7月に買ったはいいが、読み終えるのに5か月近くかかったとは。
それもこれも遅読がなせることだったのだが、この一か月は平均して
10〜20ページのスピードで読んできた。
ようやく読み終えることができたのである。もちろん原書ですね。
本書は世界的なベストセラーであり、自転車競技のスターであった
タイラーハミルトンによる、競技界のドーピング汚染の実態をあからさまに明かした
告発本である。その内容の衝撃波にまずこちらが強く打たれた。
タイラーハミルトン氏の告白を、ダニエル・コイル氏というスポーツドキュメンタリーの
作家がとりまとめて本書にしたのである。邦訳ももちろんあります。
で、ツールドフランスでの7連覇をしたランスアームストロング氏のドーピング疑惑に
詰め寄った内容ともなっている。
もっともタイラーハミルトン自身もドーピングに汚染していた人物であり、数多くの
競技会で優れた実績を残しながらもランスアームストロングらが所属するPostalという
競技チームに入ったことにより、厳しい競争にさらされ、身も心もすり減らされていく。
で、そこで、Ferrariと言うチームドクターから、EPOというヘモグロビン濃度を高める
薬物を供与されたことによりドーピングの世界にはまっていく。
すべてはチームで生き残るために、である。
チームでのランスアームストロングとの交流の逸話も描いているのだが、とにかく
アームストロング氏は負けず嫌いであり、自分を中傷したファンの自転車を追いかけてこれを
叩きのめすこともあったのだとか。で、チーム内での競争に敗れて去っていく同僚たちに一顧だに
しない冷酷さを見せていたとのこと。
それは、やがて結果を出せなくなったハミルトン氏にも及んでいきますが、ハミルトン氏は
同じチームにいて同じチームドクターの下にあるアームストロング氏も自分と同様にドーピングを
しているはずという確信を持ち始めます。
だが、結局はチームで生き残れなかったハミルトン氏は、他のチームに移籍するものの、
それらのチームもドーピングに汚れており、結局、彼自身も薬物をやめられない。
そのうち、ヘモグロビンをたっぷり含んだ血液交換という非合法な方法によって、肉体強化を
図るようになる。
そんな中、ドーピングを監視するための機構組織が抜き打ちでドーピング検査をするように
なるも、ハミルトン氏はチームドクターらと知恵をしぼって潜り抜ける手を考えていく……。
とまあ、なんだかスパイ小説を読んでいるような気になる展開ですね。
で、ハミルトン氏は2004年のアテネ五輪の自転車競技でゴールドメダルを得ることに成功するのですが、
その間、ランスアームストロング氏がツールドフランスでの連覇を積み上げていく。
だが不運にもハミルトン氏はある日のドーピング検査にて陽性反応が出てしまう。
アームストロング氏の場合も、ツールドフランスのあまりの連覇ぶりが怪しまれて検査の手が
及ぶのですが、莫大な富を手にした彼は多くの弁護士を投じて切り抜け、あろうことかかつての同僚の
ハミルトン氏がドーピングにはまっていたとして陥れていったのです。
で、ハミルトン氏も数々のデータや証言から、アームストロング氏こそドーピングをしていたと
証言。これによってテレビショーにも出ることになり、事の経緯を知ったアームストロング氏が
彼の懇意のレストランでハミルトン氏に詰め寄り、アームストロング氏の味方であるレストランの
オーナーから出禁を告げられたというエピソードも紹介されておりました。
で、ハミルトン氏は、孤独の中、地元の人やかつての同僚たちからも疎まれ、あろうことか、
ネットまでハッキングされて嫌がらせを受けて引っ越しせざるをえなくなります。
それでも、これまでに自分がおかしてきたドーピングの罪悪を告白し、何もかも公明正大に正直に
話していこうというところまで精神的に成長したハミルトン氏にだんだんと引き込まれていくようになり
ますね。
それで、本書の終盤、ランスアームストロング氏のドーピング疑惑につき、米国の連邦司法当局は
「これ以上、、追及しない。」という結論を出し、あやわこのままアームストロング氏の逃げ切りがなされる
かと思いきや………という、非常にスリリングな展開となっております。
これは面白い。ベストセラーになったのがわかる気がしますね。
ランスアームストロング氏については、癌からの生還秘話を含めて伝説的に語られていた面がありました
がすべて虚像だったというか、それにしても栄光と富裕への並外れた執着がこれほどまでの人物を
狂わせたのかと愕然とさせられましたね。
言うなれば我々に王長嶋を疑え、みたいなもんですから、米国人らにはもっと衝撃でしょう。
で、ドーピングという過ちをおかしつつ、それでも真実を告げる勇気をもったハミルトン氏のことを
讃えようとも思いますね。本書をきっかけとして、自転車競技の過酷さ、それとツールドフランスの
異常なまでのハードな行程にも目が開かされました。なるほど、ドーピングをして肉体能力を高めたくも
なります。そういう世界を知っただけでも読んだ価値ある作品でした。