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第七話 上陸
美咲が連れ去られて数日。浜崎高校では数日前の襲撃事件はまるで無かったかのようなことにされていた。学校の体裁を保つためのようだ。もちろん、マスコミにも公表されておらず、学校に来ていない者も多かった。
「それで、どうするんだよ?」
席についている生徒が半分ほどになってしまった教室。その窓際の席から声は聞こえてきた。
前の戦いで傷ついた波岡健司だ。
顔のあちこちに、湿布や絆創膏をしている。
「そろそろ動かないとね」
同じく、腕や顔に傷がある白鳥純一が言う。
「問題はどこに行くかだな」
村上俊輔が腕組みしながら言った。
「『もう一人のスパイ』、っていうのが誰かわかればな〜」
河口光が頭を掻いて言った。
「目星は付いているの?」
原谷加奈が言った。
「ああ。一応考えてはいる」
多上紅輝である。ちなみに彼の傷が一番ひどく、額には包帯が巻いてある。
「誰なんだい?」
純一が問いかけると、
「佐渡だ」
紅輝が答えた。
「あの非常勤の奴か?」
俊輔だ。
「そうだ」
「理由は?」
「あいつがこの学校に来たのが、銀三兄妹と一緒だから、かな」
「え、それだけかよ?」
健司が拍子抜けしたように言った。
「でも他に手はないし、試してみる価値はあるんじゃない?」
純一が言う。
「じゃあ誰が行くんだ?」
光が尋ねる。
「俺と純一で行ってくる」
紅輝が言った。
「よし、善は急げだ。今から行こう」
純一は言うと、紅輝とともに教室を出た。
「やあ君たちか。どうしたんだい?」
職員室。その端の方にその机はあった。
「佐渡先生。あなたに聞きたいことがあるんですが」
紅輝たちが訊ねた相手は、佐渡慶介だ。
「何かな?」
「率直に聞きます。綾香たちの居場所、ご存知ですか?」
それを聞いた佐渡は、爽やかな笑みを浮かべた顔から一転して、何かを企むように冷たく笑っていた。
「ああ。彼女たちか」
「知っているんですか?」
「ああ。君たちなら、僕に聞きに来ると思っていたよ」
「じゃあ、教えてもらおうか」
紅輝がそう言うと、含み笑いをしながら佐渡は言った。
「いいのかい?死ぬことになるかもしれないよ」
「えっ!?」
二人は驚いたように目を見開く。
「当然じゃないか?彼女たちは本気のはずだ。邪魔をするものは、たとえ君たちでも容赦はしないだろう」
佐渡は淡々と言った。
「・・・・・・」
紅輝はその言葉を噛みしめ、自分たちの負った傷を見て、口を開いた。
「それでも構わない」
「何?」
佐渡は驚きの表情を浮かべながら聞いた。
「俺が死ぬのは構わない。だけど、仲間が死ぬのは耐えられない!」
紅輝は拳を握り締め、強く言った。
「なるほど。いい心がけだ」
佐渡は感心したように言った。
「わかった。教えてあげよう。ただし、一度しか言わないぞ」
佐渡の言葉に、二人は耳を傾けた・・・。
「分かったのか?」
紅輝と純一が帰ってくるなり、健司が聞いた。
「ああ。太平洋の沖にある無人島だそうだ」
「よし、じゃあすぐに行こうぜ!」
健司は立ち上がりながら言ったが、紅輝は黙っている。
「おい、どうしたんだよ?」
「健司、お前はここに残ってくれ」
紅輝の言葉に驚いた健司。
「何でだよ!俺じゃ力不足だってのか!?」
「そうじゃない。あいつらは、はっきりいって強い。今のままじゃ勝てないだろう」
「それで?」
「だから、お前には“あれ”の開発を急いでもらいたい」
「“あれ”?それってこの前言ってた・・・」
「そう。俺と健司、それに純一用の強化システムだ!」
今にも雨が降りそうな、鉛色の空。
その下の海に浮かぶ名も無き島。
その砂浜の上に、四対の足が降り立った。
「ここだな・・・」
強くなってきた風に吹かれながら、紅輝が言った。
「早めに行かないと。美咲ちゃんの体調が心配だしね」
純一が言い、
「よし、さっさと終わらせようぜ!」
光が腕をポキポキと鳴らせながら言う。
「焦るな。ここは敵の本拠地だし、罠があるかもしれない」
俊輔が冷静に言った。
「ああ。静かに、だけど素早く行こう」
紅輝の言葉で、四人は動き出した。
四人が上陸した砂浜から数分歩くと、森が見えた。
「この先か?」
さらさらした砂地から、ぬかるんだ地面に変わる。
あちこちから伸びる枝を避けながら、四人はどんどん進んでいく。
「・・・!おい、見ろ!」
先頭を歩く光が声を上げる。
四人の前に現れたのは、森に隠れるように建っている建造物だった。
黒いコンクリートでできたその建物は、四人の前に立ちふさがる壁のようだった。よく見ると、壁の中央に扉があった。
「どうする?」
光が後ろを振り向き、尋ねた。
「行くしかないだろ」
