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先日、ある方からお聞きしたお話です。
その方のお祖父さん(Sさん)が、戦時中に体験したお話の伝聞です。
たぶん、1944年の出来事です。戦争も、日本は押されっ放しで、敗色濃厚感漂う時期ですね。
その年の初め頃、北関東の陸軍連隊駐屯地で、Sさんら若い兵隊さん数人が、宿直の合間に百物語をしようと
言う事になったそうです。
80話を少し越えた時、リーダー格だったSさんは厠に立ちました。
廊下の途中、使われていない物置部屋の戸が半分開いているのに気付いたSさんは、不審に思い、
中を覗き込みました。真っ暗な室内に何か白っぽいものがあり、目が慣れてくると、それは、白装束を着て、
首をくくった女の死骸だと言う事が判りました。
ぐっと息を呑んだSさんでしたが、連隊の中でも豪胆で鳴る人物だったので、ふと冷静に考えました。
駐屯地に女がいる訳はなく、万が一にも警備の目をすり抜けて入って来れる筈もない。
さては、百物語にかこつけて現れた妖怪変化か狐狸の仕業か、はたまた幻か。
そうとなれば無視するに限ると、ふんと鼻を鳴らして、素知らぬ顔で部屋を通り過ぎました。
厠から戻り、百物語を終えても、何事も起こらない。
しかし、座の一人から、実は先ほど物置で女の縊死体を見たとの声があがりました。
すると、実は俺も、俺もと、皆が騒ぎだしたので、Sさんが先頭に立って件の物置部屋へと向かいました。
皆が見たともなれば、万一にも、本当に首を吊った女がいるのかもしれないと思ったのです。
物置部屋を改めると、やはりそこには白装束の女がぶら下がっている。
そろそろ東の空も明るくなる時分、ここに来て未だ消えぬとは、これは本物の縊死体だと、遅まきながらも
上官に報告し、兎にも角にも死骸を降ろしてその場に安置し、軍医が呼ばれ改めて死亡が確認されました。
連隊の中には、女の顔に見覚えがあるものが何人かおり、これは兵隊を相手に春を売っていた女だと
言います。そこで、女郎屋に連絡を取ると、その女は病で床に伏せていたが、夜半に様子を見に行ったところ、
部屋で首を吊って死んでいた。今、警察が来て検分しているところです…との返答。
そんな訳があるか、実際ここに死体があるのだから引取りに来い、いやそんな筈はないと、押し問答をする中、
皆がほんの少し目を離した隙に、物置に安置しておいた女の死骸は忽然と消え、大騒ぎになりました。
発見者の責任として、女郎屋に駆けつけたSさんは、そこに、あの女の死骸を見たのでした。
女郎屋に聞いたところ、その女は、常連だったある兵隊に本気で惚れてしまったが、その男は南方で
戦死してしまい、それ以来塞ぎこんでおり、体も悪くしていたとの事でした。
憐れに思ったSさん始め百物語に参加した一同は、近所の寺に頼んで、死んだ兵隊と女の為に、簡単な供養
を施して貰いました。
その後、Sさん達は、生きて還れるとは思えぬ戦地に駆り出され、何度も何度も死線を彷徨いました。
しかし、全員が、命を保ったまま終戦を迎える事ができたそうです。
今や天寿を全うされたSさんですが、生前には、酔うと度々この話をされていたそうです。
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