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これまた新店舗で聞いたお話です。
Nさんと言うベテランさん。若い頃の体験談です。
当時、Nさんは横浜市内の某所にアパートを借りていました。
そこは、横浜まで私鉄で数駅と言う立地の割には部屋代の相場が安いエリア。
墓地が多く、古くは疫病で大量に出た死者を葬った場所、と言うのも影響しているのかもしれません。
そんな事は余り気にしない性質のNさんは、駅から急な坂を随分と登った先に住んでいました。
高台なので、窓から望む横浜の夜景が気に入って、そのアパートを借りたそうです。
駅からの近道の途中に古い団地がありました。
近く取り壊しが決まっているので、夜にそこを通ると、明かりの灯る部屋は数える程でした。
それも日に日に減っていく様です。
ある夏の晩、終電を降りてその団地に差し掛かると、建物の窓は1階の一室を除いて全て消え、
「ああ、もう殆ど退去したんだなあ…」と思いながら、唯一明かりの灯る窓の脇を通りました。
開け放たれた窓からは賑やかな声が漏れ、見るとも無く中を見ると、狭い部屋にこんなに大勢…
と言うほどの人達が楽しげに酒を酌み交わしていました。
割と年のいっている人達です。
お別れの宴会か…と、そう思いました。
そんな事も忘れていた翌日。
また終電で駅に着き、同じ場所を通ると、同じ様に賑やかに酒盛りをしている。
そしてまた翌日も。
「よく毎晩飲めるなあ…」感心しながら窓の脇を通り過ぎる時、はたと気付いた事がありました。
この人達、毎晩同じ服を着ている…。
エンジ色に白い横縞のシャツのおじいさん、年の割には若作りな、フリルのついたタンクトップを着た
おばさん、その他の人達の服装も、数日来見慣れたものばかりでした。
ただ、その時は、ちょっとした違和感を感じただけ。
それが恐怖に変わったのは、翌朝の事でした。
昨日までは、朝になると夜の事など頭から消えて、その窓の脇を素通りしていました。
しかしその朝は、駅に行く途中にひょいと中を覗いて見ました。
カーテンも外された室内は、がらんどうでした。
昨夜まであった家具や、壁にかかった小物類も、何もありません。
ゾッとしたNさんは、その団地が取り壊されるまで、そこを通る事は二度と無かったそうです。
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