葦は蒼く、ただ静かに

自作拙筆小説(短編)を掲載してまいります。

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◆三月十六日 晴れ(開宴二週前)

 勿論一人でも構わないが、友人や家族と過ごす時間というのがあっても良さそうではある。だが、今の茜にとって、三月の日曜はこれしかない。表向きはサイクリング、内情はボトルの謎解き、である。二週続けての遭遇、いずれも午後だが時間は不特定。もしかすると、どこそこのブログなどで話題になっている可能性もあろうかと、こっそり調べてみたりもしたが、手がかりは得られずじまい。自力で、自分の目と足とで、スタート地点を、または差出人を探り当てるしかないのである。
 昼食もそこそこに出かける理由として、春らしい陽気というのは好材料である。大して健康的でも活発でもなかった茜が何故?と家人には訝しがられるも、春のせいと言えば少なからず納得してもらえるから妙なものである。気温の上昇に合わせるように、ペダルを漕ぎ進むが、三週目にして趣向を変え、いつもの新神谷橋のアップダウン、鹿浜橋のアップを回避し、今はただ北本通りを北上している。岩淵の迷路をウネウネ走るのも悪くなかったが、今日のところはパス。めざすは紙に書かれていた橋、そう新荒川大橋である。行けばきっと何かがわかる。少なくともそこより上流から流れて来ないことには宴も何もセットできないだろう、そんな読みが彼女をここまで連れてきたのだった。
 入学祝いの一品として、念願の携帯電話を買ってもらえることになってはいる。今、持っていれば暇つぶしツールとしておそらく重宝していたに違いない。が、ちょっと待てよと思う。
 「そっか、現場押さえるのにも使えるんだ。流れてきたらちょっとでも録画して・・・」
 記録したものを今はやりの動画サイトとかに投稿して、情報を募るってのはどうなのだろう? 他にも目撃情報が集まってくる? もしかすると流した主が目に留めることだってあるかも知れない。前倒しで買ってもらう理由として相当かどうかは不明だが、とにかく名案を思いついたことで心は躍る。この調子なら、何時間でも待てそうだ。
 都と県の境を自転車で行ったり来たり、それでも一分間に二度三度は橋の中央から川を見下ろしている。傍から見ていると何とも落ち着かない印象はあるが、通行人は特に気に留める様子はなく、茜もそれに甘んじている。
 時に川面を煌かせる物体が流れる。注意深く視線を送ると、それは二リットル級のペットボトルだったり、プラスチック製の衣装ケースの破片だったり、目を疑いたくなるような品々である。それは正に漂流の図であり、ある種の無常観のようなものを醸し出していた。気候とは裏腹な、この言い知れぬ光景。が、時間の経過とともに違和感はなくなる。茜はしばし立ち止まり、それら浮きやすくて目立つものを飄々と目で追うばかりになっていた。
 視線を水平にすれば、鉄道橋が捉えられ、列車の往来が盛んなこともすぐわかる。ずっと下ばかり見ていた茜だったが、たまたま通過音に反応し、京浜東北線の南行列車を見送る。上野行きの普通列車がそこに重なり、しばらく左右をキョロキョロすることになる。橋が静かになったところで、再び川に目を転じる。待望の瞬間はここでやってきた。例の空ボトルと思われる個体群が漂ってくるではないか。
 「流されたばっか? よーし!」
 と思い立ったはいいものの、ではどこまで遡ればいいのか。何より土手上から見通しが利くものなのか。水際に沿ってひたすら遡上できれば訳ないが、その鉄道橋から向こうはゴルフ場が続いていたりでアクセス不能・・・あれこれ考えながら、川の流れを横目に見ながら、とにかく茜は走る。
 「いやいや、流す方だって条件は同じなんだから、川に近づけるところに行けばいいんだ。となると、橋?」
 途中、対岸に水門が見える辺りで川面が望めることはあっても、ただゴルフ場が続くばかりで、浮間公園付近もなお水際へ出るには難しそうである。ここでは、川の流れは河畔の木々に遮られ、ボトルが流れているかどうかも見えない。これでは追跡にならない。
 埼京線と新幹線が並走する鉄橋よりも下流側、ゴルフ場が切れたところ、よくはわからないが、ちょっとした構造物が見え隠れしているのが目に留まる。と、そこからサイドカーのような荷台をくっつけた自転車がいいタイミングで出てきて、河川敷の道路へ。見下ろす形にはなるが、こっちに来てくれれば話は早かっただろう。だが、茜がそうと気付いた時はすでに手遅れ。その自転車は結構な速さで上流側遠方へと走り去ってしまったのである。
 そこはリバーステーションと称される場所だった。先刻までここは空ボトルで賑わっていた筈だ。下流側が何となく光って見えるのは、そのボトルのせいだろうか。ちょっとした空虚感を覚えつつも、確かな手応えを得る。来週の日曜日こそ!である。

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