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お母さんとはぐれちゃった・・・ 今回が初めての旅だったのに、ひとりだけ、強風に流されちゃったんだ。 その日は嵐で、飛行には向いてなかった。 でも、みんなそんなことには慣れっこだったから。 僕は行き先も知らない。ただ付いて行っていただけ。 風も、音もすごかったから、僕も必死で叫んだけどみんな気づかずに行っちゃった。 迷った僕は、たまたま見えた家の軒下に飛び込んだ。 次の日はいい天気で、僕は朝早くに軒下から飛び出した。 だって、誰かが探しに来てくれるかもしれないから。 そんな時、上から誰かが僕に話しかけたんだ。 「おやおや、見慣れないグースじゃないか。こんなところで何をしてるんだ」 それは、黒く光る鶏だった。僕らの中では嫌われ者だ。 だって、あいつらは飛べもしないくせに、大声でわめき散らすんだ。 でも、なんだか彼は違った。だって、屋根の一番てっぺんにいるしね。 それに、何で黒いんだろう?? 下を見れば、ほら、彼の仲間の白い鶏たち。地べたを這いつくばってる。 何かが違う。他の鶏とは何かが。 そう感じたから、僕も答えたんだ。もしかしたら、力になってくれるかも。 「僕、初めての旅でみんなとはぐれちゃったんだ。だって、昨日の嵐見ただろう?ほんとにすごかったんだ。あ・・・でも君たちはきっと小屋の中にいたんだよね。知らないか」 彼はくるりと回ってこっちを向いて言った。 「知っているとも。確かにすごかった。うちの農場にも雷が落ちたしね。ほら、向こう」 そう言って、また彼はくるりと反対を向いた。 「でも、君たちはあれぐらいの嵐だったら飛べるだろう?雲の上に突き抜ければいいんだから」 「僕、まだそんなに長く飛ぶのに慣れてないんだ。だから・・」 僕がしょんぼりしていると彼が言った。 「今日はいい天気だ。いや、この感じだとしばらくこの天気は続くだろう。私は風向きを見るのと天気を予測するのが仕事でね。今から飛び立てばそのうち追いつけるかもしれないよ」 「でも、僕知らないんだ。どこに向かって飛んだらいいのかわからない。どこに行けばいいのかわからない。もしかしたら、誰か迎えに来てくれるかもしれないし・・・」 「冷たいかもしれないが、きっと迎えは来ないよ。自分で行くしかないんだ。この時期ならきっと南に向かっているんだろう。さあ、南はこっちだ・・」 そう言って、彼はまたくるりとまわった。 でも、僕は飛べなかった。だって、その方向に本当にみんながいるのかわからないし、一人で旅をしたことなんてないし、もしかしたら途中で鷲とかに見つかったら怖いし・・・ 悩んでいると、彼が言った。 「もし、行かないんだったらここでしばらく過ごしてはどうかい?もうすぐ冬が来るが、ここはそれほど寒くはならない。私の話相手になってくれると嬉しいね」 僕は他に当ても無かったから、そうすることにしたんだ。 彼の名前はウェザーベインというらしい。 雨の日も風の日もここに立って、風向きと天気を教えるのが仕事なんだって。 確かに彼がそこから動いたのを僕は見たことがない。 「ねえ、その足元の棒は何?」 僕が聞くと彼は誇らしげに言った。 「これは、方角を知るためのものだよ。風が吹くと私はまわって、風の吹いてきたほうを向く。それとこの棒の組み合わせで、今どの方角から風が吹いているかを知るんだ。」 彼の仕事はすごく退屈そうに見えた。でも、彼はそんなこと気にもせず、いつも気ままにくるくる回っていた。 あるときはこんなことも聞いた。 「ねえ、なんで他の鶏たちは地べたを歩いているのに、ウェザーベインはそこにいるの?どうやって上ったの?」 彼はちょっととまどったけれど、こう答えた。 