千時千一夜

お読みいただき深謝します。

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 別にマスコットというわけではないのですが、晴れた日の日没から夜明けにかけて、倉庫事務所の勝手窓にヤモリがやってきます。昨年も同じで、一緒のヤモリなのかどうか確かめようもありませんが、ひとまわり大きくなったようですので、同じヤモリだろうと決めました。
 事務所の勝手(流し)の前で、深夜から朝方にかけて資料を読んだり、釣り竿の手入れをしたり仕掛けの新案を練ったり、あるいは晩酌しながら、ああでもないこうでもないといったことを考える習慣があるのですが、そのライトが誘蛾灯の役目をしていて、小さな虫たちがやってきます。それを目当てにヤモリもやってきます。
 ヤモリは、窓の上の暗い部分に逆さにへばりついて、昆虫たちをねらっているのですが、捕食はそううまくいかないようで、ときどき失敗します。ヤモリの動きは微妙で、虫を発見すると、そろりそろりと近づいて、窓を走るようにしてとびかかります。つい目撃してしまったのですが、窓を斜め下に一気に駆け下りたとおもったら、なにやらペタッといった音がします。要するに、失敗して窓の下に落ちたらしいのです。
 だいじょうぶかと気になってみていると、十五分くらいするとはい上がってきて、妙に安心した気分にさせられます。ヤモリにも学習能力が備わっているらしく、新たな獲物に対して、今度は、相当に距離を縮めて、自分の口の三倍はあろうかという蛾をパクッと咥えた瞬間を目撃したときは、おおやったなと拍手してしまいました。
 他愛もない話なのですが、ヤモリは深夜のガラス越しの友人となったようで、日没から朝日が照り出すまでの十時間以上、そこにじっとへばりついている「彼」の根気には脱帽です。
 今月25日の未明は、ワールドカップ・サッカーの試合があるということで、世の中がなんとなくざわついていました。潮の状況や天気予報をみると、これが絶好の釣り日和で、しばらくぶりに釣りに出掛けました。たぶん釣り人もサッカー観戦でいないだろうという読みで、朝三時に事務所を出ることにしたのですが、ヤモリは相変わらずガラスにへばりついたままです。灯りを消すには忍びなく、そのままにして出掛けましたが、きっとヤモリのおかげだったのでしょう、たくさんの釣果をいただきました。
 今、倉庫事務所の移転・整理を計画中なのですが、あの深夜の友人にどう説明すべきか、どうもよいことばがみつからないようです。
 

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風琳堂主人
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