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・高度が上がらない! 安全な中の例外体験。
かれこれ25年以上海外営業の第一線の仕事に携わっていると、数え切れないくらい飛行機に乗った。
ざっと計算しただけで少なくとも1500回以上はフライトしただろう。アメリカ出張などは、全域のカスタマーを訪問することもあるので1週間で6-7回フライトする事も少なくなかった。
これだけ回数をこなしていると、色々なトラブルを経験しているが、それは殆どスケジュールや、予約、手荷物、座席等の問題であり、こと安全に係わる問題は経験したことがないに等しい。
その点、飛行機は最も安全な乗り物の1つだと言う風評は間違いないと思う。
但し2度ほどの例外体験は有ったが。
いずれもアメリカ駐在時代のことだ。その1つは、LA駐在時代にカスタマー訪問でコロラド州のデンバー(MLBのロッキーズの本拠地)に行った帰りのデンバー―LA間のフライト。
この時は私と上司とアメリカ人のセールスマネージャーの3名が乗っていた時の話。
離陸後、30分経っても一向に高度が上がらず、まだ、地上がはっきり見えていて、明らかにいつもの様子とは違うので、隣に座っていた上司に、
「チョッと様子がおかしくないですか?」
「お前もそう思うか?」
「チョッと心配になってきました。」
等と言い合っているうちに、エンジン音も苦しそうな低音の響きが混じるようになってきた。
「何か手に汗かいてきました。○○さん、エライ落ち着いてますね。」
「そら、乗ったからには、ジタバタ心配してもしょうがないぞ。ケセラセラじゃ。」
「なるほど、成る様にしかならんですね。」
と言いながら、フライト慣れしている後ろのセールスマネージャーの方を振り返ってみると明らかにいつもと違い目を丸くして異様におとなしく座っている。
ついでに回りを見渡すと普段は陽気なあのアメリカ人の乗客が、皆一様に黙って笑顔なく不安そうに俯き加減で座っている光景が目に入ってきた。
平日であり乗っている人は殆どフライト慣れしたビジネス関係者だと推測されたが、そうした人であればあるほど、私と同じような普段と違う何かを感じ、黙りこくっているようだ。
それから、2時間程、その後高度が上がったかどうかは忘れてしまったが、私は手に汗をかいたまま、機内は時折りフライトアテンダントが平静を装って通り過ぎる以外は、極めて静かに普段の倍ほどの時間の経過を感じながら過ぎ、ようやくLAエアポート上空に辿り着いた。
私は、このいやな雰囲気の緊張からもう少しで解放されるとホッとしかけた矢先、機内アナウンスで、
「着陸の順番待ちのため、暫く上空に待機します」
との事で、エアポート上空を旋回し始めた。
それからさらに30分―40分上空を旋回し続けたように思う。
単なる順番待ちだけではないような気がしたが、それを口にする事が憚られる様な静かで不気味な長い時間(感覚的に)の後、やっと着陸態勢に入った。
長い旋回待機の後だった為か、私の緊張は上昇を続けており、(いよいよ来たか)と運命の時を待つような気持になってしまっており、回りの雰囲気も私と同化しているように思えた。
そんな中、ランディングは、いつもより揺れの激しいものだったように記憶している。
そして次第に揺れも収まり、地上を安定走行し始めたその時、何処からともなく拍手が聞こえたなと思った瞬間、機内全体が拍手と安堵の叫びに包まれ、気が付いたら私とボスも一緒にニコニコしながらその中に参加していた。
結局、この異様なフライトの原因を乗客に説明したのか、しなかったのかは忘れてしまったが、何か普段と違う原因があったことは確かだと思う。
後から聞くと上空の長い旋回は、何か機内に異常があった場合のランディング時のリスクを減らす為に良く取るアクションのようだ。
しかし、乗客の気持と機内の雰囲気は、とにかく無事到着したことが嬉しくて、その喜びを共に分かち合いたいという思いで、その笑顔は一様にスポーツゲームに接戦でやっと勝った直後のチームメートのように見えた。
(上記は今年1月10日掲載分を再編集した記事です。)
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