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先日、NHK BS1で「コウケンテツが行くマレーシア 潜入!ニョニャ料理教室」が再放送されました。
中華料理とマレー料理の融合により生まれたニョニャ料理に象徴される、マレーシアの人々が実践する異文化・異民族共存の極意について、改めて感動するところが多かったので、番組の内容について簡単にコメントしながら、振り返ってみたいと思います。
【お互いの信仰を尊重する華僑とマレー系イスラム教徒】
コウケンテツ氏は、中国系のニョニャ料理の先生と市場で待ち合わせる。
ニョニャ料理とは、中華料理とマレー料理の融合により生まれたマレーシア独特の伝統料理である。ニョニャ料理は、中国からマレー王朝に嫁いだ王女が、自分たちの伝統の中華料理と夫の伝統であるマレー料理の技法を融合し、マレーシアの地産食材を活用して生み出したのがその起源だと言われている。
先生は、料理教室の生徒さんたちに素材の選び方を伝授した後、コウケンテツ氏を豚肉の売り場に連れて行く。
豚肉の売り場は市場の片隅、他の売場と壁で区切られている場所にある。先生は、その理由について「私たちはイスラム教をリスペクト(尊重)しているから」とコメントしていたが、実際マレーシアでは、他民族の宗教に気を使っているからではないかと想像される文化や習慣を良く目にする。
その一例として、小生のブログの以前の投稿で、豚肉を使わない肉まん(鶏肉とゆで卵を使った大包〔ダーパオ〕)についてご紹介させていただいたことがある。
【多文化共存の日常風景】
小生が約半年滞在したペナン島では、大きなモスクと通りを挟んだ向かいには南インド様式の見事なヒンドゥー寺院からサンダルウッドやロータスなどのお香の煙が立ち登り、同じ通りの並びには観音様を祀った中国風の仏教寺院から銅鑼(ドラ)や太鼓の音が鳴り響き中国風のお香の香りが漂って来る、というように三つの民族と文化が何の違和感もなく共存している風景を目にすることができる。
医療でも、西洋医学以外に、中医学、アーユルヴェーダ、マレーの伝統的医療が併存している。中医学は中華系住民、アーユルヴェーダはインド系住民、マレーの伝統的医療はマレー系住民を中心に利用されているが、自分の出身文化と異なる医療を利用する人も少なくない。
【東南アジア独特の風味を醸し出すラクサ麺】
一品目は、ペナン名物のラクサ麺。これは、マレー料理をベースとした料理である。
東南アジアには、汁麺(ラクサの他には、タイのクワイティヤオ〔米粉の平太麺〕やベトナムのフォー〔米粉の細麺〕などが有名)だけでなく、多めの油でカリッと焼き上げたシンガポール・フライド・ヌードルなど様々な麺料理のバリエーションがあるが、麺料理は中華料理が起源なのかもしれない。
ラクサ麺の特徴は、スープにトウガラシなど熱帯系の香辛料、ココナツミルクとタマリンド・ジュースを使うことで独特の風味を出していること、麺にタピオカ粉を混ぜているためもっちりとした食感があること、スープは熱帯系だが厚揚げ豆腐が定番の具の一つであることなどである。
中華料理を起源とした麺料理にマレーシアならではの熱帯産食材を採り入れたところがニョニャの本領発揮というところだろうか?
