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「君、夏休みはどうすんの?」
不意にFに聞かれた。
「特に考えてませんが。。。」
「Fさんはどうされるんですか?」
「うん。フランス行こうかな〜って思うてるけど。。」
「へぇ〜。」
と答えながら。。。
「オマエ何日休むつもりやねん。」と
自分に降りかかる仕事量の計測をはじめていた。
「君、タイ行って来たら?」
「え?何でですか?」
「君の机の上に谷恒生の本置いてあったやん。」
「勝手に見るなよ。」と思いながら。。。
「あぁぁ。。確かに読んでましたね。」
「ちょっと考えます。」
そう答えた数日後
バンコクまでの航空券を購入した。
Fに行き先を決められた様な
決定の仕方が自分の中では納得が
行かなかったが
特に予定の無かった自分には
良い提案をしてもらえた様な気もした。
コードシェアのフライト。
手持ちの航空券はTGであったが
在りし日のJLのDC10に乗り込んだ。
意外にも乗客は少なく
機体の後部は人がほとんどいない状態だった。
少しの睡眠から目を覚まし
窓から眼下を見下ろした時
大きな街の灯りが見え
それが放射線状に郊外へ延びていく。。。
「マニラか。。」
離陸からの時間を逆算すると
そのあたりの筈であった。
通路側に目をやると
Tシャツにゴム草履を履いた
学生風の若い女性が
マレー半島の地図を広げ
何かをゆっくりと
目で追っていた。
その姿に少し目を奪われていると
自分の視線に気付いた彼女は
少し照れくさそうに笑いながら
会釈をしてくれた。
「どこへ行くの?」
「マレー鉄道に乗りたくて。。
行き先は決めてないんですけど。。。」
「へぇ〜。ほんで地図を一生懸命見てた訳ね。」
「はい。」
「最終的にはシンガポールまでなんですけど
途中、どこへ行こうかぁ〜と思って。。」
「楽しそうやね。」
「一人旅?」
「はい。」
「海外旅行もはじめてで。。。」
「へぇ〜。若い女性やのに珍しいねぇ。はじめての
海外旅行が一人旅って。」
「でもバンコクの駅もどこかわからへんし
キップの買い方も全然わからへんのです。」
「ふふ。大丈夫やって。」
「バンコクなんてそんな人なんぼでもおるから。」
わずか数日で戻らなければならない
自分と違い
与えられた自由を謳歌しようとする彼女は
まだその幸せに気付いていない様子で
深夜に到着するバンコクと言う街と
その先の不確定な予定に
不安を隠せない様子であった。
「今晩のホテルは?」
「ここです。」
彼女が見せてきた
ガイドブックには見覚えのある
ホテルに赤い○印がつけてあった。
「カオサンか。。」
「気ぃつけや。この辺のホテルはもちろん安くて
バックパッカーの人も多いねんけど
変な人も多いから。。。」
「?」
「色んな誘惑も多いという意味ね。。」
深夜のドンムアンに到着すると
彼女の不安な様子は倍増し
ガイドブックをペラペラと捲り出した。
「この時間って列車とかバスってあるんですかね。」
アカンはこの子。。。
そう思った。
到着ロビーで待ち受ける
雲助共を跳ね返すだけの覇気が感じられなかった。
表情だけを見てもカモネギ状態で
お鍋とお箸を持って歩いている様なものだった。
「到着ロビーに出たら市内まで一緒にタクシーで行こ。」
「カオサンの通りの入り口で降ろしてあげるから。」
「ホンマですか。ありがとうございます。」
「ちょっとは俺の事も疑いや。得体も知れん男やのに。」
「え?悪い人なんですか?」
「そうかも知れんやん。」
「・・・。」
何人もの雲助タクシーに声を掛けられながら
振りほどきながら
カウンターで650バーツのタクシーチケットを
購入すると
二人は市内へ向かい走りだした。
そのタクシーの中で
何故にはじめての海外旅行が
一人旅で
何故にマレー半島の南下なのか?
彼女は一冊の本を取り出し
自分に手渡した。
「これを読んで来たんです。」
カオサン通りの入り口に到着すると
彼女をホテルの前まで送り
何度も頭を下げる姿を見ながら
待たせてあったタクシーに急いで戻った。
今晩だけの予約をしておいた
サイアムスクエアの外資系のホテルは
カオサンやチャイナタウンにあるホテルより
もちろん高級ではあるし
真夜中でも折り目正しいフロントの対応に
空調の効いた綺麗な欧米式の部屋。
それらが
滞在時間の長く取れない自分が
無難に選びそうな居場所の様な気がして
その事をとても
つまらない事の様に感じた。。
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