こんなんdeたんか

連載長編小説 『絵画きのバラッド』(仮)スタートしました。普段、小説を読まない方にこそ読んでいただけたら幸いです。

バイク小説 400字/再掲

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         400文字ぴったりで書かれた物語です。

                  空白は含まず、文字と記号のみをカウントしています。
                    全タイトル読み切りです。1分ほどで読めます。
                    わずか原稿用紙1枚の小説をお楽しみください。

       この書庫の小説は過去にバイクを題材に書いたものを再掲載しています。

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翼を手に入れろ

 ついてないなぁ。本降りになりそうだ。

 田舎道にひょっこり現れたバス停小屋に寄せてバイクを停める。
 中に入るなり、ヘルメットとグラブを脱いだ。外の雨を眺めながらグラブを絞ると、コンクリ床に涙染みが広がる。

「おじさん、雨好き?」

 心あたりのない声に驚き、振り返る。薄暗くて気付かなかったが、隅っこに女の子が座っていた。
 それにしてもおじさんって。社会人一年生なんですけど。

「バイクだからねぇ。あんまり」
「バイクって、どこまで行けるの?」
 250とは言え、ウイングマークの付いたスポーツ車だ。
「ガソリンさえ入れればどこまでだって」
「ふーん。自由なんだ、おじさん」

「自由なんか……」
 生活のために朝から晩まで働いて、自由に出来る時間なんか幾らもない。


「心はどこへだって行けるんだよ」


 足元に薄日が射して来た。外を見ると雲が切れている。
「行けそうだな」
 言いながら女の子のほうへ顔を向ける。




 そこには薄暗い空間があるだけだった。
モッタイナイは賢者の言

 君子あやうきに近寄らず。いや、障らぬ神に祟りなしかな。
 電卓を叩きながら難しい顔をしたお父さんを横目に居間を抜ける。

「今日も唐揚げ?」
 台所でお母さんに軽く不満を言ってみる。
「おかずもリサイクルよ」
「要はお店で作り過ぎたんでしょ」
「節約、節約」

「ねぇねぇお母さん。バイクの免許取っていい? やっと十六になったんだよ。ユイもミユも持ってるし」
「父さんに訊いてみなさい」
 ちらっと居間を窺うと、お父さんは頭を抱えていた。

「お父さん、バイクの免許取っていい?」
 恐る恐る訊いてみる。

「よしっ。免許取ったらバイク買ってやる」
「えっホント?」
「お父さんが嘘を吐いたことあるか? カブなんかどうだ。乗りやすいし、若い娘が乗るとお洒落だぞ」
「うん。いいかも」
「お前が好きな黄色もあるしな」
「黄色にするっ」
 案ずるより産むが易しってこれなんだ。


「よしっ。これで配達の軽をやめて、メイがカブで行ってくれれば一石二鳥だ。なあ、母さん」
0-400_2020

 闇降る埠頭に爆音が響き渡ると、どこかで野犬が尾っぽを巻く。

 ギャラリーが待受けるゴールに、二条の光が猛スピードで近づいて来る。

 哲生のマシンは、大戦のオイルショック以降、オーランバイオ燃料になってパワーが足らない。ニトロの投入で辛くも闇ガソリン野郎を抜いた。

 ゴールラインを越えた二台のバイクは、ハードブレーキで尻を振りながら停まる。哲生はギャラリーが集まるゴールに戻り、フルフェイスを脱いだ。

「俺の勝ちだ。こいつは頂く」
 賭けの賞品だった麻袋から一摘まみコメを取り出し、口に放り込んだ。

「畜生、騙しやがったな。こいつは操作米だっ」吐き出しざま言う。

「ヤバい、FEMAの装甲パトだ。逃げろっ」ギャラリーの一人が大声を上げる。

 十数台のバイクが一斉に咆哮を上げた。リアタイヤを空転させながら発車した哲生のマシンは、FEMAパトの脇を抜ける。



 漂う紫煙が残るアスファルトに、ぶちまけられた麻袋のコメが散らばっていた。
世界が静止する日                                                Mr.T に捧ぐ

 シリンダーから排出された高温ガスがチタン製エグゾーストを通過し、サイレンサーエンドから吐き出される際の爆音と、脳内でリフレインしている16ビートに乗る流れるようなメロディは、DNAの螺旋構造の如く絡み合い、アスファルト上に描かれた見えないトレースすべきラインのように伸び行き、俺とマシンを衝き動かしていた。

 山間に入ったワインディングロードは状況も良く、999ccが発する185馬力のパワーを確実に受け止めている。
 左コーナーに向かうストレートエンドで、フルブレーキングからのレバーリリースと同時に、右膝で小さくタンクに入力する。遠心力を尻で受け止めつつ旋回し、出口に向け徐々に右手を引き絞る。

 メロディと排気音が駆け上がってゆく。


 山間を抜け民家が現れたその時、鳴り響いていた音が突如静止した。
 動揺が瞬間的に視界を狭める。



 モノクロ世界に唯一帯びた色彩は、母親の横に立つ、目を瞑り耳を両手で塞いだ少女だった。
キーリングの記憶                          勝手なコラボ企画 エトセトラ / ONE OK ROCK

「答えじゃねんだよ。オレが欲しいのは。理由だよ。理由」
 駿はビニール張りのソファに言葉と体をまとめて放り出し、自分のグラスにドライジンを乱暴に注ぎ足した。
 狭い工房の中で、ギュウとソファが主張する。
 俺は愛車のキーを尻ポケットから引っ張り出し、ハーレーのピストンを裏返した小物入れに落とした。

「俺にもくれよ」
 呑んで帰る時はバイクのキーはピストンの中で眠る決まりだ。

「理由がないのは、彼女の優しさ……」
 俺のつぶやきは駿の耳に届いているのか、いないのか。さっきからうな垂れたまま動かない駿に、グラスを小さく掲げ、一口呷る。

 試作品のレザーウォレットにあしらわれたコンチョが、テーブルの上で照明の光りを鈍く返した。

「お前は彼女のエトセトラになっちまったってわけか」
 そうつぶやいた瞬間、駿はおもむろに立ち上がり、ピストンの中のカワサキのキーを引っ掴んで大股で出て行った。


「死ぬなよ」


 応えた手にキーリングが揺れていた。





【勝手コラボ楽曲】⇒エトセトラ / ONE OK ROCK

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