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小さな王国の小さな村、その村のはずれに、1人の狩人が住んでいました。 狩人は名をエクトールといい、いつも粗末な服を着て、頭には白い羽飾りのついた若草色のとんがり帽子をかぶっていました。 弓の腕はまずまずのものでしたが、困っている人を見ると獲物をあげてしまうので、いつも自分が生きていけるだけの貧しい暮らしをしていました。 エクトールには一人の友人がいました。 名をヨハンといい、酒ダルのような体に風船のような丸い顔、少し薄くなった頭、そして、線を引いたような細い目をした男です。 ヨハンは欲の深い商人で、いつもエクトールが獲ってきた獲物を安く買い取っては、それを村人たちに高い値で売りつけていました。 エクトールはそのことを知りません。そして、村の人々も。 エクトールにとってヨハンは一番の親友です。 でも、ヨハンにとっては一体どうだったのでしょうか? 彼の心の中は金儲けのことでいっぱいでした。 エクトールには3つの宝物がありました。 1つは見事なガラス細工でできた1本の鳥の羽、もう1つは黄金でできた鏃(やじり) そして、3つめはエクトールの目と同じ色をした小さな2粒のエメラルドのついた首飾りです。 ガラス細工の羽は、その昔、エクトールの家に1晩の宿を借りた工芸家が、お礼として置いていったものです。 黄金の鏃は、エクトールの父が生前、王国の弓術大会で優勝したときに賞品としていただいたもの。 そして、エメラルドの首飾りは、エクトールの母が生前とても大事にしていた形見の品です。 どれもエクトールにとっては命と同じくらい大切なものです。 もちろん、欲深いヨハンがそれに目をつけないはずがありません。 2人とも星が好きだったので、夜、よく星を見ながら酒を飲んでいました。 そのとき、ヨハンはいつもその3つの品を譲ってくれといいました。 でも、エクトールは 「これだけは」 と首を縦には振りませんでした。 ある日、ヨハンは家に帰ると妻にいいました。 「あの恩知らずのエクトールめ! こんなに俺が頼んでいるのにいつまでたってもうんとは言わん。 あれだけのもの、あんなやつにはもったいない! 金なら出すといっているのに」 ヨハンの妻は、これまたヨハンに輪をかけて強欲な人間で、また、ヨハンに輪をかけて丸々とふとっていました。 さらに顔はヒキガエルのようで、その顔をひきつらせた笑顔を浮かべて こういいました。 「あんたは優しすぎるからだめなのさ。 あんなお人好し、“お金がなくて生活できない”ってだましっちまえば簡単だろうに!」 ヨハンはその風船のような顔の眉間にしわを作りながら 「しかし、それは・・・・」と口ごもりました。 ヨハンの妻はエメラルドの首飾りを欲しがっていたので、必死でヨハンを説得しました。 そして、数日後、ヨハンは久しぶりにエクトールの家を訪れました。 エクトールの家は丸太を組んで作った小さな小屋で、木々は所々腐っており、ぽつぽつときのこが生えています。 獲物が取れないときは、そのきのこと木の芽を取ってきて食べるんだと言っていました。 ヨハンはそのきのこを横目で見て、これまた腐って崩れそうな扉を叩きました。 エクトールは扉を開けると笑顔で 「やあ、ヨハン! 久しぶりじゃないか。 ちょうどいい、今日はいいうさぎが獲れたんだ。さ、入りなよ」 といって、ヨハンを招き入れました。 「どうだい! こいつ、丸々と太ってうまそうだろう?それにこっちの鹿!こいつはちょっと小柄だけど、そのぶん身が締まっててすごくいいぞ!それにこの毛ヅヤをみろよ・・・」 エクトールはやや興奮した感じでしゃべり続けます。 ヨハンはそれを聞き流し、ちらりとうさぎと鹿を見た後、大きなため息をつきました。 エクトールもヨハンの様子がいつもと違うことに気づいて、 「どうしたんだい?調子でも悪いのかい?」 と声をかけました。 ヨハンは一度口を開きかけ、何か言おうとしましたが、思い直したように 「いや、君にこんなことを言っても仕方がない・・・今日のところは帰るよ」 といってくるりと向きを変えました。 エクトールは慌ててヨハンの袖をつかみ、 「みずくさいじゃないか、僕と君の仲だろう? 