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定年退職

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定年退職(6)

 夫は独身時代、弟の面倒を見ながら、間借りして自炊ていたのだが、

一度、鯖の味噌煮をご馳走になったことがあったがとてもいいお味だった。

 何でも、夫の両親が満州に住んでいて、日本の中学が近くになかった

ので、夫は中学から、一人で、大連で下宿していたのだそうだ。

その下宿のご主人が魚市場で働いておられたので、毎日トロ箱いっぱい

のお魚が届き、その下宿で一番年少だった夫がいつも夕飯の支度の手伝

いをさせられて、はじめは、お魚を食べるのも料理を手伝うのも、厭で

厭でたまらなかったが、だんだんお魚が好きになり、お料理も覚えたとか。

結婚後はたまにはお料理してもらいたいと水を向けたがすっかりだんな様

に納まってしまった夫はしらんふりであった。

 それが、定年後のある日、急に言い出したのである。

 "今日のお昼は俺が作る”

 ”え、何をごちそうしてくれるの?”

 "まかしとけ。”

 てな具合で、本当にびっくりしたが、まあ、どうぞ、お好きなようにと

 思って引っ込んでいたら、

 ”おい。皿。”"おい。フォークとスプーン””おい。チーズ。”

 "おい。テーブルの用意。” "それがすんだら、そこに坐っていろ。"

 である。

 まだ、ちょっと間がありそうだと思ってやりかけの仕事をしておこうと

 立ちかけたら、

 "おい。そこに坐ってっていろ。”という。

 私が料理するときには、もうそろそろ出来上がるから坐ってってくださ

 いと言ってもおいそれとは坐らないこともあった夫がである。

 ともかく超熱々のスパゲテイナポリタンができあがった。

 夫のスパゲテイは本当にやけどするかと思うくらい熱くておいしかった。

 どういうわけか後片付けはわたしの仕事になったが・・・。?

夫は語学の才能に恵まれていたのだと思う。

その昔、建設事務所で働いていた頃、実務はできるが、事務はからっきしできないボスの外人の代わり

に、英語で手紙を書き、事務を一手に引き受けていた。

 アルバイトで翻訳もこなしていたが、口の中で小さくもごもご言いながら、ものすごいスピードで翻訳

していった。

 夫が亡くなった後、彼の辞書を見たら、こんな言葉まで勉強していたのかと思うほど、普段あまり使

われていない言葉ばかりにアンダーラインが引かれていた。

 中国語も子供時代に何年かは中国人と遊んだと言っていたが、日本に帰ってきてしばらくしてから、田

中首相が中国へ行かれた頃だったか、中国語の学校へも行った。それから5年中国人の中で仕事をしてき

たので、日本に増えてきたが外人さんたちに日本語を教えたいと、思ったらしい。

 日本語教育能力検定試験を受けようと思ったようで、これこそ自分の道を見つけたと思ったのだろう。

なんだか嬉しそうな顔をして、参考書を取り寄せようと思っていると私に話していた。

 ところがである、ある日のこと、夫と私の目の前にダンボールの大きい,重たい箱がどさっと送られて

きたのである。夫はそんなにたくさんの本が送られてくるとは思ってもいなかったらしい。

音声学だとか、表題は今では忘れてしまったが、小難しいタイトルの本が30冊ぐらいもあっただろう

か、夫をがッがりさせるには十分な量だったのである。

夫は二度と、その箱を開かなかった。私にはなんだか本を売らんかの行為ではないかと思えた。

あれだけの本の中身をどれだけの人がちゃんとマスターしているのであろうか?

定年退職(3)

 ある朝、我が家(二世帯住宅)の二階に住んでいる次男の嫁が、外から駆け込んで入ってきて、

 ”お母さん、大変ですよ。”と言った。

 ”どうしたの?”と、言うと

 ”お父さんが、ご門の外を掃いています。”

 私は思わず笑ってしまった。夫がどんな顔をして掃いているのかと思ったからだ。

 ”まあ、いいではないの。やりたいなら、やらせてあげれば。”