さらに、ダシは一般の中華麺のように肉ではなく、魚やエビを使ってとることはラクサ麺の重要な特徴の一つである。
中華麺のスープのダシには豚肉が使われることが少なくないが、ムスリムにとって豚肉は絶対禁忌食(ハラーム)である。
豚肉以外の肉なら大丈夫だと考える人もいるかもしれないが、鳥や牛など豚肉以外の肉でも、コーランに定められた作法にしたがって屠殺されたものでなければならない。
さらに、調理の過程でも禁忌の食材(ラードなどを含む)を一切使っていないなど、様々な厳しい制約があるのである。
その点、魚やエビなどの魚介類のダシなら、屠殺方法を気にする必要はなく、他に禁忌の食材などを使わなければコーランに記された神の御心に適った料理(ハラール)となるので、ムスリムも安心して食べることができる。
そのため、敬虔なイスラム教徒はハラーム(禁忌)の肉を使った普通の中華麺を食べることはないが、ラクサ麺はイスラム教徒のマレー系住民もよく食べているのである。
【西洋文化も加わりさらにパワーアップ】
二品目は、イカと豚肉と野菜の千切りの香味炒め(中華風)を海老とトウガラシのサンバル・ペースト(マレー料理であるが、もとを辿ると南インド起源のソース)を塗ったレタス(西洋風)で巻いて食べるというもの。
コウケンテツ氏が、「おお、チャンプルー(混ぜる)!」とジェスチャー付きのコメントで絶賛すれば、料理教室の生徒の一人(中華系の若い女性)は、「レタスに巻いて食べるのはウェスタン(西洋風)。中華とマレーとウェスタン、三つが揃えば最強よ!」と応じる。
【異文化融合の象徴としてのチャンプルー】
「チャンプルー」と言えば、日本では「ゴーヤ・チャンプルー」など沖縄料理の用語として知られている。
「チャンプルー文化」などのように、料理だけでなくあらゆる物事を「混ぜる」意味で広く使われるが、ただ単純に「混ぜる」という意味ではなく、「異質なものを調和的に組み合わせることで単質なものでは出せない力や長所を引き出す」というニュアンスが込められている。
実は、「チャンプルー」という言葉の語源はマレー語なのである。
マレーシアでは、マレー系、中華系(主として福建省からの移民「華僑」の子孫)、インド系(主として南インドからの移民「印僑」の子孫)、さらに「オラン・アスリー」と呼ばれる先住民族が仲良く暮らしている。
さらに、最近は西洋諸国出身の移住者や西洋諸国からの観光客(長期滞在者が少なくない)が加わり、日本人にとっても定年後のロングステイ(長期滞在)先として圧倒的な人気を誇り在馬邦人も急速に増えつつある。
まさしく民族と文化のチャンプルーを体現した国なのである。
私は、個人的には中華料理とマレー料理のチャンプルーにより生まれたマレーシアのニョニャ料理は、料理のカテゴリーとしては世界で一番美味しい料理だと考えている。
その秘密の一つは、東アジア(中国、日本、朝鮮など)を中心とした発酵調味料文化と南アジア(インドなど)を中心としたスパイス文化の融合にあるのだが、その詳細な解説については、また別の機会に譲りたいと思う。
【多様性の調和こそ神の意思である】
生態学の世界でも、生態系の健全さは生物学的な多様性があることによって保たれていると考えられている。
一昔前になるがアフリカで大飢饉が引き起こされ多くの人が飢餓に苦しんだことを記憶している方も少なくないと思う。
その最も大きな原因は、植民地主義経済やそれを引き継いだグローバル資本主義によって、アフリカの人々が主食にしていた在来作物の多品種栽培から換金作物の単一栽培への大々的な転換が行われたことで、ちょっとした気候の変化により生態系が大打撃を受けたことにあると言われている。
自然栽培や無農薬栽培でも、畑で単一の野菜だけを栽培するより、一つの畝に共存共栄関係にある異なる野菜やハーブなどを混植することで病虫害を減らすことが可能になる。
また、雑草を根こそぎ抜かずに野菜と共存させることにより、土壌内細菌叢のバランスが保たれ野菜の生命力が高まり、その生育が促進されたり病虫害を減らすことができるのである。
グローバル資本主義が席巻する現代世界では、グローバル・スタンダード(アメリカン・スタンダード)によって、政治経済、文化、科学技術などあらゆる人の営みを統一支配しようとする勢力が猛威を振るっている。
しかし、健全な生態系のために生物学的な多様性が不可欠であるように、人類が長期に渡って健全に繁栄するためには、文化的な多様性を保持することが不可欠だと言うことができる。
異なる宗教、異なる民族、異なる文化、異なる性…。この世界に様々な異なった性質をもった多様な物事が存在するのは、異なったものがお互いの違いを尊重しながら互いに学び合い、補い合うことでより大きな調和を生み出すことを神が望んでいるからである。
自分と異なるカテゴリーに属するものを否定したり徒(いたずら)に怖れたりするのではなく、お互いの違いを尊重しながらそれぞれの特性を活かし合うことが大切なのではないだろうか?
