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久しぶりに『ラ・マルセレーズ』にふさわしいお話をしようと思います。
今回から何回かに分けて調味料の話をしていきたいと思います。
フランス料理の料理人が使う調味料といえば、塩、胡椒、油脂、砂糖、酢、バター、クリーム、マスタード、ハーブ、香辛料などです。
こういったことの知識と、調理技術、素材の状態を見抜く目などを俗に『味の引き出し』などと表現する事もあります。(少なくても私はこう呼びます。)
我が師、三ツ星シェフの『ピエール・ガニエール』などは「一体この人の味の引出しはいくつあるんだろう?」とつくづく感心させられたものです。
恐れ多いですが、私の『味の引き出し』の中の調味料の列から1つずつ引出しを開け、簡単ですが順に調味料のお話をしたいと思います。
第1回目は『お酢』のお話です。
お酢はフランス語で『ヴィネーグル(vinaigre)』と言い、『ヴァン(vin)』というワインの意味の単語と『エーグル(aigre)』という酸っぱいという意味の単語が組み合わさっています。
その名が示す通り、お酢とは『発酵して酸っぱくなった酒』と考えると理解しやすいと思います。
日本では日本酒から生まれた『米酢』、フランスではワインから生まれた『ワインビネガー』、イギリスではビールの原料の麦芽から生まれた『モルトビネガー』など、世界各地でその土地独特のお酢が造られています。
では、お酢はどうやって造るのか?ご存知でしょうか。
知らない人の為に、日本の『米酢』を使って出来上がるまでの過程をお話します。
まず、材料のお米はでんぷん質なので、それを糖分に変えるため、麹の力を借りる必要があります。
米粒を蒸して水分を含ませ、カビの一種である麹を付けます。(原料が、糖分豊かなぶどうやりんごなど、果実酢の場合はこの作業は必要ありません。)
次に、酒母を加えます。
酒母とは、酵母がたくさん含まれた『酒もろみ』の事で、アルコール発酵の元になります。
米麹と蒸した米、『酒もろみ』を一緒にして、発酵槽に入れます。
麹と酵母の力で、蒸した米が糖化してアルコール化が進みます。
こうして出来た『酒もろみ』は濁っていて、澄ます前の状態です。
酒もろみを搾って澄ませて、『種酢』を加えます。
『種酢』とは、前回の仕込で造った酒もろみのことで、生きた酢酸菌が多く含まれています。
静かに放置しておくと、表面は真っ白な菌の膜で覆われます。(静置発酵法)
こうして『酢もろみ』を造るには数ヶ月かかりますが、空気を送り込んで2日で仕上げる方法もあります。
出来上がった『酢もろみ』を数ヶ月置いて熟成させた後、濾過、加熱殺菌をすると透き通った『お酢』になります。
(日本の米酢の場合、米酢用に自社で発酵させた酒もろみを使いますが、フランスのワインビネガーの場合、外から購入したワインを原料に使います。)
どうです、すごい手間隙がかかっていると思いませんか?
こうして出来上がった『お酢』を、素材別、調理別に使い分けるのが『味の引き出し』のたくさんある人なのです。
サンタムールでも、たくさんのお酢を使っています。
白ワイン・赤ワインビネガー(3年物)シャンパンビネガー、シェリービネガー(25年物)、バルサミコビネガー(25年物)木苺やリンゴ、いちぢくなどなど・・・
これらの『お酢』も変わっているものもがたくさんあります。
中でも最も変わっている『バルサミコビネガー』について簡単にお話しようと思います。
バルサミコビネガーと普通のワインビネガーの最も異なる点は、フレッシュのぶどうの果汁ではなく、『煮詰めた』ぶどうの果汁を使う点です。
その『煮詰めた』果汁に、生きた酵母や酢酸菌の入ったワインビネガーを加えて、樽の中でアルコール発酵を行います。
その結果、果汁の糖分が残り、甘みと酸味が一体となったバルサミコビネガー独特の風味となります。
もう1つの特徴は、『トラヴァーゾ』と呼ばれる樽熟成にあります。
バルサミコビネガーは、発酵、熟成共に長い時間をかける為、樽のもつ風味が独特の個性になり、水分が蒸発して、ねっとりとした黒い酢になります。
伝統的な造り方(トラディツッオナーレ)を名乗るには12年以上の熟成が必要となります。(名乗らない場合は5年から出荷できます。その他多くの法律が決まっていて、バルサミコビネガーの品質を維持し、まがい物から守っています。)
※『トラヴァーゾ』とは
A樫 B栗 C桜 Dトネリコ E桑 の異なる材質と異なる大きさの木樽を複数用意します。全ての樽にお酢を入れ一年置き、減った分だけAからB、BからCと順に移し変え、最初の量まで補充します。最後のEには新しいお酢を入れます。これを5年繰り返すと、全ての樽を移動した事になります。
シェリービネガーも『ソレラシステム』という良く似た複数の樽を使って移し変えるという造り方をします。
こちらも長期熟成をし、長いものになると20年以上かけるものもあります。
通常のシェリービネガーは、他のワインビネガーよりアルコール度が高く、酸度も高いですが、長期熟成されたものは『よりまろやか』で角の取れた深い味わいです。
世界中にはたくさんの『お酢』があります。
そのうえ、バルサミコビネガー1つとってみても、500ccの瓶で500円以下の物から3000円を遥かに超える物まで様々です。
自分で造るものではなく、料理人が買う調味料ならではこだわってみたいものです。
一応私にもこだわりがあって、シェフと呼ばれるようになったその日から、使い続けているブランドがあります。
とても高くて、他のメーカーに変えようと思った事もありますが、これから先も、このブランドよりもいい物が現れない限り、使い続けようと思っています。
いかかでした?『お酢』の話。
お酢は体にも凄く良く、最近は『飲むお酢』もどんどんとでてきていますね。
どこかのデパートには、ソムリエならぬ『酢ムリエ』も登場したとか。
色々なお酢の造り方や特徴を知って、料理に生かしたり、飲んでみたりとしてみませんか?
お酢って思っていたよりも『美味しい』ですよ。
では、また。
次回のラ・マルセレーズではオリーヴ・オイルをはじめとした『油脂』のお話をしたいと思います。
おたのしみに。
(このお話は、2004・11・17にサンタムールのホームページに載せたものです)
レストランサンタムール ホームページ http://www.saint-amour.jp
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