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平成23年度東海口腔衛生学会例会は、石川 昭氏を学会長として、去る平成24年1月22日(日)、朝日大学歯学部において約60名が参加して開催された。当日は、東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 准教授 相田 潤 先生による「口腔の健康の社会的決定要因」と題した特別講演が行われた。健康格差は人々をとりまく社会的決定要因により生じることを、国内外の論文の紹介ならびにご自身の研究を通じて説明され、健康格差是正への対策の方向性を示された。地域歯科保健に携わる学会員にとって非常に興味深い内容であった。その他、5題の口演発表があり活発な議論と意見交換が交わされ、盛会であった。
 
特別講演
口腔の健康の社会的決定要因
                      東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 准教授
                                            相田 潤 先生 
  健康の社会的決定要因(Social determinants of health)は、健康格差の原因である。健康格差の縮小と、そのための社会的決定要因への働きかけが近年世界的に注目されている。この潮流は歯科界にもおよんでおり、国際歯科研究学会(IADR)は歯科疾患の健康格差を重要な研究課題と位置付けて、Global Oral Health Inequalities: the Research Agenda (GOHIRA)という研究組織を主導、2011年にはJournal of Dental Researchの紙面上で健康格差研究の重要性に言及した(Williams、2011)。研究の世界でも、健康格差への対策の重要性が認識されるようになっている。
 健康格差とは、単なる偶然による差ではなく、地域や経済状態などの社会環境の差により生み出される、避けられるはずの健康の差を示す。例えば、齲蝕の減少が言われて久しいが、東北地方の齲蝕水準は、関東地方の10年以上前の水準であり、地域における格差がみられる。
 健康格差は、「社会的勾配(Social gradient)」を描く。これは、所得や社会的地位が高いほど健康状態が良く、低いほど悪い、という健康の社会状況に応じた勾配が数多くの疾患で認められる現状を反映した考え方であり、「健康格差は一部の貧しい人だけの問題ではなく、すべての人々に何らかの影響を与えている」ということを意味している。
 また、健康格差への対策は、「犠牲者非難(Victim blaming)」に陥ってはならない。健康格差は人々をとりまく社会的決定要因により生じるため、社会的決定要因への対処を行う必要がある。病気になった個人に焦点を絞った対策では、効果的でないことが多く、必ずしも健康格差を解消できない。社会的決定要因を考慮しない対策は、病気の犠牲者に対して、個人に何らかの病気の原因があったことを非難することにつながると言われているのである。
 このように、近年の研究は健康格差と社会的決定要因に関して様々な事実を明らかにしている。今回の講演では、まず社会的決定要因について概説を行い、口腔の社会的決定要因に関する国内外の論文の紹介を通じて近年の研究において社会的決定要因と健康格差への対策がどのように考えられているのかと、研究のいくつかの方向性について述べたい。
 
1.Williams DM. Global oral health inequalities: the research agenda. Journal of dental research 2011;90(5):549-51.
 
 
 一般口演
 1.質問紙票による現在歯数の評価について
             坪井信二1)、宇佐美 毅1)、小栗智江子1)、稲葉明穂1)、小川直孝2)、中西康裕2)、中垣晴男3)
         1)愛知県健康福祉部健康担当局健康対策課 2)社団法人愛知県歯科医師会
         3)愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座
  愛知県が策定した「健康日本21あいち計画」では、県民や健康づくりを推進する関係者が取り組むべき10分野の1つに「歯の健康」を設定している。その指標の1つとして「80歳で20歯以上ある人の割合」を取り上げ、口腔診査を伴う調査により評価をしているが、協力率の低下によりデータの妥当性が問われている。そこで今回、協力率の高い質問紙による現在歯数と口腔診査結果で整合性を検証し、質問紙による調査が利用可能か否かを検討した。
 調査対象者は、平成22年度8020達成サポート事業対象者500名のうち、同意が得られ、質問紙票による事前調査および口腔診査を受けた満80歳の114名とした。
 質問紙票による「現在歯数」と「口腔診査結果」を比較した結果、質問紙票および口腔診査結果を「20本以上」と「20本未満」に分類した場合の敏感度(ST)=84.3%、特異度(SP)=87.7%、敏感度+特異度(ST+SP)=172.0%、Kappa係数=0.984であり、質問紙による調査の有効性が示唆された。
 
 2.歯面研磨がヒトエナメル質の表面性状に与える影響
      尾上文菜1)、犬飼順子1,2)、中垣晴男2)、向井正視1)
         1)愛知学院大学短期大学部専攻科 口腔保健学専攻 2)愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座
 歯面研磨がエナメル質の表面性状に与える影響を操作時間、研磨材の種類、ラバーカップの硬さの各要因について中心線平均粗さ(Ra)およびSEM像により検討した。
 ヒト抜去歯エナメル質を、操作時間5、15、30、45秒間、市販研磨材アドネスト®ファイン、アドネスト®コース、ポリッシングペースト®1号、ポリッシングペースト®3号及び水の5種類、ラバーカップはハードタイプおよびソフトタイプを使用してそれぞれの条件下で歯面研磨を行った。各試料のRaを測定後Ra値増減率を算出し三元配置分散分析および多重比較を行った。
 その結果Ra値増減率は、操作時間の5秒後は15秒後と比較して有意に高かった。研磨材の種類は荒研磨材アドネスト®コースは水以外の他の研磨材と比較して有意に高く、ラバーカップはソフトタイプが有意に高かった。したがって、歯面研磨用器具・材料の性質や特徴を把握し、適切な使用方法で臨床に応用すべきであると考察できる。
 