困ったことがあったら力になるよ。 それに、このうさぎと鹿は買っていかないのかい?」 といいました。 ヨハンはためらいがちに口を開きました。 「実は、うちにはもう、そのうさぎと鹿を買い取るだけの金もないんだよ。 それどころか、今日食べるものさえもない。もう3日以上も何も口にしてないんだ・・・」 うつむいてそう言ったヨハンの顔は、少しやつれたように見えました。 エクトールは 「それなら、このうさぎと鹿を持っていってくれよ。 もちろん金はいらないよ」 といい、うさぎの耳をもってヨハンに差し出しました。 しかし、ヨハンは首を振り、こういいました。 「今、施しを受けて生き長らえたとしても明日はどうなる? 明後日は? 数日後は? 俺はそんなものをもらいにきたわけじゃない。 友に、お別れを言いにきたんだ」 「お別れ?」 「そうさ、この世界は俺みたいな正直者には残酷すぎる。 おまえさんから買い取った獲物だって足元見られて安く買い叩かれちまうんだ。 もうどちらにしたって長くは生きてられないさ。もう、妻とも話をした・・・」 自分でも白々しいと思える言葉でしたが、エクトールにはそれで十分でした。 「・・・ヨハン・・・君を・・・友が死にかけているのに、見捨てるわけにはいかない・・・・・・どういうわけか、うちには君も知ってのとおり、値打ちのある品が3つもある。 それを持っていってくれ。きっと、足しになるはずだ」 ヨハンは驚いた顔で言いました。 「でも、あれは君の父や母の形見の品だろう?とても大切なものじゃないか!受け取るわけには・・・」 「友を失うよりはいい。 人が死ぬよりはいい。 人の命より大切なものなんてないんだ! そうだろう?」 エクトールの真剣な眼差しに、ヨハンは少し心が痛みました。 エクトールは一度奥の部屋へ引き込み、しばらくして麻の袋を持ってあらわれました。 ヨハンはその袋を受け取り 「・・・ありがとう・・・」 といって涙を流しました。 「何を言ってるんだ。 あたりまえだろう。 友達じゃないか!」 そういったエクトールの笑顔はとても誇らしげで、これ以上ない喜びに満ちていました。 ヨハンは何度も礼をいい、エクトールの家を出た後は、それはもう、空にでも舞い上がりそうな勢いで、一目散に家へ帰りました。 エクトールは新緑の中をかけてゆくヨハンを見送り、「これでいいんだ」 と笑顔でうなずきました。 それから何度月が満ち欠けたでしょうか。 エクトールは相変わらずの生活を送っていました。 山で狩猟をしては、なんとかそれを食べて暮らす、着る物だって毎日同じもの、食べる物だって、火であぶっただけの簡素なものです。 でも、その生活は以前となんら変わりはありません。 ただ1つ、大きく変わったことは、あの日以来ヨハンが訪ねてこなくなったことです。 そのヨハンはというと、今や国中で知らないものはいないほどの大富豪です。
ヨハンは、黄金の鏃をめずらし物好きの貴族に売りました。 貴族は、それは喜んで黄金の鏃を大金で買い取りました。 また、ヨハンはガラス細工の羽を国王様に献上しました。 国王はとても喜んで、ヨハンに貴族の位を与え、故郷の村一帯の土地を領地とするようにいいました。 そして、エメラルドの首飾りは自分の妻にプレゼントしました。 彼女にその首飾りは似合わず、それをしているさまはとてもこっけいなものでしたが、彼女はとても喜びました。 ただ、すぐに飽きてしまい、宝石箱の奥で眠ることになってしまいましたが。 ともあれ、今やヨハンは土地を治める領主さまとして、裕福な暮らしをしています。 エクトールは突然偉くなってしまった友に会いに行くこともできずにいたのです。 |
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(,,-`ω´-)ん〜・・・ 続きはどうなるんでしょう?
2006/4/16(日) 午後 11:51 [ - ]
今回のを書いて、はじめて5000文字までというのを知りました。 まだ何作か書き溜めた物語もありますが、中には長い作品もあるのでまた分割になると思います。頑張って書きます!
2006/4/17(月) 午前 10:40 [ sophia ]