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ボクにはママがいない。 ううん、ちょっと前まではいたんだよ。 でも、きっとボクが悪い子だから出ていっちゃったんだ。 神様、ボク、絶対にいい子になるから、ママを返してください。 パパは忙しくてずっと仕事してる。 だから、ボクは保育園にずーっといるんだ。 夜、ボクがもう眠くなるころに、やっとパパは迎えに来てくれるの。 だから、ボクにはパパと一緒の時間もぜんぜんないんだ。 保育園の先生もやさしいし、お友達といっしょもすごく楽しいけど、やっぱり、パパとママといっしょが一番うれしいよね。 だから、ボクはすごくいい子にしてる。ママが早くかえってくるようにね。 でも、ママはいつまでたってもかえってこない。どうしたらいいのかなぁ。 今日は日曜日。パパがお休みで一緒にお買い物にきたよ。 小さなお店の前に、小さな植木鉢が置いてあったんだ。 やっと読めるようになったばかりのひらがなで、「きぼうのたね」って書いてある。 ボクは、お店の人に 「きぼうってなに?」 って聞いたんだ。 お店の人は 「お願いをしながら、この種をだいじに、だいじに育てると、願いが叶うのよ」 って教えてくれた。 ボクは、パパにお願いして、ひとつ買ってもらったんだ。 もちろん、お願いは「ママが戻ってきますように」 ボクは毎日毎日お願いをしながら、希望の種に水をあげたよ。 そして、やっと芽が出てきたんだ。 やった!これでママがかえってくる! でも、やっぱりママはかえってこなかった。 なんで?ボクのお願いがたりないのかなぁ。 ママが戻ってきますように・・・ママが戻ってきますように・・・ママが・・・ そんなある日、大ちゃんが話してるのを聞いたんだ。 「昨日、パパとママと3人できぼうの丘にいってきたんだ。チョー楽しかったよ!」 ボクはおどろいて 「きぼうの丘?それどこ??」 って大ちゃんに聞いたよ。 大ちゃんは電車で2ついった所だって教えてくれた。 ボクは気づいたんだ。 きっと、「きぼうのたね」は「きぼうの丘」に植えないといけないんだ。 だって、保育園のトマトを育てるときにも先生が言ってたもん。 「土がちゃんとしてないと、立派なトマトにならないんだよ」って。 次の日曜日、パパがお仕事でいないときに、ボクはスコップと「きぼうのたね」をもって家を飛び出した。 本当はおうちで留守番してなきゃいけないんだけど、ママが戻ってくるほうが大事だもんね。 駅までは簡単。パパとママと3人で何回も行ったことがあるから。 でも、一人で電車に乗るのははじめて。 すごくドキドキする。 ボクは切符がいらないから、自動改札は素通り。 あれ?でも、どっちのでんしゃに乗ればいいんだろう? ボクがきょろきょろしていると、おじいさんがやってきて、声をかけてくれたんだ。 「ぼうや、どうしたんだい?」 ボクが 「うん、ボクね、きぼうの丘に行きたいの。でも、でんしゃがわからなくて」 って言うと、おじいさんは 「きぼうの丘?それなら知っているが、パパとママは?」 って言った。 ボクは 「パパはお仕事、ママはいない。どしても行きたいの。お願いです。教えてください!」 って言ったんだ。 そしたら、おじいさんはしばらく考えていたけど、 「わかった、連れて行ってあげよう」って。 やった!これできぼうの丘に行ける! おじいさんに連れられてでんしゃに乗ったボクは、2ついった駅で降りて、おじいさんと歩き出した。 おじいさんは 「あそこはたしかにいいところだよ。ひなたぼっこしたり、かけっこしたりするには最適だ」 って言ってた。 でも、ボクはもっと大事なことがあるんだ。 かけっこもしたいけどね・・・ おじいさんはきぼうの丘についたら、 「ここがきぼうの丘だよ。じゃ、わたしは用事があるからこれでね。バイバイ」 ってどこかにいっちゃった。 ボクは目の前にある公園と、大きなお山(保育園の校舎ぐらい大きいかも!)を見回して思ったんだ。 やっぱり、あそこが一番かな? ボクは走って、お山の上まで駆け登り、スコップを握り締めた。 お願いも忘れない。 ママが戻ってきますように・・・ママが戻ってきますように・・・ママが・・・ 風がやってきた。風は丘を駆け登り、頂上でくるりと回った。
小さな花がふわりとゆれる。 風はひとしきり花と遊ぶと、丘を駆け下りた。 丘の下には3人の親子が楽しそうに遊んでいる。 小さな男の子は笑顔で公園を走り回っている。 風は家族のそばをしずかに通り過ぎると、一人の老人の横でとまった。 老人は微笑んで、つぶやいた。 「願いが叶って、よかったね」 |
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