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 第55回東海口腔衛生学会総会は、石川 昭氏を学会長として、去る平成24年7月24日(日)、朝日大学歯学部において、約70名が参加して開催された。当日は、昨年度まで愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の教授であられ、今年度名誉教授になられた中垣晴男先生による「口腔衛生学を学んで42年―東海口腔衛生学会に期待するもの―専門家の責任」と題した特別講演が行われた。中垣先生の永年のご活動を1時間にまとめてお話しをされるのは非常に難しいことだったと思われるが、講演の内容を大別して、わかりやすく説明してくださり、改めて先生のご活動に感銘を受ける内容であった。そのほか、2題の口演発表があり活発な議論と意見が
交わされ、盛会であった。
 
特別講演
「口腔衛生学を学んで42年-東海口腔衛生学会に期待するもの-専門家の責任」
                    愛知学院大学名誉教授 中垣 晴男 先生                      
  1.  8020運動と市町村・学校保健活動
 20年前から始まった“80歳で自分の歯を20歯以上もとう”という、「8020運動」の調査から、80歳で20歯を保有するためには、生涯を通じて食習慣や生活習慣に気をつけることが大切であるということが明らかになった。また愛知県飛島村の研究から、8020に達成するためのツール「歯の健康づくり得点」票が開発できた。村では、1999年から成人住民の歯の健康づくりプログラムを開始し、6か月ごとに5年間使用できる歯の健康づくり手帳(飛島村通称“歯のさわやか健康手帳”)を使用し、ほぼ10年過ぎている。本歯の健康づくり得点は愛知県、三重県の健康増進計画に取り入れられている。さらに、市町村や産業保健の現場で使用されるようになっている。さらに、幼稚園、小学校、中学校、および高等学校版も開発され使用されていて今後が楽しみである。 
2.  エナメル質生検法開発と学校歯科保健活動
 口腔衛生学講座に入室した日に、榊原教授から、齲蝕活動性試験の宿主(歯)因子を測定するエナメル質生検法(enamel biopsy)開発をするようにと研究テーマをいただいた。その後、約10年かかったが、酢酸緩衝液を用いた「生検法としてのエナメル質溶解性測定法」を開発することができた。学校歯科医の藤垣先生のご協力を得て、愛知県のある小学校児童に個別指導の方法の一つとして応用し、そのスクリーニング法としての有用性を確認する研究を20年ほど継続できた。その個別指導の活動は現在も継続中で、その小学校で開始したフッ化物洗口(450ppm週一回)が愛知県内に普及し現在10万人を超す子どもがフッ化物洗口を行っているのはうれしい。 
3.  学校歯科医活動の支援
 学校、学校歯科医の先生方と一緒に、CO,GO,(MO)を学校歯科保健の現場への導入研究を、岐阜県東濃地区、名古屋市で行ってきた。その活動は、CO,GOの学校現場への導入を支援した形となった。名古屋市では、特別検診活動として、その後歯肉炎予防のツール開発とその展開を行ってきた。本年、名古屋市学校歯科医会は創立80周年を迎え、さらに、デンタルフロスの指導法マニュアル開発を行うことになっている。 
4.  科学すきな子を育てる
 1983年英国より帰ると、当時の酒井歯学部長から名古屋市科学館に生命に関する西館を創る計画があり、歯科から展示委員として参加するようにと指示された。1989年に従来の天文館、理工館、に加えて「生命館」がスタートした。その中で、出産のビデオを見ることができるようになったことと、歯科では「六歳臼歯をしっていますか」という16mm映画を小渡小学校のご協力で作成する機会を得た。たった2分30秒だが最初で最後(?)の映画監督を経験した。なお、その後、博物館は「生きている」こと(活動)が大切という考えで、翌年の1990年から、児童生徒対象に、歯や口腔を教材に楽しく科学好きな子が育つようにという、「歯のびっくりサイエンス」を開始した。ボランティア(びっくりボランティーズと呼ばれる)の歯科医師、歯科衛生士、養護教諭あるいは、それぞれのその学生たちで、毎年年一回実施し、昨年の2011年で22回を行うことが出来た。歯や口腔を教材で田中耕一氏、益川 敏英先生、野依良治先生のようなノーベル賞受賞者までもいかなくても、科学好きな子が育つことを願っている。
5.  研究・教育・臨床活動
