こんなんdeたんか

連載長編小説 『絵画きのバラッド』(仮)スタートしました。普段、小説を読まない方にこそ読んでいただけたら幸いです。

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 報道局はエアポケットに入っていた。朝から晩まで絶えることがない張り詰めた空気とざわめきが、一瞬だけ弛緩し綻ぶ時間が発生することがある。昼下がりに訪れた、日に一度あるかないかの瞬間だった。打ち合わせの準備を終えた沢村は、ニュースセブンの原稿チェックが未だだったと思いながらも、エアポケットに誘われて、PCの画面に展開されるツイッターのタイムラインを追い続けていた。

 テレビや新聞で伝えられる情報は、ほとんどが何らか発信者の思惑で着色されているが、ツイッターで個人が上げる情報は鮮度も透明度も高い。沢村は今までにも、原発事故の現場で働く作業員のツイートによって際どい情報を得てきた。津波の到達前に地震の揺れによって配管の破断が起きていて、それが電源の喪失に繋がったことや、高濃度汚染水を浴びてしまった作業員のその後は報道されないが、実際には亡くなっていることなど、中央電力や政府が絶対に国民に知らせたくないと思っている情報だ。もちろんテレビでは扱えない情報ばかりだが、沢村は真実を追求せずにはいられない。

「沢村さん、新聞からのファックスです。例のスーダンでのハイジャック事件、犯人グループが投降したそうです」

 沢村の集中を解いたのは、篠原のうわずった早口だった。小走りで近づいてきた篠原は、一枚のペーパーを掲げている。受け取り、目を通す。確かに、親会社である日東新聞経由で知らせてくれる外電の翻訳記事は、ハイジャック事件の結尾を伝えていた。

「通信社からのヴィデオファイルは夕方には届くそうです」
「わかった。トップに組み込む。準備してくれ」
「はい」

 篠原が返事をするや否や、耳ざとく聞きつけた前田が二人の間に鼻先を突っ込んできた。

「おっ、速報?」
「スーダンのハイジャック、投降したらしい」
 沢村が答える。

「犠牲者は?」
「ゼロ」
「反政府のテロリストだっけか」
「はっきりしてないが、そうだろうって。まあ、出所がロイタルの情報だから西側の都合だろうがな」

 独自取材のままならない海外のニュースは、通信社との契約により一方通行で配信される。技術の進歩により昔とは比べものにならないくらい高速化し、リアルタイムといっても差し支えない程の早さだ。難点は検証しようがないことと、世界を幾つかのテリトリーに分ける巨大な通信社数社によって、それぞれの都合が良いように書かれたものだということだ。そんな偏った情報に、沢村は慣れてしまったわけではないが、テレビで放送しないわけにはいかないことは承知していた。

「政府は独裁で国民を苦しめ、正義の反政府組織が解放運動をやると。西側はそう思わせたいわけだ」

 前田があごひげを触りながら喋るのは確信があるというサインだ。向き合った篠原も承知しているはずだった。彼はスポーツ担当とはいえ報道の人間なのだ。世界がどのように動いているのか、きちんと理解している。

「今回は被害者を出さずに投降したんだから、成功したとは言えないんじゃないですか」
 篠原は素直に疑問を口にする。

「刷り込むには十分なんじゃない」
 すかさず前田が答える。

「シノ。世界で中央銀行のない国、六ヶ国、知ってるか?」

 沢村の急な質問に篠原は「えーっと」と言いながら少し戸惑った。

「イラン、シリア、リビア、キューバ、北朝鮮、んー、そうかスーダンも」
「正解。西側が嫌悪してる国々だな。悪の枢軸だって名指してる国さえある」

「中央銀行がないと嫌われるんですか」
「吸い上げられないからな。奴らは支配したくてしょうがない」

「それで大量破壊兵器を持ってるとか難癖つけて政権を倒すんですか」
「倒した後、傀儡政権と中央銀行を立ち上げる。破壊した街の復興やその後の利権は、もちろん自国のゼネコンが頂くことになってる」
 前田が補足してくれる。