 と、私は言った。

家の前はわりと広い舗装道路で、塵を落として行く不心得物は通らないし、上の方の緑道から吹き落とさ

れてくる葉は、上のお宅のご主人様が、とてもまめな方で朝早くから、私の家の門の前まで掃いてくださ

るので、綺麗なものだ。

それに、家の玄関から門までの木は、常緑樹が殆どだから、あまり木の葉が落ちてこないのである。

 でも夫は家にばかりいて、何もしないのはよくないと思ったのだろう。

 さあて、これからはどんなことになるのかなあと、私は一人ほくそえんだ。
 

定年退職(2)

夫は毎日はりきっていた。私から次の予定を聞き、初めてのところだと、地図を引っ張り出して、検討

し、前の日に現地まで下見にいくのである。

 ”お父さん。大変だから、その日、早めに家を出ていけばいいのでは?”と言ってみたが、夫は
 
 ”いや、それでは先様にご迷惑を掛けることになりかねない。”と言って、埼玉や、東京のはずれ、は 
 たまた千葉など、遠方でも出かけていく。二日続けていくことになるのだから疲れるのではと言っ

 ても、張り切って出かけて行き、やっぱり行ってみてよかったと言うご報告がある。

 私は商売でしているのだからガソリン代が倍掛かるわけだが、夫の趣味と思うしかないと思ってほって

 おいた。

 私の方の話は大抵時間が掛かるので、その間どうしたらいいかまで計画を立てて、終わりそうな頃来て

 待っていてくれた。

 実はわたしはその頃特注家具の仕事をしていたのである。だから時には、新築のお宅や改築のお宅に出

 来上がった家具を持っていって取り付ける。もちろん、それは職人さんたちがやってくれるけれ

 ど、わたしも少しでも手伝だった方が仕事が速く行き、士気も上がり、そのお宅へご迷惑を掛けること

 が少ないと思って、いつもむくつけき男どもの間に挟まって重たい特注家具を運び入れたり、拭いたり

 するのを手伝うことにしていた。

 夫はそれまで手伝ってくれた。

 ただ出来上がると、夫は入っていって家具の状態を見に来るのである。それは、わたしとしては関係者

 でないのに入るのは困ると思ったが、ご主人や奥様が次々出てこられて、嬉しそうに

 ”奥さんに、お願いして、本当によかったわ。”などと入れ替わり、立ち替わり言ってくださるのが嬉

 しいらしくて、どこへ行っても一番先に見に入るのであった。

 夫は一度行ったところは忘れないと言うのがご自慢だったが、これには大いに助けられた。

 数年たってから、他のところも改築したくなったとお電話をいただいたりするときに、とても役

 に立ってくれたのである。そんな時、わたしが思い出すのはお客様のことと家具のことだけだった

 が、夫はちゃんと道順まで覚えていてくれたのである。(つづく)

定年退職(1)

1995年

 夫は定年退職をした。 65歳であった。

 翌朝から

 ”おい、今日はどこどこへ行くぞ!。”と言う掛け声に悩まされることになった。

 その頃私はまだ現役で仕事をしていたので、

 ”はい。そうですか。”と言う訳けにはいかない立場にあった。

 ”ちょっと待ってよ。今日はお客さんのところへ行かなければならないの。

 私は仕事をしているのだから、勝手に私のスケジュールまで決められては困るわ。”

 ”そうか、俺は今まで、長期計画、今年の計画、今月の計画、今日の仕事、時間割まで考えていたか

 らなあ。”

 ”ご苦労様。でも、私だって計画はあるのよ。”


 夫が定年退職をしたら、家で家事は何もすることがないだろうと思っていた。それまでは午前様のこと

 も多く、頼む気もあまりしなかったが、あまり器用でない夫、もちろん私も不器用の部類に入ると思う

 が、それでも不器用なりに何でも一人でこなしてきたキャリアがある。だから、家事のことは一切頼む

 気はなかった。でも、夫が枯れ落ち葉とか、濡れ落ち葉とか何とか言われて、家に坐り場所のないよ

 うには全くしたくなかったのだ。

  この日のために私なりに計画をしていたことがある。

  夫が好きなことと言えば運転することだった。

 だから、私の仕事の都合上車の運転免許はぜひ取りたいものであったが、とってはいけないものと自分

 にいい聞かせていたのである。

 よく○○さんみたいにアクテイブな方がどうして車の免許をお取りにならないのですかと聞かれたもの

 だが、私は夫が運転してくれる日まで、ひたすら待っていたのである。

(つづく)

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