症患者に対する人体実験では、敗血症患者は全員死亡したとされます。ホメオパ
シーは「悪魔の実験」を経て、無効果が確認されたのです。当然ながらナチスの関心も薄れていきました。
事ほど左様に、ホメオパシーは科学的裏付けが全くなく、臨床においても有効性が統計的に全く立証されており
ません。なにせ原料として、時として蚊の抜け殻やアフリカの泥水、病原菌、がん細胞、ベルリンの壁、月光まで
使ったり。(プルトニウムを原料にする場合もあるそうですが、そんなモンどうやって仕入れたのでしょうか?)
こうなると、代替療法と言うより、おどろおどろしい呪術みたいな感じがして参ります。日本のホメオパシーではさ
らに「カルマがどうの」だの「霊魂の浄化」だの「憑きものをとるために」だのと言う妙ちきりんな概念が加わってく
る場合もあるからもう大変。ホントに代替とは言え医療なのか、それとも悪魔払いの類なのか、訳が判らなくなっ
てきます。
ホメオパス(”レメディー”を処方する人)は、じっくり時間をかけて、患者の心理的、精神的な状態や、成長の過
程、とくに過去の大きな問題についてのインタビューし、現在の問題を判断した上でレメディーを処方するそうで
す。ホメオパシーが効くというのは、プラセボ効果と共に、ホメオパスによるカウンセリング効果もあるからではな
いかと思ったりもします。つまりホメオパシーは、気休め、おまじないの領域を出ることはないのです。
ちなみに、「水の記憶」とは、フランスの免疫学者ジャック・ベンベニスト博士グループによる研究ですが、これも
反証実験の末に否定されているどころか、1991年に第一回イグノーベル化学賞を受賞する始末。受賞理由は
「水が知性的な液体であるというしつこい発見と、水はある出来事の痕跡が完全に消滅した後、しばらく経っても
それを覚えていられるという、彼のお気にめす結果を立証したことに対して」でした。
さらにベンベニスト博士は「水に記憶された情報は電話やインターネットで伝達できる」と言う研究で1998年に二
度目のイグノーベル賞を受賞すると言う快挙(怪挙?)を成し遂げております。トホホのホ。
世の中には効果があるんかないんかよう判らん「健康食品」だの「サプリメント」だのが横行しておりますので、ホ
メオパシーも害が無いならやりたい人はやってりゃいいと言う事になります。やってる人は「悪魔の人体実験」の
末に、ナチスにすら見限られたものだなんてご存じないのでしょうし。
しかし、実は重大な被害もでております。
効果がないのに”レメディー”が予防薬や治療薬として用いられた結果、実際に伝染病に罹患するなどの被害が
世界各国で出ているのです。
フランスでは、熱帯から帰国した女性が”レメディー”を服用していたが帰国後に高熱を出し、その後も”レメディ
ー”を摂り続けたが、マラリアに神経疾患と多臓器組織不全を併発し、2ヶ月間も集中治療室で治療を受ける事
になりました。
オーストラリアのホメオパシー信奉者夫婦が、医者が止めるのも聞かずに皮膚病を患う生後8ヶ月の娘をインド
旅行に連れて行き、症状が悪化した娘を正規の医療に任せるのを拒み続けた結果、敗血症で死なせてしまった
と言う悲惨な例もあります。(この両親は故殺罪で有罪となった。)
ホメオパシーの害があるとするならば、仮に”レメディー”そのものに毒性が無くても(ただの砂糖玉や飴玉です
から)、ホメオパシーを信じることによって正規の医療を受けずに病気に罹ったり、病状が悪化したりして、最悪
の場合死に至ると言う点なのです。
(ホメオパス側は、あくまで「客の自己責任においてホメオパシーを実践する」と言うスタンスだそうです。)
某ホメオパシー団体が、東北地方太平洋沖地震の被災者に向けて、義捐活動として”レメディ”を薦める案内
を出しています。
ホメオパシーに科学的根拠があろうがなかろうが効果があろうが無かろうが、切羽詰った人には「少しでも安心」
と言う価値があるのでしょうから広めるのをやめろとは言えません。しかし、せめて通常の医療の価値を認め、そ
れを受ける選択の自由を認めた上で広めて欲しいものです。