「もちろん、飛んで上ったに決まってるさ。他の鶏たちは卵を産み、時を告げるのが仕事だ。でも、私の仕事は違う。私の仕事のためにはこの場所が都合がいいのさ」 「すごい!僕、鶏は飛べないと思っていたよ!飛べる鶏もいるんだね」 彼はまたとまどった。 「まあ、稀ではあるが。もちろん、それなりの努力は必要だ。もちろん、この仕事をしたいと思う鶏は多くはないだろう。どんな向かい風だろうと立ち向かわなければいけない。どんな嵐であろうとも挫けてはならない。それでも、やりがいのある仕事だよ」 「すごい!すごい!僕尊敬するよ」 「じゃあさ、もうひとつ聞いてもいい?」 「なんだい?」 「なんで、ウェザーベインだけ黒いんだい?だって、みんな白いのに」 彼はしばらく黙って、こう答えた。 「長い間風雨にさらされていると、太陽の光を浴び続けていると、いつしかこうなってしまうのさ。これは私の勲章でもある」 彼はまっすぐ前を向いてはいたけれど、ちょっと寂しそうな感じだった。 僕とウェザーベインは親友になった。 僕はちょっとあっちに行ったり、こっちに行ったりはしたけど、彼はいつもそこで忠実に自分の仕事をこなしていた。 そして、冬が過ぎ、春が来て、もうすぐ夏を迎えるころだった。 僕の体調はなんだかおかしくなってきた。 彼も心配してくれて、僕は軒下で休んでいることが多くなった。 ある日、彼が言った。 「君はもう、北に向かうべきだ。家に、帰るべきだ」 僕は耳を疑った。 「何を言ってるんだい?僕の家はここだよ」 今ではもう、軒下に立派な家を構えていた。 彼はもう一度言った。 「君はもう、帰るべきなんだ」 「・・・やだよ!僕はここにいる。君と一緒にいるよ。君だって、話し相手がいなくなったら寂しいだろう?」 彼は困った顔をしたが、やがてこう言った。 「ここの夏は暑い。おそらく君の住んでいたところとは比較にならないだろう。まだ夏にはならないが、今ですら君の体調はおかしくなっている。夏が来れば、もたないかもしれない」 「・・・」 僕も気づいていた。気温の変化が僕の体調を狂わせていることを。 でも、彼と別れたくなかった。それに、一人で旅をすることが怖かった。 そんな僕の気持ちを見抜いたのか、彼が言った。 「私を尊敬しているんだろう?雨の日も、風の日も、暑い日も、雪の日も全てに立ち向かっていく私を尊敬しているんだろう?君にもできるはずだよ。私のように胸を張って飛ぶことが。きっと、もう嵐が来ても大丈夫だ。きっと、君の家族も待っている」 そして、彼はくるりとまわり、北を向いた。 「さあ、行くんだ。迷うな。今は向かい風だが、時期に追い風に変わる。私の予測が外れたことがあるかい?さあ!」 僕は・・・・・・ ウェザーベインはもう遠く、小さな点になってしまった友を見送りながらつぶやいた。
「行け・・真っすぐ・・。私には感じることのできないもの、見ることのできないものをいっぱい見てきておくれ・・尊敬すべき友よ」 そして、彼はくるりとまわった。 「今年の冬が楽しみだ・・・」 空は快晴。心地良い風に身を任せ、くるくるまわる風見鶏。その目元が微かに光を反射した。 |
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ちょっぴり悲しいけど、どこか心があったかくなるお話でしたよ♪
2006/7/7(金) 午後 6:11 [ みに ]
みにさん > 出会いと別れ、それは喜びや悲しみと共に大きな成長を運んでくるものです。彼らも共に成長し、そしてまたいつか出会うその日を夢見て待つ。最後に未来への期待を含ませて終わりにしてみました。読んでいただいてありがとうございます。
2006/7/8(土) 午前 9:40 [ sophia ]