「日本も大昔にやられたのさ」

 篠原の顔から一瞬、表情が消えた。沢村は篠原の表情に色が着く前に口を開く。

「明治維新がそうだ」
「そんな……」
「英雄は作られる」

 沢村の言葉に篠原は憤りの表情を顕わにした。奥さず、直ぐに顔に出てしまうところが、彼女の致命傷にならなければいいがなと沢村は思う。

「沢ちゃん、お客さん」

 前触れなく遠くから投げられた自分を呼ぶ声に、引き寄せられるように顔を向けた。報道局の出入り口付近に、立ち話をしていたらしい二人の男の姿がある。コーヒーを手にした報道局長とティアクター社長の高崎がこちらに顔を向けていた。

「すいません。直ぐ行きます」

 腰を浮かせた沢村は、遠くの二人に届くように大きな声で言うと、篠原と前田のほうに向き直った。

「俺、高崎さんとこれから打合せだから。シノ、話しはまた。あ、ボード、第八会議室にしといてくれ。あと、ハイジャックの件、頼む」
「わかりました」

 篠原の返事に不満が混じっていたのは、さっきの話が消化不良を起しているのだろう。そう思いながらも、沢村は打合せ用の資料を小脇に抱えて席を立ち、前田の肩をぽんと軽く叩いた。

「前田ちゃん、また後で」
「おう」

 沢村が近づいてきたのを認めた高崎は軽く手を上げた。

「どうも」
「お早いですね。高崎さん」
「沢ちゃん、頼むよ特番。崎ちゃんも一肌脱いでくれるってよ」

 局長は高崎が俳優としてデビューした頃からの知り合いだ。同年代でもある二人は、局長や芸能プロダクションの社長と、若い頃と立場が変わっても、そのままの気さくな関係を続けている。沢村とは二回りも年上になる高崎だったが、分け隔てなく接してくれる大先輩であり信頼を置いている。番組制作の責任者としてはとてもありがたい仲間のひとりだった。

「ありがとうございます。ひとつお手柔らかに」

 沢村は二人に向けて、嫌味にならないように気をつけて言うと、「行きましょうか」と高崎を促した。

「どこだっけ、場所」
「三階の会議室、八番です」

 沢村と高崎は局長に見送られて、報道局を後にした。

 報道局のある十一階のエレベータホールは人がまばらだった。沢村が下行きのボタンを押したと同時に高崎が口を開いた。

「さっきは盛り上がってましたね」
「ええ、もうすぐ報道されますんで言いますけど、スーダンのハイジャック、投降したんですよ」

 やってきたエレベータに乗り込みながら言う。下行きを待っていたのは二人だけだったようだ。

「そう。割りと早い解決でしたね」
「まだ裏事情まではわかりませんけどね」

 沢村が三階のボタンを押しながら言うと、一拍置いて扉が音もなく閉まる。一瞬だけ足の裏に感じる重力が軽くなる。

「そうそう。ハイジャックと言えば、ネットニュースで見たんですが、シリアでテレビの電波ジャックがあったらしいですよ」

 高崎の口から意外な情報だった。

「今時、珍しいですね。スーダンの件とは関連ないんでしょうけど」
「日東さんは大丈夫ですか」

「ははっ。それはないですよ。第一、ウチなんか社員でもマスタールームがどこにあるか知らないんですよ。そういったセキュリティのために、一部の人間しか教えられないんです」
「そうなんですね」

 エレベータはどの階にも停められることなく、あっけなく三階で扉を開けた。

 二人は降りた途端、通路を慌しく移動していく人達に出くわした。先頭の男性と緊迫した様子で話しているのは女性アナウンサーだった。好奇心という名のジャーナリズムに抗えない沢村は、急ぎ行く五人程のスタッフの最後尾にいた女性ADを捕まえる。

「どうした? 速報?」
「今、静岡で竜巻が発生して、避難勧告出たんです」

「そう。サブスタの割込み?」
「はい」

 放送設備の要であるマスタールームと呼ばれる主調整室とは別に、副調整室とそれに隣接したミニスタジオが設置されているのが通常だ。緊急性の高いニュースや災害情報などを、通常番組に割り込ませて放送するときに使用される。避難勧告であれば早さが至上命題だ。直ぐに割込みの指示が出る。被害の状況などは後ほどの通常ニュースで、中継映像とともに届けられることになる。沢村はニュースセブンにも新たな変更点が加えられたことを思った。