 三重県朝日町水道水フッ化物添加の評価(1970)、caries activity test (enamel biopsy)開発(1970-)、Abrasive micro-sampling法の開発と展開(1982、Oral Biofilm, reminerali-zation研究(1970-)、8020疫学研究と歯の健康づくり得点開発(1989-)、社会疫学研究(life course, common risk, inequality, social capital, SOC, dental floss)、そしてfluoride optimal intakeやtooth erosion研究などを行ってきた。また、本学の口腔衛生科臨床の特徴は歯科医師と歯科衛生士のチームワークである。1978(S53)年(アルマ・アタ宣言が提唱された歴史的な年)から、1歳6か月児や3歳児の健康診査の保健所見学実習を開始した。また、2年生では「タバコがない社会を実現する」、「21世紀の歯科医師の責務」などをテーマに問題解決学習としてブレーン・ストーミング、KJ法でまとめ、発表し質疑を受けることを行っている。さらに、3年生の「社会と歯学実習」では、春期の4月に6-7名の班で研究テーマを決め、4-5月に調査実験し論文をまとめ、6月に発表(パワーポイント使用、12分、質疑8分)、常勤・非常勤の教員が内容・発表・考察・質疑回答について評価するという実習を行っている。昨年7月に開催された東海口腔衛生学会総会では2チームが発表を行い、質問に対して適切な回答を行うことができ、まさに”Learning to be”と思っている。  
6.  健康科学の今後の方向
 健康科学から今後の歯学の進む方向は、なぜ疾病になったかでなく、どのように健康を保ったかを調べる健康創造(サルトジェニシス)研究、ライフコース疫学、健康格差(社会疫学)研究、共通生活習慣病リスク予防、地域社会の絆力(ソーシャルキャピタル)研究へと進めることが肝要である。また、健康政策は疾病への対応のみならず、健康決定要因へ対策が重要であること、現在の日本人の健康を大切にする意識はまだ高くなく、これが歯科医療需要の現状に関係していると考えられる。したがって、我々は人々が歯や口腔の健康の大切さをもっと認識できるように支援努力が必要である。すなわち、歯科臨床における予防的処置・保健指導、及び公衆歯科衛生の向上にさらに努力する必要があり、歯学はもっと、人々が自ら健康を守る態度習慣育成に努力すべきある。野依良治先生のお言葉をお借りすると、歯学の“専門家の責任”といえよう。
7.  自らの反省と東海口腔衛生学会に期待するもの:専門家の責任
  歯科医師法には“歯科医療と保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上と増進を図り、もって国民の健康な生活を確保するもの”とあるが、今国民は歯科保健の向上について十分情報が伝えられていないと思う。A県の成人約4,000名の調査結果から、今日でも定期的に歯科医師の定期チェック受診は3割で、5割の人は痛い時に歯科医師へ行くと回答している。また歯周病の開始点、すなわち歯間部歯肉炎の予防のために必要なデンタルフロスの使用率は5%であると日本の現実をつらく思う。8020はスタートして20年たったが、キャンペーンの運動に終らないようにしなくてはならない。さらに、学問的に立証する介入研究まで未だできていない。日本全体もそうであるが、愛知県の「健康日本21あいち計画」の結果では、20歯以上の方が増加し、歯石除去を受診する人が増加傾向にあるが、とても国民、県民の健康増進は先進国として十分とは言えない。自分自身42年間口腔衛生学を学んでも、実は本当に健康づくりに寄与できていなかった。まさに「専門家の責任」を反省している。
 そこで、東海口腔衛生学会の皆様に次のように期待する。東海地方は全国的にも、健康づくり先進地域であるが、さらにその先を進めていただきたい。健康づくりのUpstream, not downstreamへの志向は、対象年齢についても言える。高齢者への対応や予防が強調されがちであるが、法体系が不備な青少年から若い成人への働きかけや活動が大切である。学校保健、地域保健、産業保健と行政範囲を超え連携してプログラムを展開してほしい。願くば、10年後にそのプログラムが採用された法律ができるくらいになってほしい。高齢者はdownstream,小児や青少年はUpstreamと考えて、生涯保健という立場で活動を展開してほしい。すでにフッ化物洗口運動はその良い例であると思う。それが、人々の健康づくりに寄与する歯科関係者の「専門家の責任」と思う。
 今回体力的限界にて現役を退くことは、後ろ髪をひかれる(もっとも後ろ髪がないが)。幸い、東海口腔衛生学会の皆様は大志をお持ちなので、これからを期待する。
 終わりに、永年の諸先生や皆様のご支援を感謝し、皆様の今後の益々のご発展とご健勝、そして、本会の益々の発展を祈念する。

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