4月2日付の「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙に、北京の作家、閻連科氏が「中国政府が仕掛ける記憶喪失」と題して長大な論文を寄稿した。
内容は、中国政府が歴史や事実の書き替えに総力で取り組み、中国人に記憶喪失を引き起こしているという批判である。中国共産党による事実の捏造や歴史の書き替えで、はかりしれない害を被り苦しんでいる日本の側からではなく、中国の物書きが力を込めてそう警告を発したのだ。
閻氏の記事は香港の大学で教えていたスウェーデン人の教授の体験談から始まる。教授は40人の中国の学生に、1989年6月4日の出来事を知っているか、方励之や劉賓雁という名前を知っているかと、尋ねた。
「89年6月4日」が天安門事件を指すのは言うまでもない。方励之は民主化を求める学生たちの精神的支柱と位置づけられた天文物理学の研究者で、天安門事件の後、米国に亡命し、昨年4月、死去した。
劉賓雁は天安門事件には関係していないが、中国共産党の腐敗や人権侵害を暴き続けた作家で、これまた学生たちの精神的支柱だった。彼も亡命先の米国で05年に死去した。
問われた学生たちは困惑した表情で互いに見詰め合うばかりだったという。彼らは天安門事件を全く知らなかったのだ。全世界が知っていて、中国人だけが知らされていないことは他にも多い。
中国共産党は年来、朝鮮半島も尖閣諸島も沖縄も中国領だと、もっともらしい理屈を述べてきた。
この種の捏造版の歴史を対外的に主張するのみならず、国民にも教え続ける。
日本や朝鮮半島が主張する歴史の事実は記憶喪失のメカニズムで掻き消してしまうのだ。
こうして中国人全員が偽りの歴史を信じ込む。
中国を愛すれば愛するほど、彼らは日本などを憎むだろう。
中国の主張を現実政治の中で全力で実現することが愛国の使命だと考えるだろう。
最も良心的と思われる知識人でさえ中国共産党の歴史の捏造に影響されている。容易ならざる事態である。
だからこそ、中国共産党の壮大な情報操作に、こちらも情報発信で立ち向かわなければならない。
その闘いにおいて、日本は中国より断然優位に立つ。
なんといっても私たちは嘘をつく必要も、壮大な仕掛けで捏造する必要もない。
日本国と日本人に必要なのは、捏造によって汚名を着せられてたまるものかという強い信念である。
その気持に基づいて政府は一刻も早く情報発信の予算を拡大することだ。
諸国のシンクタンクや大学、研究所などに資金を給付して、歴史や現在進行中の事柄を研究してもらうのだ。
世界の良心的な研究者の活動こそ、中国政府が目論む「壮大な記憶喪失」を阻む第一歩となるはずだ。
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