千時千一夜

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▲津波に耐えたポプラ
 
 藤原清衡は新山寺を、奥羽六百ヶ所にまつらせたとされるが、その痕跡を確認できるのはわずかなようだ。奥州藤原氏という敗者の上を流れる歴史時間は過酷である。紫波郡紫波町の新山寺もそうだったが、転変はあるものの、神仏分離以後は、新山権現→新山神社と神社化している。三陸町越喜来[おっきらい]にも清衡建立の新山寺を前身とする新山神社があり訪ねてみた。この新山神社創建の地は、延喜式神名帳に記載される陸奥国気仙郡「衣太手神社」の故地の一つとされ、この衣太手神が遠野郷の天女伝説と関わっている話は項を改める。
 越喜来の象徴[シンボル]といってよいかとおもうが、ここには岩手県内では最巨木の杉「三陸大王杉」がある。推定樹齢は一五〇〇年かといわれるが、実見すれば、たしかにそれくらいは経ていそうな幹の太さである。大王杉は八幡神社の社殿横(向かって左)に聳えている。しかし、幹の傷みは激しく、樹木医の助けがなければすでに枯死していた可能性が高い。また、社殿横(右)には樹木医・山野忠彦氏命名の「千年杉」もあるが、これは千年の樹齢はないようにおもう。
 
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▲八幡神社拝殿(向かって左が「三陸大王杉」、右が「千年杉」)
 
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▲千年杉
 
 八幡神社境内にある大王杉の樹齢にあわせて八幡神社の創祀を語るわけにいかない。なぜなら、八幡祭祀のはじまりは、七世紀末から八世紀初頭あたりだからだ。さらにいえば、この地は本丸城(八幡舘)があったところで、その城主は多田左近将監といわれ、築城時期は建武年間(一三三四〜一三三六)とされる(境内案内)。多田氏の祖は多田満仲、つまり源氏一族で、この多田氏が勧請したゆえに八幡神社の祭祀がここにあるとおもわれるが、いうまでもなく、大王杉のほうがはるかに古い。八幡神社の前に、ここに別の祭祀があった可能性はあるが、現状、それを明かすのは困難である。
 
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▲大王杉と社殿
 
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▲一本の木(画面中央)
 
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▲三陸大王杉(左)と千年杉(右)の樹叢
 
 それにしても、この杉は太い。社殿背後から撮影していて気づいたのだが、今回の津波によって壊滅的となった町の光景、そこに山と積まれた瓦礫の横に一本の木が立っている。大王杉がある丘陵から下りて近づいてみると、樹種はポプラらしく、東北では珍しい。それにしても、このポプラ、すさまじい津波の破壊力によく倒れずにいたものだとおもう。
 陸前高田市・高田松原の最後の「一本松」、その再生の努力を断念した報道を耳にしたが、越喜来のこのポプラはどうなのだろう。今は冬の季節で、木は葉を落としている。春、それはちょうど大津波の一年後に近いともいえるが、このポプラがもし緑の葉を茂らせるとしたら、それこそ再生のシンボルとなるにちがいない。春か初夏に、また訪ねてみようとおもいながら越喜来を後にしたのだった。
 

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