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先日クリント・イーストウッドの最新作『アメリカン・スナイパー』を見てきた(二回目)Wild Heartです。それでもって、前々から書こうと思ってサボっていた感想と私的な見解を綴っていきたいと思います。
まず見た時の率直な感想を言いますと、イーストウッドらしい映画でありながら、どことなく違った印象を受けたということ。そして前作の『ジャージー・ボーイズ』がミュージカルを元にした明るめの映画だったのに対し、本作は徹底的に暗かったなとも思いました(笑)。
暗さで云うと『許されざる者』や『グラン・トリノ』のような暗さの中に希望を持たせるような話でもなければ『目撃』のような陰性のストーリーにアクション性を足したような映画でもない。そして『硫黄島二部作』のような兵士としての誇りとその暗部を描いたような映画に見せかけながらも本質は違うように見えたのが私の感想です。
但しテーマは非常に似通っていて、過去の罪に向き合うことが主題。この辺りはイーストウッドっぽいと感じれたのですが、いつもと違うところは主人公に罪悪感というものがないこと。実はこれが論争を呼んでいる一番の理由ではないかと思うのです。たとえば『父親たちの星条旗』や『グラン・トリノ』では、戦場で人を殺した罪の意識から精神的にダメージを負った帰還兵が主人公でした。特に『父親たちの星条旗』ではPTSDとなり野垂れ死にする兵士が登場するほど、戦争が与える精神的ショックを前面から描いていました。
それに対して『アメリカン・スナイパー』の主人公クリス・カイルは、PTSDに罹りながらも殺人には罪悪感は無くあまつさえ「良かったこと」と思っているような人物として描かれています。これによってそんな男を英雄として描いていいのかと反保守系の人々からバッシングを受けているそうですが本当にそんな映画だったのでしょうか?そもそもこの話はクリス・カイルを英雄視しているのでしょうか?イラク戦争に直接かかわっているアメリカ人はともかく、私のような日本人を含む外国人から見れば劇中のクリスは決して感心できるような人物ではないと思います。確かに家庭ではよき父親として見えますが良い点はそれだけ。それ以外は完全に精神の崩壊した兵士にしか映らないのではないでしょうか。今までイーストウッドの映画に出てきたPTSDのキャラクターは罪の意識から心を閉ざすタイプの人物がほとんどだったのに対し、人を殺しまくっているカイルは常に考えを合理化・正当化してしまっているいわば不良学生みたいもので(生きるためだからと自分を正当化している)、30を過ぎた大人がそのような考えを持つのは精神的に後退しているからではないでしょうか。建前は立派だけど中身はガキでしかないのです。それゆえ保守系を叩く材料としながらも、映画の本質を観られていない、にわかのは批判のようになってしまっているのではないでしょうか。それとパンフレットにも書かれていましたが、劇中でカイルが9.11テロのニュースを見てイラクに行くシーンで、これではテロにイラク政府が関係したように見えるとの意見が出たそうですが、これも間違いかと。イラク戦争はブッシュのでっち上げではじまった戦争なのだから、ブッシュのでっち上げを信じたカイルが戦争に行ったと捉えるのが正解かと思います。そもそもイーストウッドは共和党支持派ながら、イラク・アフガン戦争には否定的考えを持っていると主張しているのでそのような中途半端な描き方はしないでしょう。
だからと言ってクリス・カイルを正当化しているわけではないとも思います。前述の通り、クリス・カイルは好ましい人物として表現されていないと私は感じましたし、平然と人を殺したことを自慢する男は英雄と思えるでしょうか。神話の世界では似たようなことはあるそうですが、神話の名が示す通り、あれは我々とは生命の概念が違う神の話です。それも分からずに神話になぞらえて英雄視するほうも私はどうかと思います。つまりクリスと同じくガキでしかないのです。また右寄りの思想を持った人物が主人公だからとの理由で戦争を肯定しているとの意見もあるそうですが、その意見はもっと愚かだと思います。たとえば『パットン大戦車軍団』(「映画秘宝」でも触れられていました)はアカデミー賞まで取った作品ですが主人公のパットンはゴリゴリの右翼思想者じゃないですか!あの映画はパットンが自らの愚かさゆえに左遷され、名将と謳われながらも結局はただのなにもわわかっていない戦馬鹿として描いているのと同じではないでしょうか。その点『パットン大戦車軍団』と『アメリカン・スナイパー』はかなりに似通った映画だと思います。自分勝手な正義感を振りかざし、正義のためだと暴れまわり、最終的には運命につかまってあっけない死を遂げた男の話(パットンは終戦間もなく事故死しました)です。
イーストウッドの映画は暴力がふんだんに使われている作品が多いながらも共通するのは暴力には否定的なところ。これは彼だけに限らず二人の師匠、セルジオ・レオーネとドン・シーゲル、そして兄弟子のサム・ペキンパーにも共通するのではないでしょうか。レオーネ監督は『続・夕陽のガンマン』では大義のために死ぬのは無駄死にだと描き、『ウエスタン』では文明社会の中で力だけで生きていくことはできないということを描き、シーゲル監督は『ダーティハリー』や『ラスト・シューティスト』で、悪に立ち向かうための暴力もまた罪に当たるものだと描き(ラストでキャラハンがバッジを捨てるのはそれに対するケジメ)、ペキンパー監督は『ワイルドバンチ』や『ガルシアの首』で、暴力に頼って生きてきた男の破滅を描いています。つまり彼の周りには、暴力の本質を描くことでそれを否定している人たちがいたのです。それが『許されざる者』や『グラン・トリノ』の「人を殺すのは地獄みたいなもの」のセリフんにつながっているのでしょう。
また、人種問題も同様です。劇中のカイルはイラク人を野蛮人といっていますがそれもあくまで演出であって、正しいことのようには捉えがたく思います。そうでなければイラク人狙撃手のムスタファのバックグラウンドをあんなにしっかりと描く必要はない筈です。つまり敵側も同じ人間であるとして、劇中から生まれる偏見を捨てさせているのではないでしょうか。実はあれだけ西部劇にでながら、イーストウッドは(一般的な西部劇に見られる)野蛮人としてのインディアンと戦ったことはなく、『アウトロー』等では寧ろ和解の道を選んでいます。インディアン以外では、『ダーティハリー2』ではアジア人が、『アイガー・サンクション』では黒人が相手役でした。そしてなんと言っても『ダーティハリー』シリーズの相棒はヒスパニック系、黒人(二回)、女性、アジア人と社会的身分の低い人々でした。この点から監督自身に人種的偏見はないこともわかります。
それゆえに本作はイーストウッドらしくない映画でもあるのです。つまり今までの映画に出てきた男たちは、罪の意識から贖罪のため命を張っているのに対し、『アメリカン・スナイパー』のクリスカイルはそもそも罪の意識がないのです。「やっぱりイーストウッドはそんな男を弁護しているじゃん」、と思うなかれ(笑)。『許されざる者』のマニーは最後の最後で(見る側から見ての)正義のためにアウトローに返り咲き、『グラン・トリノ』のコワルスキーは弱者を守るために自らを犠牲に格好よく死ぬのです。それに比べれば、少なくとも私は本作のクリス・カイルが実に滑稽に見えてきました。いいことをしたつもりがあっなく殺される。それは贖罪の概念がなかったカイルにヤキが回ってきかかれではないでしょうか。つまり今まで散々殺してきた故、英雄然とした死に方はせずにバッサリ切られたように人生を終える。この点がイーストウッドらしくないところ。実在の人物だからというのもありますが、決してその死は美化されていません。近年生死が題材の映画が多いイーストウッドには珍しいなと思いました。これはどういうことかというと、決してクリス・カイルを英雄視していないということではないでしょうか。ましてやプロパガンダ映画などという意見は言語道断。自分を正当化することしかしなかった男の身勝手な生き方をありのまま描いた、そしてそんな男をもてはやす戦争を愚かさ、つまり戦争そのものではなくそれが生み出す一種の副作用をを描いた会ある意味究極の反戦映画ではないでしょうか。
これが『アメリカン・スナイパー』を見た私の感想と見解です。私自身かなり保守的な考えを持っているので何とも言えませんが、どう考えるかはそれぞれの自由なのであくまでWild heartの個人的見解だと解釈してください。
余談ですが映画としては、前作の『ジャージー・ボーイズ』(何気に同じ伝記モノ)のほうが面白かったです(笑)。

