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奇跡ノート

 ほんの些細なことだった。ただ、無口でおとなしかった私は、そのときの質問に答えることが出来なかっただけ。
「ねえ、のぞみちゃんはクラスで誰が好き?」
みんなが順番に答える中、順番が回ってきたときの私の返事は「・・・」だったの。ただ、それだけのこと。
 それ以来、私には友達がいなくなった。

 3年生の時に始まったいじめは5年生になっても続いてたし、先生も、両親もあまり気にしてくれなかった。それでも私は学校に通い続けた。だって、みんなは私のこと嫌いだったけど、私はみんなのこと嫌いになれなかったし、一人で部屋にいるのは寂しいから。

 休みの日の私の遊び相手は一緒に暮らしてるおじいちゃん。とはいっても、おじいちゃんと一緒にテレビを見たり、お昼寝したり、お散歩に行ったり。なんだか、わたしもおばあちゃんになっちゃったみたいだよね。
だから、きょうもおじいちゃんとお昼寝。おじいちゃんは横で机に向かって一生懸命今日の日記を書いてるの。
「おじいちゃん、毎日毎日よく続くね」
「うん?うん、わしぐらいになると日記をつけとかんとよう覚えていられんからな。こうやって、思い出をいっぱい詰め込んでおくんだよ。」
そう言って、さらさらと筆を走らせているおじいちゃんの字は、私にはさっぱり理解不能だった。なんとか読める部分はないかってじーっと見てたら、おじいちゃんが言った。
「なんだ、のぞみちゃんも書きたいのか?」
違うよ・・おじいちゃん。
私が言葉にするより早く、おじいちゃんは一冊のノートを取り出してきた。
「いいことを教えてやろう。ただ日記を書いても面白くないだろう?だからの、このノートにはな、毎日起こった奇跡を書きとめるんだ。いっぱい奇跡を集めてごらん。ノートいっぱいに集まったら、すごいことが起こるんだぞ!」
おじいちゃんはそういって、誇らしげに私にノートを差し出してきた。いっぱい集まったらすごいことが起こるって・・・おじいちゃん、私もう5年生だよ。そんなのにだまされないって・・・
とりあえずノートを受け取りながら、私は聞いてみた。
「でもさ、奇跡ってめったに起こらないから奇跡なんでしょ?そんなに毎日書くことないんじゃないかなぁ」
おじいちゃんはにやりと笑って答えた。
「まだまだだのう。毎日の生活には数え切れんほどの奇跡が詰まっておる。ほんの些細なことでも、今まで起こりえなかったことだったりする。それをあつめてごらん。毎日の生活から小さな奇跡を集めるんだよ。きっと、いっぱい集まったら大きな奇跡が起こるから」
だから、だまされないって。
そう思いながらも、私はその日からその日記をつけることにした。だって、面白そう!
表紙にはでっかく、こう書いた。
「奇跡ノート」
でも、これが意外と大変だと気づくのはすぐのことだった。

7月5日
今日から奇跡ノートをスタート。今日は・・・

あれ?今日の奇跡ってなんだろう。何があったけ?う〜ん。あ、そうだ。今日はこれにしよう。
7月5日
今日から奇跡ノートをスタート。今日はおじいちゃんに一冊のノートをもらった。今までこんな変な日記考えたこともなかった。これが奇跡かも。

こうして、私の奇跡ノートは始まった。

7月6日
今日はいい天気。たまにみかける黒猫に、おはようってあいさつをしたら、「ミャア」だって。いつもは振り向きもしないのに、こっちに寄ってきて顔をすり寄せていったの。ビックリした。これって奇跡?

7月7日
今日は七夕。この日は毎年天気が悪いのに、今日はすごいくっきり天の川が見えるの。ちょうどその周辺だけ雲が避けてるみたい。

7月8日
今日は1日特にいじめられなかった。なんだか、みんな忙しそうにしてて、私なんかには構わなかったみたい。その方が気が楽ね。こんな奇跡ならもっといっぱいあればいいのに。

