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ヘビースモーカー

 「もう、お父さん、たばこやめたらどうですか?」
それが母の口癖。
父は昔からヘビースモーカーで、毎日1箱は吸っていた。
定年退職してからは、家にいる時間が長くなったせいかその量は増え、毎日3箱以上吸っていたんだって。
私が実家に帰ると、リビングのテレビ横のキャビネットにはいつもたばこがカートンで積んであった。
父はソファーに腰掛け、ひざにはライトを寝かせてテレビを見ながらずーっとたばこを吸いっぱなし。
家中に臭いが染みついてるほどに。

 ライトは父が買ってきた犬で、ミニチュアダックスフンド。
私が結婚して家を出た後、急に買ってきたんだって。
だから、今はたしか8歳。
母は「お父さんはね、おまえと2人じゃ息が詰まっちまうから、犬買ってきた、なんて言ってたけど、本当は紀子が出て行ってさみしかったのを紛らわしかったのよ」って、ちょっと困った顔で言ってたっけ。
そうそう「どうせなら近所で雑種でももらってくればよかったのに。高いんでしょ?あの犬」って、ちょっと怒ってもいたな。
でも、父も母もすぐに気に入って、どっちが散歩に連れて行くかでもめたりもしてた。
父が退職してからは、どうも父にべったりらしい。
母はちょっと面白くなさそうに話してくれたのを覚えている。

 母は62歳のときに癌で亡くなったの。
乳がんの発見が遅れ、気づいた時にはもうあちこちに転移してました。
抗がん剤での治療を続けたが、その甲斐なく半年後に亡くなりました。
そして、家には父とライトだけが残されたんです。

 私は、母の葬式後、父に言いました。
「お父さん、もうたばこやめなさいよ。私、お父さんまで癌になって欲しくないから」
でも父は「う、うん・・・」なんてあいまいな返事をして、結局やめることができなくて。
それどころか、話相手もいなくなった父のたばこの量は増えているようにすら見えたもの。

 その日は、母の49日の日。
法要後、みんなが帰った後、私はもう一度父に言ったんです。
「お父さん、なんでたばこやめられないの?百害あって一利なしだよ?本当にお父さんのためを思って言ってるんだからね!」
父は
「でもなぁ。こればっかりはやめらんねえんだよ。まあ、いいじゃねぇか。俺は酒飲まねえ代わりにたばこなんだ。両方やるよりましだろ?」
なんて言ったの。
私も頭にきちゃって、つい、言っちゃった。
「お母さんが死んだの、お父さんのせいだよ!たばこのせいだよ!」
「おめえ、それは違うだろ。肺がんならともかくよ・・・」
父はそう言いながらも、たばこの箱を手に取ったんです。
その時!
私の目の前を、何か黒いものがヒュンって横切っていったの。
そして、あっという間に、父の手からたばこの箱をもぎりとっていったの。
私と父はあっけにとられてその黒い物体を見つめました。
それは、ライトでした。
「お、おい、ライト。それは俺のたばこだから。な、返せよ」
父はそう言って近づいていきましたが、ライトは父が手を伸ばす前に、なんと、たばこを箱ごと食べ始めたんです。
「!!」
「おい!そんなもん食うんじゃねぇ!死んじまうぞ」
伸ばした父の手をするりとかいくぐり、3歩、4歩と進んで、ライトはどうと倒れました。
ぴくぴくと痙攣しながら、口からは泡を吹いて。
「おおお、おい!ライト!しっかりしろ!死ぬな!死ぬんじゃねぇ!おい、紀子、水だ!水飲ませろ、早く!早く!それと救急車!」
私はいそいでコップに水を汲み、ライトの口から流し込みました。
「ライト!水飲んで吐くんだ!全部吐け!死ぬなよ!おい、早く救急車!おい、もっと飲ませろ!」
父は慌てて叫んでました。
「もう、救急車が来るわけないでしょ!いつもの浅岡アニマルクリニックに電話して!早く!」

 私と父は、いそいで病院へ駆けつけました。
私が車を運転している間、父はひざにぴくぴくと痙攣を続けるライトを抱え「死ぬなよ!がんばれ!」と泣きながら言い続けていました。

