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学生の頃に影響を受けた。 何気なく寄ったギャラリーに展示されていた写真、そう、あのロバート・キャパのものだった。 たった1枚の写真がなぜ、こんなにも語りかけてくるのだろう? あの時の感動が、私の活動の原点だった。 大学を卒業してすぐに、私は1台のカメラと小さなナップザックだけを持って中東に渡った。 紛争の続く国。まだ、国中のそこかしこに地雷が埋まっているという。 今は、ここで写真を撮りつつ、日本に帰っては個展を開く、往復の生活だ。 戦争の悲惨さ、繰り返してはいけない過ちをもっと多くの人に伝えるために。 今回もいい写真が撮れた。 飢餓に苦しむ人々。ジープに乗った兵士が構える機関銃。地雷の爆発。 個展に来る人はそう多くは無いが、確実に何かを感じていってくれる。 きっと、小さな子供でさえも。 私は、そっと親と一緒に来ている小さな少年に近づいていった。 「お母さん、この人銃を撃とうとしているよ。ほら、銃に撃たれて倒れている人もいるよ。なんで、この写真を撮っている人は助けてあげないの?」 「!?」何を言っているんだ、この子は? 個展は無事終了し、私には理解できない不可解な気持ちだけが残った。 私は今、あの国にいる。 今回は運良くテロ組織に潜り込むことができた。 危険ではあったが、取材という名目でうまく騙すことができた。 彼らも普通の人だ。ただ、思想がすれ違っただけの。 「明日はダーナへ向かう。途中小さな村があるが、そこで食料を仕入れろ。方法は任せる」 リーダーの男が言った。 方法は任せる?しめた。シャッターチャンスがあるかもしれない。 小さな村を襲う兵士。これはいい写真になりそうだ・・・ (この人銃を撃とうとしているよ。ほら、銃に撃たれて倒れている人もいるよ。なんで、この写真を撮っている人は助けてあげないの?) そのとき、少年の言葉が耳に響いた。 そういうことか!そうだ、今ならばまだ助けることができるかもしれない。 私が危険を伝えに行けば・・・ 私は夜遅くに抜け出し、小さな村へと向かった。 夜明けにたどり着いた私は、村長らしき老人にテロ組織が近づいていることを伝えた。 「ここには先祖代々伝わってきたものがある。若い者や子供たちは非難させることにしよう。だが、わしら年よりは残らねばならん」 「彼らは何をするかわかりませんよ!中には人殺しを楽しんでるやつだっているんです。まだ間に合います。早く非難してください」 「残らねばならんのだ。あんたは村の者と一緒に非難してくれ。伝えてくれてありがとう」 老人は頑として聞かず、若い者や子供たちは非難を始めた。 私は、ここに残ることにした。 一人でも多くの命を救えるかもしれない。 しばらくして、ジープの走る音が聞こえてきた。 私は村の中央広場が見える位置に隠れ、カメラを構えた。 広場には中央に井戸があり、大事な村の水源となっている。 そこへ、一人の少女が現れた。 大きな水桶を抱え、井戸へ近づいていく。 私は飛び出した。カメラを置いて。 「君、何をしてるんだ!ここは危ない。早く逃げるんだ!早く!」 「でも、お母さんが病気で寝てるの」 「そんなことを言っている場合じゃ・・・」 話し声が聞こえる。広場の向こうから、銃器のカチャカチャ擦れ合う音も。 程なく、一人目の兵士が姿を見せた。 「いたぜぇ。俺が一番乗りだ」 男はそういうと、機関銃を乱射し始めた。私はとっさに少女に覆いかぶさる。 背中が、足が、焼けるように熱い。 機関銃は私のカメラにも当たっているようだ。向こうでカメラが飛び跳ね、一瞬光った。 「いいか、死んだフリをするんだ。そうすればやつらは気づかずに通り過ぎる」 私は少女に繰り返した。 もう、あちこちから銃の音が聞こえる。 私のカメラ・・壊れてしまっただろうか・・少女は無事だろうか・・帰ったら個展を開こう・・あの少年を招待するんだ・・私は人を救ったよ、って伝えよう・・ 数ヵ月後、小さな個展が開かれました。
井戸の向こうから銃を撃つ兵士。小さな少女をかばう人。 個展の最後は、ボロボロになったカメラを大事そうに抱えた少女の写真が飾られていました。 親と一緒に来ている小さな少年が言いました。 「お母さん、戦争をなくそうね。僕にできることあるかなぁ」 |
