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とうに亡くなった父方の祖母は、私が子供の頃にはよく「お化け」の話をしてくれました。
祖母の話す「お化け」は「幽霊」ではなく、大抵「妖怪変化」の類でした。例えば…。
祖母がまだ子供の頃。敷地から離れた井戸までの水汲みが日課だったそうです。九州は大分にあった
祖母の家は所謂「田舎の豪族」で、広い敷地を囲む白壁が延々と続いていたとの事です。
ある日の夕方、いつもの様に水汲み桶を担いで白壁沿いを歩いていると、若い女の人が壁沿いで
うずくまっていました。村の人ではありません。病気でもしたかと思い、大丈夫ですかと声を掛け、
顔を見ると、大層綺麗な女の人でした。呻く女の人の背中を擦ってあげたりしていました。
暫くして、女の人が「もう大丈夫。有難う。」と言ってペロリと自分の顔をなでると…。
目も鼻も口も無いのっぺらぼうになってしまいました。
祖母の地方では、のっぺらぼうは狸が化けた物、と言われていたそうです。
祖母の父、ですから私のひい爺さんが、宴に招かれ隣村まで行きました。夜も更け、泊まって行く様
強く勧められます。隣村からの道は、狸に化かされると言って、誰も夜は避けていたからです。
実際、夜中に道を踏み外して崖から堕ちて命を失くす者も居たとか。狸の仕業と言われていました。
引止めを固辞したひい爺さんはほろ酔い気分で道を歩く。満月が煌々と照りつけ、提灯も要らぬ程。
ふと見ると、半紙を丸めた様な紙屑が、風も無いのにコロコロと道の真ん中を転がっています。
何気なく踏んづけようとすると、紙屑はコロコロと足を避ける様に転がる。
追いかけて踏もうとすると、またコロコロと逃げていく。
何度かそんなことを繰り返すうちに、ひい爺さんは、ハタと気付きました。
「これは、狸が悪戯しとるな。こんな事をしている内に惑わされてしまうんだ。」
ひい爺さんは紙屑を無視して歩きだすと、紙屑は暫く周りをコロコロ転がってついて来ましたが、
じきに草むらに転がっていき、いなくなったそうです。
↑これも、狸の様ですね。お次は…
これも祖母が幼い頃のお話。兄達に連れられ、川に釣りに出かけてた時の事。
祖母は皆からちょっと離れた川原で、小石でおはじき遊びをしていたそうです。
次第に飽きてきたので、辺りをウロウロしていると、川畔に大きな木陰があり、その下の大石の上に
何か見慣れないモノが居ました。よく見ると、ざんばら髪の子供が座っています。
裸の様ですが、体の色は赤っぽく、油を塗った様にぬめっと光っています。
祖母がたてた物音に、こちらを向いた顔は、目がまん丸で鼻が尖っています。
祖母がじっと見ている事に気付いた「それ」はドボンと水面に飛び込み、姿を消しました。
兄達にその事を話すと、「それは河童だ。」と教えられました。
祖母は「ああ、あれが河童か。始めて見た。」と思ったそうです。
九州はよく河童が出没していた様です。私の故郷にも「河童を封じ込めたお地蔵さん」がありました。
またまた祖母の幼少期の話。ある夜、両親と一緒に墓地の脇を歩いていました。
ふと見ると、墓地の一角がほんのりと明るく照らされています。父親に「あれ何?」と聞くと、
「誰か墓参りにでも来てるんだろう。」と言いますが、「こんな夜にお墓に来る人がおるのかな。」
と不思議に思っていると、その灯りがふわふわと浮かびあがり、まん丸の火の玉になって
尾を引きながら漂いだしました。
両親もそれを見ていましたが、「ああ、人魂やねえ。」と、特に驚いても居なかったそうです。
昔は妖怪も自由に出てきていた様です…。
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