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星空の狩人 《2》

そして、時は流れ、厳しい冬がやってきました。
その年の冬はひどく寒く、エクトールの村も一面雪に覆われてしまいました。
動物はどこかへ隠れてしまい、まったく姿を見せず、食料となりそうな木の芽やきのこも見つからず、エクトールは冬がくる前に蓄えた食糧で細々と暮らしていました。
しかし、その食料も尽きてしまいました。
エクトールはどんよりした灰色の空の下を、村中食料を分けてもらえるよう頼んで歩きました。
とはいっても、どこも条件は同じで、村人たちからは
「ヨハンさまの所に行けば、きっと・・・」
といわれるだけでした。

10日間以上も何も口にせず、誰からも食料を分けてもらえぬまま、エクトールは仕方なくヨハンのところへ向かうことにしました。
灰色の空からは雪が降り始め、エクトールの足取りをさらに重いものにしました。

今や村一番の富豪となったヨハンの邸は、それはそれは広く大きく、すでに夜を迎えて、邸の窓のひとつひとつにオレンジ色の炎の明かりが灯っていました。
邸の扉を叩くと、中からは召使らしい老人が現れ、「少々お待ちくださいませ」 と丁寧なお辞儀をして、また邸の中へと消えていきました。
真冬の夜です。先ほど降り始めた雪は少しづつ激しさを増し、エクトールの若草色の帽子を、その羽飾りと同じ色に染め上げています。
どのくらい待ったことでしょう。
永遠とも思える時間が過ぎ、やっと邸の扉が開いたものの、答えは、とても厳しいものでした。
「旦那さまはおまえなんか知らないといっている。 さっさと帰れ、この物乞いが!」
「!!そんな・・・だって、僕はヨハンの・・・」
「うるさい!さっさと帰れといってるだろうが!」

追い出されるようにヨハンの邸を後にし、街道を家路へと向かうエクトールには、もう体力が残っていませんでした。
エクトールは真っ白な雪の上に仰向けになり、空を見上げました。
いつしか雪はやんでいて、雲の切れ間からは輝く星たちが顔をのぞかせていました。
「今度生まれ変わったら星になろう。 疲れて空を見上げた人達が僕を見て、勇気が出るような、そんな星に。
ヨハン、君ともう一度だけ話がしたかったなぁ。 前みたいに、星を見上げながら一緒に酒が飲みたかったなぁ」


 星たちは知っていました
 エクトールが誠実に生き抜いたことを。
 エクトールが誰にも分け隔てなくやさしかったことを。
 エクトールが自分たちを愛してくれたことを。

 星たちもエクトールが大好きでした。 だから、星たちはエクトールを形づくりました。
 弓を構えたエクトールの姿を。

 ガラス細工の羽は空へ昇りました。
 そして、星たちのかたどったとんがり帽子のてっぺんで白く輝きました。

 黄金の鏃は空へ昇りました。
 そして、星たちのかたどった弓矢の鏃として黄金色に輝きました。

 2粒のエメラルドは空へ昇りました。
 そして、星たちのかたどったエクトールの眼として緑色に輝きました。

 
そして、一年が過ぎました。

 
ヨハンは1人、物思いにふけることが多くなりました。
その日もなかなか寝付けずに、ワイングラスを片手に、寝室のベランダへ出てゆきました。
もう、邸の明かりも全て消え、村にも明かりのついた家はなく、月の光と星の輝きだけが辺りを照らしていました。
ヨハンは小さなため息をつき、ベランダの手すりに手をかけ、空を見上げ、こういいました。
「友よ。 よくこうして星を見ながら酒を飲んだなぁ。 あの頃は貧しかった。 だが、友よ。 君がいた。 今は、こうして友と呼べるものは一人もいない。 なんと虚しいものだろう。
それに、裕福な暮らしというものは、人をだましてまで手に入れるものじゃない。 後に残る気持ちのなんと心苦しいことよ。 友よ、俺はなんておろかなことをしてしまったんだ・・・」
ヨハンの体は小刻みに震え、目からは大粒の涙がこぼれました。
見上げた空は光がにじんで、そこにうつったものは、懐かしき、友の姿でした。
『ヨハン、君は気づいたじゃないか! まだやり直せる。 君にはまだできることがあるはずだ。僕はいつでもここにいる。 また、一緒に酒を飲もう。 ヨハン』
袖で涙をぬぐい、見上げた空には狩人をかたどった瞬く星しかありませんでした。
でも、その星を見ていると、なぜか、勇気が湧いてきます。
そして、たしかにヨハンには聞こえていました。 エクトールの声が。

 
それからのヨハンは、自分の財産を投げ打って、人々のために尽くしました。
飢饉に苦しむ町や村があれば、たくさんの食料を援助し、また国中に病院や孤児院など、たくさんの施設を建てました。
妻は出て行き、財産はすぐに尽き果ててしまいましたが、ヨハンはいつも心からの笑顔で、死ぬまで人々のために尽くしました。

故郷の村の人々は、彼をたたえ、村の中央広場、以前はヨハンの邸があった場所に1体の銅像を建てました。
空に向かってグラスを傾け、語りかけている、太った商人の像です。
その台座には、こう書かれています。

 
 「この男によって、前途ある1人の若者がその尊い命を失った

  この男によって、数限りない人々の命が救われた

  我々はこの男から学ぶべきことが数多くある。 そして、決してそれを忘れてはならない

                                その男の名は ヨハン」

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失って初めて大切なものがなんだったのか分かる・・・人間は愚かな生き物ですけど、やり直しも出来るんだよね・・・いいお話でした。どうもありがとう((。´・ω・)。´_ _))ペコ

2006/4/16(日) 午後 11:56 [ - ]

こちらこそ、こんな長い物語に付き合っていただいてありがとうございます。失敗しても気づくこと、それが大事です。 これを書いた当時は「17歳」というのが話題になっていた時期で、少年犯罪の増えたことに対して、大人は批判するばかり。でも、そうじゃなくって、本当は見本となるべき大人のほうに問題があるんじゃないかって思って書いた作品です。 「学ぶべきことが数多くある」大人になりたいものです。

2006/4/17(月) 午前 10:47 [ sophia ]

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面白い物語〜! すごいですね〜。

2006/4/20(木) 午後 8:00 [ 水牙帝 ]

ありがとうございます。 皆さんに喜んでもらえるものを書けたら幸いです。 またお暇なときにでも読んでくださいね。

2006/4/21(金) 午前 2:45 [ sophia ]

初めまして♪素敵なお話、どうもありがとうございました!(1)で、ヨハン、あかんやん!!と思いましたが、みにさんの言う通り、やり直すことができて、そしていつまでも、大人子供関係なく学ばせてもらってることに感謝したいと思いました。

2006/4/29(土) 午後 10:33 [ toc**afe ]

はじめまして。この「星空の狩人」は、以前はホームページにて掲載していたもので、最も人気の高かったものです。むしろ、大人にこそ読んで欲しい物語です。これからもがんばりますので、よろしくお願いします。

2006/4/30(日) 午前 2:49 [ sophia ]


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