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お話だけじゃない、これが現実なんですよね・・・なんとも悲しくてコメントのしようがありません。。。
2006/4/26(水) 午後 7:57 [ - ]
このようなことがいまだに起こっている。なぜ戦争などをするのだろうか。
2006/4/26(水) 午後 8:05 [ 水牙帝 ]
そのものずばりですね。ここまでストレートに書くのはつらくなかったですか?まるで本当にあった話みたいです。わたしも、いつか何らかの形で、world peaceを問い掛けていかなければと思います。
2006/4/27(木) 午前 1:02
みにさん > いつも傑作の評価をいただいてありがとうございます。今作は重苦しい題材です。かつて9・11同時多発テロの際に書き上げた物です。私たちが中々垣間見ることのない現実、でも、実際に起きている世界もあるワケで・・・。もし、そういうものに出会ったなら、目を逸らさずにいたいものですね。
2006/4/27(木) 午前 9:26 [ sophia ]
waterfang_emperormage > 世界各地で戦争、紛争といったものは中々なくならないですね。大体発端は宗教問題。イエスも仏陀もマホメットもアラーも誰もそんなこと望んではいないのにそれでも戦争は起きてしまう。悲しいことですね。
2006/4/27(木) 午前 9:29 [ sophia ]
悠記さん > 歪曲した文章もいいですが、ストレートな文章には、書き手の切実な思いを伝える効果もあります。私は、思いテーマを取り上げるときには、なるべくストレートな文章で書いています。自分も目を逸らしちゃいけない、って思うからかもしれません。world peaceに向けて私たちにもできること、たくさんあるはずです。伝えることができたなら幸いです。
2006/4/27(木) 午前 9:32 [ sophia ]
あの事件は今でも胸が痛くりますよ・・・地下鉄サリンもそうです。私あまり関係ないことかもしれないんだけど今子供の学校の役員そろそろ任期は終了で大詰めで忙しかったのね?その役員の仕事を通じて感じたことがこの物語の元にもなってる気がするんだよ〜
2006/4/27(木) 午前 11:20 [ - ]
みんな自分の生活・暮らし(国)が第一で他の家庭やお母さんのことなんか思いやったりするのはなかなか難しいんだよね・・・だから子供はお世話になっている学校(世界)をよくしようって一生懸命働きかけ頑張っている保護者の方も勿論いるんだけど、一方では我関せずで、自分の家庭の事情だけしか考えない人(テロ)も大勢いるんだよね
2006/4/27(木) 午前 11:24 [ - ]
それは勿論自分の家庭(国)をよくしようとか生活の安定とか向上を思っての行動なんだけど、少しだけでもまわりの人の言葉に耳を傾けてお互いが助け合って自分のできることでも協力できることはしようと思える気持ちの問題なんじゃないかな・・・って感じたんだよね・・・
2006/4/27(木) 午前 11:28 [ - ]
地球はこんなに広いのに、みんな結構狭い世界で生きてるもんです。自分の周りをよくすることは考えても、もっと広い世界を良くしようと思いつくのは難しい。中には募金活動やチャリティーなんてのもありますが、それを悪用しようという輩もいて、見極めるのも難しい。かといって、自分中心で行動を起こすには、どうしていいかわからない。だからなおさら遠ざかってしまうんですよね。
2006/4/28(金) 午前 9:56 [ sophia ]
突き詰めれば、やっぱり信頼と助け合いなんですね。一人一人は戦争はいけない、人殺しはいけない、飢餓に苦しむ人々を助けてあげたいってわかっているのに。それを前面に出して、信頼できる、助け合える仲間と出会えたならきっと何かできるのでしょう。一人では難しいことも。みんながそういう気持ちになれたら素敵ですね。
2006/4/28(金) 午前 9:57 [ sophia ]