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飲んで終電がなくなるといつも泊まる、都内の某安宿。
如何にも昭和な佇まいで、六畳一間の客室には、如何にも出そうな雰囲気満点ですが、
いつも、こっちはベロベロで、部屋に入るとドタッと布団に倒れこんだまま翌朝を迎えるので、
何かが出たとしても、わからないだろこりゃ…でした。
こないだまでは。
その日は、いつもと多少は違って、そう深酒する前に、つまりは、全然電車が動いてる
時間にその宿に入りました。
翌日は早朝から大事な仕事があり、満を持して、職場に近いその宿に泊まったのです。
職業意識の高い、私TOならではの行為であります。
かと言って、素直に床に着くTOでもある訳がなく、買い込んできた吉牛の牛皿を肴に、
ビールを煽っておりました。テレビを見ながら。
そうして、小一時間も経った頃でしょうか。
隣の部屋から、突然、激しく咳き込む声が響いてきました。
ゴホッガハッゴホゴホウゲッ
中年?男性の、野太い咳、と、そんな風に感じました。
最初は無視していましたが、数分経っても、その咳込みは止まりません。
いや、むしろ、ますます激しくなってきます。
グワッッハァグゲェェェグオッホグッハァァ
ちょっと、心配になってきたので、フロントに電話しましたが、
しばらく鳴らしても、誰も出ません。
隣から、響いてくる音は、益々苦しげになってきます。
ガアガウオグヘェェェグガァー
これは、そろそろ、やばいんちゃうか?
そう思った私は、いきなり隣のドアをノックするのも気が引けたので、
階下のフロントまで小走りました。
ちなみに、その宿は4階建てで、エレベーターはなく、その日私は、2階の一室におりました。
仮に、208号室とします。
咳込む隣は、209号室です。
無人のフロントで、私は、すみません、すみません、と奥に声を掛けます。
ややして、顔なじみの白髪のおっさんが、仮眠を破られた風情で、
不機嫌そう&眠たそうに出てきました。
どうしました? と訊くおっさんに、隣の209号室から…と、かいつまんで事情を話した途端に、
おっさんの顔が、仕事モードに切り替わりました。
切り替わったのはいいのですが、おっさんは開口一番、こう言いました。
それはご迷惑を。今新しいお部屋にご案内しますので。
いやいや、お荷物なんかは、私がお持ちしますので。
そうじゃなくて、様子を見に行って、救急車呼ぶとか… と、言いかける私にかぶせて
いやいやいやいや、新しいお部屋に!夜分に申し訳ありませんが!
と、すでに鍵を持ってフロントから出てくる勢いでした。
おっさんと共に部屋に戻ると、隣は静かになっており、それがかえって不安を煽ったのですが、
おっさんは、殆ど有無を言わせないオーラを放ち、半強制的に、私を、離れた部屋に移しました。
それでもリンゴやミカンと同じで、きになるものはきになるので、
途中、あのぉ、大丈夫ですかね?隣の人…と言っても、
まあまあまあまあ、後はうちで。うちで。うちでやりますんで!
の、一点張りで、取りつく島なし。
結局、その晩は、言われるがままで、翌朝出る時は、そのおっさんは居なかったので、
事の顛末は聴けず仕舞いでした。
ーで、それはそれで、ちょっと腑に落ちない出来事…だったのですが、
その2〜3週間後に、いつもの通り、その宿に泊まったのです。
その日は、いつもの白髪のおっさんは休みなのか、他の人がフロントでした。
泊まった部屋は、件の209号室。
ああ、こないだ、変な咳してたなぁ。
この部屋に泊まってた人が。
そんな事を軽く思いながら、やはり、テレビを見ながら、ビールを飲んでました。
時計が午前1時をまわった頃でしょうか。
壁が、ドンドンドン、と叩かれたのです。向こう側から。
ちなみに、以前泊まった208号室と反対側の壁です。
つまりは、210号室から、叩かれている。
何ダァ? と思いつつ、もしかして、テレビの音がうるさいのかな?
と、最初からそう大きくなかったはずの音量を下げても、また、ドンドンドン。
更に下げても、しばらくして、また、ドンドンドンドンドン。
そろそろ寝ようと、テレビ消して、灯も消して、それでもしばらくして、
ドンドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドン。
うるせえなあ、ここんとこ、ここ泊まると、変な奴ばっかりだなぁ。隣が。
そんな風に思っていました。
またフロントを起こすのもあれなんで、そのまま放置して入眠。爆睡。
翌朝、部屋を出る時に、ふと壁を叩かれた側の隣を見ると…。
そこは、客室ではなく、研修室…でした。
210号室などは無かったのです。
チェックアウトする時、隣の研修室で深夜まで何かやってたのか?と聴こうと思ったのですが、
何となく、馬鹿な質問の様な気がして、これまた聴けず仕舞いでした。
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