「最近多いですね。竜巻なんて日本では起きないと思ってましたよ」

 高崎の言葉に沢村は「ええ」と答えながら、三階通路の奥へ急ぐ緊急放送チームを見送る。通路の天井に規則正しく並んだ青白い照明が、テレビ局の裏事情を明々と照らしていた。






※この章(記事)はアップは可能でしたが、新着記事への掲載、及びカテゴリ(小説)掲載なされません。
 どの語句が、誰にとって都合が悪いのでしょうか? みなさんも考えてみてください。

閉じる コメント(5)

こんにちは
報道局の慌ただしい日常がリアルに感じられ、その場の局員の中にいる様な気分でした(^O^)すごい!

どの語句が誰にとって都合わるいのか…?う〜ん、難しいです
でも、そういうときは、政治や歴史に関するものの可能性も否めない…明治維新のくだり?それとも原発所のくだり?
ごめんなさい、違ってるかもですね。ゔ〜ん分からない(´-`)

とても惹かれる表現力に、感心するばかりです。また訪問させてくださいね(o^^o)

2013/10/19(土) 午後 0:38 [ - ]

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花遊女さん、こんばんは。遅レスですみません!
リアルに感じていただけたのでしたら本望です。ありがとうございます。

Yahoo の自主規制は単語だけでなく、一記事の中で使ってある単語の組み合わせでも判定されている(多分ですが)のが初めてわかりました。
公序良俗に反する単語や文章は規制対象であるのは当然ですが、日本の闇に通じる人達に都合が悪い語句(一般の人には知って欲しくない)を密かに規制しているのは憤りを感じます。
この小説の裏のテーマでもあることですが、それが規制に引っ掛かるというのもまた皮肉なものです。

いつもありがたいお言葉、ありがとうございます!

2013/10/21(月) 午前 2:34 愛沢いさむ

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この記事のアップをお知らせする、連載小説 『絵画きのバラッド』(仮) 5の「小説カテゴリ」、遡って見てきましたがさすがにこちらは載っていました(^.^)
経済的には貧しいアジア諸国でも政府やメディアが利権の為に平気で嘘をつくことは多くの国民が知っています。ところが、何事も権威主義の日本では政府やメディア、大学、学者、医者を信じて疑うことを知らないのですからね…
日本でここまでマインドコントロールが成功したのも日本人の特性や弱点を完璧に研究して利用されたからなんでしょうね。今やメディアが国民の最大抵抗勢力になっています^_^;
マークシート方式やクイズ番組も国民に与えられた選択肢のみから自動的に答えを出させる訓練です。
この記事では「高濃度汚染水」「作業員」「亡くなって…」の組み合わせが最もヤバイです^_^;
連載、頑張ってください!

2013/10/21(月) 午後 0:46 [ ナムナム ]

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この記事のアップをお知らせする記事は、
初めは、この元記事と同じタイトルで、内容のみをお知らせにしたんですが、それだと蹴られました。ということは記事内容を書き換えてもタイトルが同じならば、同じ扱い(不掲載)にするということですね。
なので、記事のタイトルを変えて、再度、お知らせをアップしました。

本当に、みんなに疑うことの大切さを知って欲しいです!
「テレビばかり観てるとバカになる」という親世代の言葉は本当だったのです。

ヤバイ語句、教えてくださってありがとうございます。
参考にしてがんばります!

2013/10/22(火) 午前 10:44 愛沢いさむ

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内緒さん>

『原発ホワイトアウト』という現役官僚の方が名前を明かさずに、小説を書かれて先頃発売になりました。
フィクションですが、内容的にはほとんど内部告発のようだと云われています。
エンターテインメントに乗せた告発、目指す所は同じようです。

応援メッセージをありがとうございます!

2013/10/24(木) 午後 1:16 愛沢いさむ


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