毎日続けるとなると、本当に大変。だって、本当に些細な奇跡って、見落としちゃうんだもん。こんなに難しいんだったらやめとけばよかった。

毎日、そんなことを思いながら、私は奇跡ノートを付け続けた。そんなある日、私のクラスに転校生がやってきた。
「・・・から来ました、伊藤ちひろです。」
転校生ってお得よね。なんだか特別に見えるし、最初のうちは凄い人気者だったりして。
「・・・じゃあ、伊藤さんの席は南さんの隣ね」
ぼんやり考え事をしてたら、急に先生が言ったの。わぉ。転校生が隣だって。確かに私の隣は空いてるけど・・これ、今日の奇跡ノートに書こうっと。
 でも、その日の奇跡はそれだけじゃなかったの。
「よろしくね、南さん。私、こっちにきて誰も友達がいないの。よかったら友達になろうよ」
だって!でも・・・
「でも、私と友達になったらいじめられちゃうかも・・・だって、私、いじめられっこ・・・」
最後のほうはちょっと悲しくて言葉が出なかった。
「いじめ?そんなの関係ないよ。私がともだちになりたいんだもの。私、いじめとかは大嫌い。どうせたいした理由もないくせに」
そんなことを言ってくれた子は初めてだった。私、とても嬉しかった。

7月13日
 今日は何から書こう?うちのクラスに転校生がやってきた。伊藤ちひろさん。私の隣の席になって、私と友達になろうだって!ビックリした。すっごい元気で可愛い子なのに。私と友達になっていじめられないといいけど。
でも、やっぱり嬉しい。ともだち。

伊藤さんってば、すっごい運動が得意だったの。バスケがうまくて、足も速いし、縄跳びもすっごくじょうず。頭もよくって、あっという間にクラスの人気者になっちゃった。よかった。私の心配は必要なかったみたい。
もちろん、私にもふつうに接してくれる。私へのいじめは続いていたけど、なんだか色あせて見えるぐらいすごい人気だった。

その日は体育の授業があって、それが終わって着替えていた時だったの。私の机から1冊のノートが落ちて、それをちひろが(私は伊藤さんって呼んでたんだけど「ちひろってよんで。私ものぞみってよぶし」って言うんだもん)拾ってくれたの。
「のぞみ、ノート落ちたよ。ん?ナニこれ?『奇跡ノート』?」
「あ、それ・・・」
まさか、学校には持ってきてなかったはずなのに。なんかにまぎれちゃったんだ。だって、持ってくると机の中いたずらされた時に見つかっちゃうから。
「ただの、日記、だよ」
「日記?題名が気になるゾ〜??」
するどい。本当のことを言ったほうがいいかも・・・。
「あのね、これはおじいちゃんに教えてもらった日記で、毎日起こった小さな奇跡を、どんな小さなことでもいいから書いてくの。奇跡を書く日記」
「奇跡を・・・面白そう!私もやりたい!教えて!」
それから、ちひろも奇跡ノートを始めたの。

 「ねえねえ、昨日は何書いた?私はね、今日のご飯はハンバーグ〜って念じてたら本当にハンバーグだったから、それ書いたよ」
ちひろって、本当に面白い。
 「私はね・・・」
 こうして、たくさんの奇跡が集まっていったの。

 そうして、7月も終わりに近づいて、明日からは夏休み。夏休み中はいじめられないけど、ちひろとも会えないから寂しいなぁ、そう思ってたらちひろが言ったの。
 「ねえねえ、明日さぁ、釣りに行こうよ」
 「つ、釣りぃ〜?」
 「そう、釣り。近くにさ、あのなんとか沼ってあるじゃん。あそこ結構釣れるらしいのよね。私結構好きなんだぁ。」
 「べ、別にいいけど、明日から夏休みで、その初日って・・・」
たしか、釣り道具はおじいちゃんがもってたはず。
 「だって、夏休みだよ!40日間遊び倒さないと!夏休み中会えないと寂しいじゃん」
 「40日間遊び倒すって、宿題が勘定に入ってませんよ、おじょうさん」
 「宿題は31日に一緒に頑張ろう!」
 「そんな無茶な・・・」
でも、私もその気になりかけてたりして。そんなやりとりをしてたら、横から
 「ねえ、私もさ、一緒に行ってもいいかな・・・?」って。
 「あ、さっちゃんも来る?いいよ、いいよ」
 「じゃあさ、みよちゃんとまっちーもいいかなぁ?」
 「いいよ、みんなで行こう!」
いいの?私もいるのに?