紅輝が促した。
光はうなずき、扉を開けた。
キィ・・・。
錆びついた音を立てながら、扉が開いた。
扉の先にあるのは人が二人通れるほどの細い通路だった。建物の内部はわずかに明かりがあるだけで、薄暗い。
「よし、行くか」
四人は通路を進み始めた。
紅輝たちが建物に入ったころ。一番奥の小部屋に三つの人影があった。
「兄さん、準備ができました」
銀直也の声が部屋に響く。
「直兄ぃ、報告はいいから早く始めなよ」
銀綾香が口を挟む。
「綾香、物事には順序というものがあってだな・・・」
二人が口論をしているのを傍で聞いていた銀拓馬は、突然顔を上げる。
「・・・やはりまた来たか」
「「え?」」
二人は困惑した様子で兄を見る。
「その勇気は認めよう。だが、所詮それまでだ」
拓馬は天井を見上げ、言った。
薄暗い通路を進む紅輝たち。
「トラップが何もないのはおかしい。みんな、気をつけよう」
純一が三人に注意する。
「なあ、紅輝」
光が紅輝に話しかける。
「ん?」
「健司が作ってるものって何なんだ?」
「秘密だ」
「えぇ!?なんでだよ?」
「ま、色々あるのさ」
それっきり紅輝は黙り込んでしまった。
数分歩くと、急に目の前の通路が開けた。通路の先にあったのは、15メートル四方ほどの小部屋だった。部屋の奥には、さらに通路が続いていた。
「さっさと行こうぜ」
光が後ろを向いて促すが、
「待て」
そう言った紅輝は光の向こう側、つまり小部屋の中を見ていた。
部屋の中央には、二つの人影が立っていた。
「誰だ?」
紅輝が問いかけたが、
「「変身!」」
<HEN-SHIN>
二つの人影が言い、電子音が鳴り響く。
「何!?」
四人は驚きながらも身構える。
<CHANGE BEETLE>
二人はブレスを使って変身したようだ。それぞれの右腕に、ザビーゼクターと同じくらいの大きさのメカがついていた。
一人のボディは銀色で、顔には一本の大きな角がまっすぐ伸びている。
もう一人は、体は同じだが色は錆びたような銅色で、顔の角は短く上に伸びていた。
何より目を引くのは、二人の右肩に突き出している、カブトムシの角を模した装甲である。
「侵入者がいるとは聞いていたが・・・こんなガキどもだとはな」
銀色のライダーが言う。
「こいつらはライダーシステムを持っている。気を抜くな」
もう一人の銅色のライダーが言った。
二人が会話を交わす間に、紅輝は仲間に言った。
「相手はライダーシステムを使っているし、ここは全員でいこう」
純一はうなずくが、
「ダメだ!」
「ダメだな」
光と俊輔が声を揃える。
「ここでお前らがケガでもしたら、野沢を助け出すのは難しくなるだろ?」
「だから俺たちがあいつらを倒す。二人は先に行け」
その言葉を聞いた紅輝と純一は驚く。
「バカなことを言うな!」
「そんなことをしたら二人は・・・・・・」
「おい、何をコソコソしている!?」
純一の声に重なるように、銀色のライダーが叫ぶ。
「お前らなんか、俺たち二人で十分だ、って言ってたんだよ!」
光が自信満々に言う。
「ほう、ならばやってみろ!」
銅色のライダーは言い、四人の元に駆け出した。
四人は散開し、放たれる蹴りを避けた。
「紅輝、純一、早く行け!」
「ここは俺たちにまかせるんだ」
二人は目で訴えていた。
「多上くん」
純一も言う。
「・・・・・・二人とも、死ぬんじゃないぞ」
紅輝の言葉に、光と俊輔はうなずいた。それを見た紅輝と純一は、部屋の奥の道へと走った。
「何!?行かせるか!」
銀色のライダーが駆けつけようとするが、二つのメカが体にぶつかって阻まれた。
「くっ!」
二つのメカは、背中合わせになった光と俊輔の手に収まった。
「貴様ら、二人だけで勝てると思っているのか?」
二人の後ろに立つ、銅色のライダーが言った。
「ああ。俺たちは強いからな」
俊輔がニヤリと笑いながら、不敵に言う。
「ほう、いいだろう。俺はケタロス。貴様らを地獄に落とす者だ」
ヘラクスという銅色のライダーが俊輔に言う。
「俺はヘラクス。覚えていられるかな?」
光の正面に立った銀色のライダー――ヘラクスが言った。
「河口、いくぞ」
「へ、誰に言ってんだ!」
背中越しに声を掛け合った二人は叫ぶ。
「「変身!!」」
俊輔はザビーゼクターを、光はホッパーゼクターを、それぞれセットした。
<HEN-SHIN>
<CHANGE WASP>
<CHANGE KICKHOPPER>
俊輔は仮面ライダーザビーに、光は仮面ライダーキックホッパーに変身した。
「行くぜ!!」
気合の声とともに、キックホッパーはヘラクスに、ザビーはケタロスに向かっていった。
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