マレーシアの伝統料理ニョニャ料理は、その至高の美味により、そのことを私たちに教えてくれているように私は思う。
人々よ、神は一人の男性と一人の女性から汝らを創造し、汝らが互いに知り合うようにと、諸民族と諸部族となした。
(聖クルアーン「部屋の章」13節より)
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アジアの人々
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異民族・異宗教が共存する国
マレーシアでは、主としてイスラム教徒の先住マレー人、南インドから移り住んできたヒンドゥー教徒のインド人(肌が黒く鼻が低いドラヴィダ系)、ほとんどが大乗仏教徒の主として福建省出身の中国人(華僑)が人口の大半を占めています。
ペナン島の中心街ジョージタウンの街中では、イスラム教のモスクの隣に観音様を祭った中国寺院があり、道を隔てた向かいにはヒンドゥー建築のガネーシャ寺院があるといったように、異なる宗教が何の違和感もなく混在しています。
ジョージタウンには、華僑の金持ちの有志(敬虔な仏教徒が多い)の寄付で運営されている慈善病院があり、マレー人やインド人はもとより、私たち外国人も分け隔てなく最低限の診療費(1マレーシアドル=約40円)と薬代実費だけで西洋医学もしくは中医学(中国伝統医学)の診療を受けることができます。
それぞれの民族は、自分たちの宗教を熱心に信仰していますが、お互いの信仰を尊重し合い、他人の信仰に口をはさむことはないようです。
親子饅頭は異教徒への心遣い?
もしかしたら私の深読みのし過ぎかもしれませんが、そんな相手への気遣いを象徴するものとして「中華風親子肉饅」があります。
日本では、「肉饅」と言えば当然豚肉ですよね。でも、ペナン島の肉饅は、見かけは日本の肉饅そのままですが、中の具は何と「鶏肉とゆで卵」なのです。豚肉の肉饅を食べなれた日本人は、始めて食べる時は少々違和感を感じるかもしれませんが、これが、絶品なんですね。親子丼ならぬ親子饅頭と言ったところでしょうか。現地語(中国語)では大包(ダーパオ)と呼ばれています。
確かめた訳ではありませんが、私は、中国人が、豚肉を食べられないイスラム教徒のマレー人を密かに思いやって豚肉の代わりに鶏肉(とゆで卵)を使っているのではないかと推測しています。
もっとも、敬虔なイスラム教徒は、たとえ鶏肉でも、コーランで定められた手順に従って家畜に必要以上の苦痛が及ばないような方法で屠殺され処理された適法肉(ハラール・ミート)しか口にしません。
ただ、近年は、イスラム教徒以外の人が運営する食堂でもハラール・ミートを使って調理するところも増えてきているようなので、ペナン島の親子饅頭も、イスラム教徒のマレー人も安心して食べられるようにハラール鶏肉を使っているのかもしれませんね。
ペナン島のテロクバハンという漁村の中華食堂では、日本統治時代に片言の日本語を憶えたと思われるご主人が、鶏肉とゆで卵の饅頭を指さして「コ・レ・ハ、ブ・タ・マン!」としきりに繰り返していました(トリだっちゅうに!)。
あの親子饅頭、また食べたいなあ。
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私はかつてマレーシアに半年余り住んでいたことがあるが、イスラム教徒の正直さ・商道徳の高さには幾度となく感動させられた。 |
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