 「だいじょうぶ、なんとか命は取り留めました」
浅岡先生はそう言うと「でも、何か後遺症は残るかもしれません。どうしてたばこなんか食べたんですか?」と聞きました。
「それが、私たちにもさっぱりと・・・」
私と父が首をひねっていると、先生が言いました。
「そう言えば・・・以前、えーっと半年ぐらい前かな?奥様が予防接種に連れてこられた時に、『先生、この子に主人のたばこをやめさせるように教え込むことはできないですかね?私がいなくなった後誰も言わないと困りますから』なんておっしゃっていましたね。ちょっと難しいと思います、ってお答えしたと思うんですけど・・・いや、まさかね」
私と父は目を大きく見開いて顔を見合わせました。

 「あいつ、余計なことしやがって」
父は待合室でぽつりとつぶやきました。
私は言いました。
「きっと、お母さんの思いがライトに届いたんだよ。だから、ライトもお父さんのたばこをやめさせようとしたんだよ。絶対、そうだよ」
「そうかもしれねえなぁ」
染みひとつない白い天井を見上げて、父が答えました。

 ライトは後遺症で後ろ足の辺りがうまく動かなくなってしまいました。
今は3輪車の補助輪みたいのを下半身に取り付けて元気に走り回っています。
家中から灰皿が消え、テレビ横のキャビネットの上には父と母、それにライトが写った写真が置かれています。
「こいつよう、散歩中にたばこの自動販売機のあたりを通るとワンワン吼えやがるんだよ。もうやめたっていうのによ、うるさくってしょうがねぇ。まったく誰に似たんだか」
そう言いながらも、父の顔はすごく嬉しそうでした。

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トールさん健在って感じで嬉しかったです。2文節のみ、常態なのが気に掛かりました。最近、犬描きになっているDとしては犬に接する機会が増えましたのでとても身近に感じられる作品でした。命を張って禁煙をさせたライト・・実際あるかもしれないと思える話しでした。感動物語なのですが。キラっと光る一文が見つからなかったように思えました。他の行がぼーーっとしてしまっても、ここだけ、光っていると言う文章が見つからなかった・素人のDのくせにうるさいことを言ってごめんなさい

2006/9/10(日) 午前 11:36 [ 謎のD ]

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久しぶりにトールさんの物語読ませていただきました。 重い内容ではありますが情景が良く解ります。 トールさんらしい内容だと思います。 ただ「母」のお葬式後から49日までの間がちょっと唐突な 繋げ方かなと思いました。 もう少しエピソードがあっても良いかもかな?って、 解ったようなことを言ってしまいました。ではまたお邪魔します。

2006/9/11(月) 午前 0:03 [ えりこ ]

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拝読しました。とてもトールさんらしい作品ですね。所々、口調が変わってしまうところがきになりました。若干枚数を増やして紀子とライトの関係も描いても良いかもしれません。とても良かったですよ。

2006/9/11(月) 午前 0:05 [ 大江 ]

謎のDさん > コメント、ありがとうございます。本当ですね。常態の部分があります。今度修正しておきます。やっぱり、推敲はしないとダメってことですね。。この作品は当日の夜、帰り道の車の中で作り上げたので、即興でちぐはぐな感じです。いろいろな意見をもらって、少しずつ推敲していこうと思います。どんどん、ご意見お待ちしています。

2006/9/11(月) 午後 0:46 [ sophia ]

えりこさん > そうですね、ところどころにもう少しエピソードを盛り込んでメリハリをつけてもいいかな、という気がしますよね。私も読み返すとそう思います。この作品と、「風見鶏」は無推敲ですが、やっぱ思いついたまま書くっていうのは難しい。。もっとがんばります。

2006/9/11(月) 午後 0:49 [ sophia ]

おおえさん > いつもありがとうございます。やっぱり、読んでいると少し違和感がありますよね。少しずつ直していこうと思います。殆どメモ書きを起こしたような段階なので、まだまだ改善の余地ありです。がんばります。

2006/9/11(月) 午後 1:32 [ sophia ]


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