3.清涼飲料水が象牙質の硬度に与える影響
     藤田恵未1)、犬飼順子1,2)、中垣晴男2)、向井正視1)
        1)愛知学院大学短期大学部専攻科 口腔保健学専攻 2)愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座
 近年、歯の酸蝕症が注目されているものの、象牙質の酸蝕と飲料との関係は明確ではない。本研究では清涼飲料水が象牙質の硬度に与える影響について検討した。
 抜去歯の象牙質を試料として、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、飲むヨーグルト、コーラ、蒸留水の5種の試験飲料に浸漬し、ヌープ硬さの経時的変化を測定した。その結果、ヌープ硬さは、5分後では蒸留水とグレープフルーツ、および蒸留水とコーラで有意差が認められ、15分後では蒸留水とコーラ、蒸留水とオレンジ、および蒸留水とヨーグルトに有意差が認められた。また、30分後ではすべての清涼飲料水が蒸留水に対して有意差が認められたが、清涼飲料水間では有意差は認められなかった。硬度に清涼飲料水間の有意差が認められなかったのは、象牙質はエナメル質と比較して硬度が小さく耐酸性が低いため、pH値の低い清涼飲料水に浸漬したすべての試料は速やかに脱灰が開始したためと考える。
 
4.「岐阜県歯・口腔の健康づくり計画」の「妊産婦・乳幼児期」及び「学齢期」の歯科保健目標達成状況の評価と今後の取組について
      高橋秀徳1)、睫擺汗毅押法⊃緻醋盛2)、松村康正2)、大橋たみえ3)、磯篤則3)
         1)岐阜県医療整備課 2)岐阜県歯科医師会 
         3)朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野
 岐阜県では、「歯・口腔の健康づくり計画(H14〜H22)」を策定し、ライフステージ別歯科保健目標を達成するための対策事業として8020推進委員会や地域歯科保健推進会議、フッ化物応用推進事業等に取り組んできた。そこで今回は「妊産婦・乳幼児期」及び「学齢期」の平成22年度目標の達成状況の評価と今後の取組について検討した。
 この結果、「妊産婦・乳幼児期」の健康目標として「むし歯のない3歳児84.1%」は目標に向けて大幅に改善した。また行動や環境目標として「フッ化物歯面塗布を受けたことのある3歳児72.5%」や「間食として甘味食品飲料を飲食する習慣をもつ1歳6か月児8.7%」、「3歳児以前の子供の親への歯科保健指導を実施する市町村100%」は目標を達成し、この見直しが必要となり、「妊娠初期に歯科健診・歯科保健指導を受ける妊産婦43.2%」や「専門家による個別的な歯みがき指導を受ける妊産婦33.0%」、「妊産婦の歯科健診を実施する市町村64.3%」、「妊産婦の歯科保健指導を実施する市町村85.7%」は大幅に改善したが、「フッ化物歯面塗布を実施する市町村85.7%」は若干改善、「幼児歯科健診後のフォロー事業を実施する市町村85.7%」は悪化しており、これらの改善対策の必要性が示唆された。
 「学齢期」の健康目標として「12歳児の1人平均むし歯数1.08本」は目標に向けて大幅に改善したが、「歯ぐきに症状のある12歳児24.9%」は若干改善し、その対策の必要性が示唆された。また行動・環境目標として「フッ化物洗口を実施する学校等施設(保・幼・小・中)175/1、206施設」は目標を達成し、その見直しが必要となり、「家庭でフッ化物配合歯磨剤を使用する小学6年生65.5%」や「昼食後の歯磨きを実施する学校等施設(保・幼・小・中)84.3%」は大幅に改善したが、「専門家による個別的な歯みがき指導を実施する小学6年生55.4%」は若干改善、「自分で歯によい間食を選べる小学6年生32.2%」は横ばいであり、この改善対策の必要性が示唆さ
れた。
 
5.「山県市民の歯と口腔の健康づくり条例」制定の背景
      尾野康夫1)、旭 律雄1)、旭 雄一朗1)、磯篤則2)
         1)山県口腔保健協議会 2)朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野
 2008年の新潟県を皮切りに、現在全国で23の道県、8の市町で歯・口腔の健康づくりや保健に関する推進条例が施行されている。国においても歯科保健の大切さが認められ、11年8月に「歯科口腔保健の推進に関する法律 」が成立、施行された。
 岐阜県山県市では2004年から全市においてフッ化物洗口事業を行っており、11年度の12歳児DMFT指数が0.11と非常に高い効果をあげている。全国の1道4県の条例には「フッ化物洗口」の記載があるが、10年4月に岐阜県で制定された「岐阜県民の歯・口腔の健康づくり条例」に「フッ化物洗口」が記載されなかった.そこで事業の継続を第一の課題としている山県歯科医師会は行政に対して条例の制定と基本的施策に「フッ化物洗口」を盛り込むよう要望した。そして、半年後の11年6月に市長提案という経緯で「山県市民の歯と口腔の健康づくり条例」が成立、施行に至った。
 全国8市町の条例の中で唯一「フッ化物洗口」を記載した山県市の条例のスムースな制定は、フッ化物洗口事業によるう蝕予防の実績が大きく後押ししたと思われる。理念を謳った国の法律と対比してみてその背景に特徴があった。

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