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都会の街中、ビルとビルの間にポカリと空いた空間がある。
それなりに広い敷地だというのに何故か其処には建物が建たない・・・。
そしてその場所の前を通る人々も何も違和感なく、まるで『そうでなければならない』とでもいうように誰も意識を向けようとはしない。
この不思議な空き地には実は見るものを選ぶ『店』が存在した。
真っ黒な塀に囲まれた『屋敷』と呼ぶに相応しいその店は、和洋折衷のモダンな造りをしていて『アンバランスな様式美』を表現していた。
『店』と呼ぶにはいささか抵抗があるかもしれないが、間違いなくココは『願いを叶える店』だった。
店主は『次元の魔女』とも呼ばれる妖艶な女性で今は”壱原侑子”といった。
彼女はもう長いこと時に支配されない存在として『理』から僅かに外れる事で様々な次元を超え、時間を超越し人外の者達の友として、敵として生きていた。
彼女の世界は凡そタイクツで時々訪れる『客』の相手をしながら、ある『時』を待っていた。
それは彼女と彼女に良く似た存在が、『世界の崩壊』を阻止する為に施したあらゆる要素が力と意味を持ち効力を発揮する時で、彼女は『その時』の番人だった。
しかし、数ヶ月前
彼女のタイクツな日常は一人の少年の登場によって、実に愉快なものに変化していった。
今日も少年の怒鳴り声と彼女が作り出したマルとモロという名の少女達の声が屋敷に満ちていた。
クスクスクス
「侑子楽しそうだな」
「そうねぇ〜、楽しいわ。モコナは楽しくない?」
「もちろん!!楽しいぞ!四月一日は凄くイイ奴だしな!」
「「それにご飯が美味しい!!!」」
そう言って声を揃えて二人(?)で笑いあう。
コレほどに屋敷に笑いが満ちることは過去にはなかったことで、侑子は四月一日という名の少年を大切にしていたが、彼に降りかかるだろう試練を避けさせることはソレを知っていてもできなかった。
だからこそ彼がこの先の運命に翻弄されることを知っていても、そしてそれが避けられないものだと知っていても今は何もすることができない彼女に、日々彼が持ち込む騒動や彼に引き寄せられたものたちの巻き起こす事件は彼女にとって免罪符のように彼に対する罪悪感を僅かに拭ってくれているのだ。
そして侑子が『彼が少しでも笑っていられるように』その願いを託した存在は今頃、自分には見る事のできない屋敷の外で彼がココから出てくるのを待っているだろう。
清冽で清浄なオーラを持つその人物は『百目鬼静』という。
アヤカシを惹きつける四月一日を守る障壁であり、友人であり、現在は恋人でもある。
そして侑子は脇息の脇に置いた風呂敷包みに視線を向けると、意味ありげな笑みを浮かべた。
「お使いに行ってもらわなきゃね」
「侑子、ソレ」
「そうよ、そろそろ百目鬼君にもご褒美をあげなくちゃいけないでしょう?」
「そうだな!でもソレは・・・大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「まぁ、百目鬼もいるしな!」
「えぇ」
今度はモコナと一緒に意味深な笑みを浮かべると、呼び鈴を鳴らした。
「はいはいはいはい!何ですかぁ〜?侑子さん」
バタバタと走って来た四月一日の目前に"ヌッ"と風呂敷包みが差し出される。
思わず受け取ってしまった四月一日はキョトンとして雇い主を見やる。
「何ですか?コレ?」
「ウフフ。中身は秘密よvで、お使いに行ってきて」
「秘密って・・・、あからさまに怪しいんですけど?」
「お使いに行ってきて、四月一日。気を付けて。」
「だから、中身・・」
「いずれ分かるわ」
はぁ。
四月一日が諦めたように溜息を吐くと、侑子は満足そうな笑みを浮かべた。
「・・・それで、何処に届ければいいんですか?」
「ここよ」
そう言って差し出された細い指の先に小さな紙片が挟まれている。
ソレを受け取って四月一日は重い腰を上げた。
「そうそう、ソレを届けたら今日はもういいわ、百目鬼君が待っているんでしょ?」
「そ、そそそそそれはっ」
どもりながら真っ赤になった四月一日を見て愉しげな笑い声を上げると、四月一日はそのまま逃げるように走り出ていった。
「やっぱり四月一日は最高ね!」
「そうだな!」
「「四月一日最高〜〜♪」」
屋敷の住人達の声は明るい。
走り出た四月一日がどうなったかはまた別のお話。
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