 「ねえ、おじいちゃんさぁ、釣り道具持ってたよね。明日借りてもいいかなぁ?釣竿が3本ぐらいあるといいんだけど」
 「おう、持っとるよ。いいけど、3本も?」
 「うん、みんなで行くんだけど、釣竿持ってる子があまりいなくて・・・」
 「みんなで?いいとも!何本でも持っていくといい」
おじいちゃん、なんか嬉しそう。
 「奇跡、起きたみたいだね」

 次の日のことはもう書ききれないぐらい。ちひろは結局一匹も釣れなくて(ボウズなんてやだぁ〜って、ずっとわめいてた。ボウズってなんだろう?)みよちゃんとまっちーはすっごくでっかいのを釣って、私とさっちゃんはずっと笑いっぱなしだった。もう、お腹が痛いくらい。
 それからみんなで毎日のように一緒に遊んだ。私へのいじめは嘘のようになくなって、友達はどんどん増えていった。そして、私も中学生になった。

 「おじいちゃん、行って来ます。」
私はおじいちゃんの仏壇にお線香をあげ、手を合わせた。おじいちゃんの文机の上には色あせた一冊のノート。今なら読めるかも、ちょっと手を伸ばしてみる。
 「のぞみ〜、ちひろちゃん来たわよ。早くしなさい!」
玄関からお母さんの声。
 「は〜い!今行く!」
私は駆け出した。

 風が、やってきた。
達筆で「日記」と書かれた机の上のノートがぱらぱらとめくれ、止まった。

9月17日
 私にも孫が生まれた。ちっちゃくて、なんて可愛いんだろう。あいつにも見せてやりたかった。もう、ただ生きていくだけ、何も残されていない人生だと思っていた。でも、この子をみたら、まだまだ生きていくのも悪くないと思った。

 神様、こんな私にも素敵な奇跡をありがとう

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いいですね〜これ♪ こういうポジティブ思考で毎日いられたら素敵です! 傑作押しておきます〜ポチ♪

2007/3/19(月) 午後 7:07 uri**an11

これまでの中で、上位に入る好きさ?です(^_^)とてもすんなりお話に入り込めました。

2007/3/21(水) 午前 0:34 whi**stsn*w

うりちゃん > やっぱり前向きに考えるっていうのは大事ですよね。自分の雰囲気や周りへのあたり方も変わってきますし。傑作、ありがとうございます!

2007/3/22(木) 午前 9:53 [ sophia ]

悠紀さん > ありがとうございます。これはもう10年近くも前に構想を練り上げたもので、文章に起こすまでにずいぶんかかってしまいました。発表することが出来てよかったです。

2007/3/22(木) 午前 9:54 [ sophia ]

10年ってすごいですね!トールさん、昔からお話かいていたんですか?

2007/3/24(土) 午前 0:15 whi**stsn*w

悠記さん > 物語を書き始めたのは13年ほど前からになりますね。授業中にノートに書き込み始めたのがきっかけです。掲載作品でもっとも古いのは「花になったかまきり」で、これが13年前になります。そう考えると長いものです。。

2007/3/26(月) 午後 7:25 [ sophia ]

すごい!継続は力なり、ですね。わたしも頑張ります。

2007/3/31(土) 午後 11:11 whi**stsn*w

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トールさん、復帰なさってたんですね、たまに見に来ていましたが今日、見に来て更新があったので旦那さまと一緒に拝見しました(^ω^)旦那さまもトールさんのお話は楽しみにしていたんですよ(ノω`*)んふふw 次回更新も楽しみにしています。

2007/4/4(水) 午後 10:23 [ みに ]

悠記さん > そう言われると、もう長いこと書いてきました。この場に発表されていない作品もいくつかありますし。いつか本に出来るぐらい作品が溜まったら自費出版でもしたいなぁと考えています。お互い頑張りましょう!

2007/4/11(水) 午前 11:16 [ sophia ]

みにさん > お久しぶりです。今でも忙しくてなかなか更新できませんが、ちょっとずつ更新しています。旦那様も!ですか。いつもありがとうございます。次回作はもう決まっています。トール作品では旧作になりますが「うさぎの恋」という作品を手直しして掲載予定です。いつになるかは分かりませんが・・・お楽しみに!

2007/4/11(水) 午前 11:19 [ sophia ]


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