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『真鶴』(志賀直哉)

 真鶴の漁師の男の子が、ほんの一瞬の「恋とも呼べぬ恋」を経験する話。男子というものは、誰しも年上の女性に淡い恋心を抱く時期があるものなのだろうか。まぁ、よくよく考えてみれば、「オギャア」と生まれた時から、母親という年上の女性に可愛がられ、優しくされて育つのが男子の宿命なのだから、元々、そういう本能的な下地はあるのかもしれないな、なんて考えてみたりもする。

 この真鶴の男の子も、年上の女の人に惹かれるお年頃のようである。彼は年の頃は十二三歳くらい。弟の手を引いて、日暮れ方の海岸沿いの道をトボトボと歩いている。彼ら兄弟は、父親から歳暮の金(お年玉みたいなものなのだろうか)を貰ったので、新しい下駄を買いに小田原まで出て、帰途に着く最中なのである。

 しかし、弟の方はかなり不機嫌そうだ。それというのも、お兄ちゃんが、父親から預かったお金を全額はたいて水兵帽を買ってしまったからである。お兄ちゃんは海軍の兵曹長をしている叔父さんの影響で、自分自身、大人になったら水兵になりたいと思っているらしく、たまたま買い物に出た小田原のショーウィンドゥで憧れの水兵帽を見つけた為に、つい衝動買いしてしまったのだった。当然、弟が楽しみにしていた新品の下駄は無し。そりゃ、弟も怒るわ、という感じなのだ。

 そしてその買い物の帰り道。兄弟は、法界節の一行に出会う。法界節とは何ぞやと思って、広辞苑を調べてみたところ、一八九一年〜九二年頃に流行した俗謡で、清学(中国清代の音楽)の九連環という曲を元に出来たものらしい。編み笠をかぶり、月琴を鳴らして練り歩いた人々を法界屋と呼んだそうだ。

 兄弟が遭遇した法界節の一行の中に、顔も腕も真っ白に塗りたくり、つり上がったまなじりを紅色で隈どった女がいた。お兄ちゃんの方は、その女を一目見て、(美しい)と感じたようだ。そして、その法界屋が赴くほう赴くほうへと、彼は、弟を連れてどこまでも後を付いて行ったのである。

 そうして、夜が迫ってきた。法界屋の後を追いかけることを止めてからも、お兄ちゃんの胸の内は悩ましさでいっぱいである。それにひきかえ、弟の方はお兄ちゃんに引きずり回されて、今にも泣いてしまいそうだ。お兄ちゃんは弟を負ぶって歩いていく。と、そこへ、帰りの遅いのを心配した彼らの母親が、提灯を持って現われたのだが、弟は母に抱き取られた時にとうとう我慢しきれず、泣きじゃくるのであった。それを見たお兄ちゃんは、今まで大切にかぶっていた水兵帽を、弟の頭に移してこう言うのである。

 「ええ、穏順(おとな)しくしろな。これをお前にくれてやるから」

 幼いながらに恋を知った彼にとっては、憧れの水兵帽はすでにその重要性を失っているのであった。

 これでこの短編は終わりである。やはり設定として、主要な登場人物を「兄弟」にしたのが良かった。
女性に興味を持ち始めたお兄ちゃんと、まだそういった徴候のない弟を対比するのでなければ、この作品の面白みは半減してしまうであろう。また、弟という登場人物がいなければ、水兵帽の役割が生きてこない。弟の下駄を犠牲にしてまで買った、憧れの水兵帽が、法界屋の女を異性として意識する須臾(しゅゆ)の間に、憧憬の対象ではなくなってしまうという価値観の転換は、弟にその帽子を惜しげもなくくれてやる行為によって引き立つからである。

 暮れ方に派手な衣装の法界屋が現われたり、黒く見える波間に漁火が見え始めたり、夜道の中に母親の提灯の火が、ポッと浮き出てきたり、なんだかノスタルジックな光景の連続である。

 加えて、幼い子供が自分の興味のおもむくままに遠くへ遠くへ行ってしまい、我が家の懐かしさを思い出すような話の運びは、芥川龍之介の『トロッコ』を彷彿とさせると云うべきである。


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我が家自信が姉さん女房でして・・・。惹かれる内容ですねぇ。
衣装に漁火、提灯など、色の情景が浮かびますねぇ。
読んでみようっと。

2009/9/8(火) 午後 5:35 まえちゃん 返信する

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ほほぅ☆まえちゃんさんも年上女性に惹かれるタイプなのですね☆
「姉さん女房は鉄(かね)の草鞋を履いてでも探せ」って言いますもんね^^。そういう人が見つかれば見つけられたで「姉さん女房は身代の薬」とも言うらしいです。家計が豊かになり、家庭円満になるみたいですよ^^。
「ともだち」の真似してる記事を見ると、かなり円満そう^^☆

2009/9/9(水) 午前 9:31 山田ギョクト 返信する

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