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閉じる コメント(5)

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興味深い内容ですね
楽しいブログをUPされてますね☆
人のブログって読んでて楽しいですよね(*゚▽゚*)
育児の事や日々の出来事を書いてるので、一度遊びにきて下さい!

2015/3/27(金) 午前 4:14 [ ゆうママ ]

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ゆうママさん。
初めまして。コメント有難うございます。
ご好評いただき有難うございます。また其方のブログものぞかせていただきますね。

2015/3/31(火) 午後 11:50 [ Wild Heart ]

こんにちは♪
深い考察を面白く読ませていただきました。

自身の感想記事には「イーストウッドにしては右寄り」とか書いちゃいましたが、
貴方が仰る点もよく分かるつもりです。
私が本作を鑑賞した日は、奇しくもカイルを射殺した犯人の裁判判決が下る時期でした。
裁判中の出来事を映画にして米国では判決前に公開しているのには驚きでした。
陪審制員への影響が皆無とは言えないですよね。
このニュースは映画鑑賞後に知った事なので記事には書いていませんが、
作品が体制寄りだったという見方を強める一要素になりました。
公開日に関しては単なる偶然かも知れませんけれど。

※長くなったのでつづきます。

2015/4/1(水) 午後 2:57 風森湛

※続きです。

貴方の解説によるイーストウッドの作風から察せられる政治的思想は同感です。
それだけに、やはり本作はイーストウッド色が著しく感じられない思いを拭えない、
それが率直な意見です。体勢におもねる人物ではないと思いますが、製作サイド(ブラッドリー・クーパーも名を連ねてますね)への配慮や、意向を押し切られた部分もあるのかな?と、勝手ながら想像しました。


貴方も言及されている通り、映画は観た個人が自由に解釈するもので
其々の意見を交換したり、人によっては闘わせたりするのも楽しみの一つです。
あまりネットに没頭する時間をとれないので多くの意見を読んではいませんが、
これまで目にした中で、WildHeartさんの文章が一番深い考察の記事だと思います。

大変遅くなりましたが、こちらからもTBさせてください。

2015/4/1(水) 午後 2:58 風森湛

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風森湛さん。
長文でのコメント有難うございます。
はっきり言って、僕もこの映画にイーストウッド色を感じることができませんでした。だからこそそこまで好きなはなれなかったのかもしれません。調べて分かったことなのですが、この映画は大分ブラットリー・クーパーのアイディアが多く取り入れられてるそうですし。
本文でも述べましたが、映画を見て何を思うかはそれぞれの自由なので、ほかの人の意見もいい勉強になります。ただ左の人たちの意見はあまり好ましくないですが(笑)。
文章校正の破綻しかかった、国語力の引くいレビューを「一番深い考察の記事」とお褒め頂き、誠にありがとうございます

2015/4/1(水) 午後 11:04 [ Wild Heart ]

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