特捜警察

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十.潜伏

横溝がバー・トンプソンに到着した頃には、既に他の面々が到着済みであり、店内の捜索に当たっていた。
「駄目ですね、我々が到着した頃には既に藻抜けの空です」
ガサ入れで店内の棚を引っ掻き回していた北川が近寄ってきて言った。
「やられましたね、奴ら電話が終わったと同時に出ていったようですわ」
坂が続ける。
「キャップ、これを…」
「どうした?」
「えぇ、このメモ用紙なんですが、かすかに上に書いていたのが写ってるんですよ」
そう言うと片岡はウールブレザーの内ポケットから真鍮製の万年筆を取り出して用紙を塗り潰しだした。
「第四埠頭、鉄骨倉庫…。キャップもしや敵は、」
「第四埠頭の中京鉄工の倉庫だ」
その時、パトカーで待機していた石井が飛び込んできた。
「キャップ、大変です。奴らのトラックがまた動き始めました」
「野郎、こっちが踏み込む事は計算済みって訳か」
その時店の電話が鳴った。
「横溝だ」
『横溝さんかい、久し振りだな』
「お前は…」
『そう、俺だよ。メモにはもう気付いただろ、課長さんが金は用意してくれるそうだ。早く埠頭に持ってこないとえらいことになるぜ』
電話はそこで切れた。
「成る程、全て計算づくってことか」
片岡は吐き捨てた。
九.二回戦

特捜課刑事部屋の電話機がけたたましく鳴った。
「はい特捜課」
事務員の美沙子が電話に出る。
「横溝さんはいるかい」
「いえ、少々お待ちください」
「あぁ、美沙ちゃん。どうしたんだ?」
南郷が問い掛ける。
「はい、横溝さんにお電話だそうで。男の方です」
南郷が受話器を取る
「もしもし、課長の南郷と申します。横溝は只今不在でしてね、出来るのであれば私が応対しますが」
「あんたが横溝の上司かい。ならあんたでいいよ」
「ところでそちらは?」
「俺だよ俺、街中でロケットぶっ放しているのは」
南郷の表情が一気に厳しい物に変わり、部屋に居る二人に合図を送る。
「なるほど、あんたがたが犯人グループというわけか。其で用件は?」
「課長さんよ、俺達ともう一度取引しないか、金額はさっきの二倍だ」
「解った、上には私が言っておこう」
「ものわかりがいいな、だが金が払われる確証がないまで俺達は止めないぜ」
そこまで言って電話が切れた。
「逆探どうだ?」
「成功です、恵比寿二丁目のバー・トンプソンの公衆電話です」
美沙子が先程より幾分か明るいトーンの声で答える。
「あぁ、キャップ俺だ。犯人は恵比寿二丁目のバー・トンプソンから電話をかけてきた。直ぐに向かってくれ」
無線のスウィッチを押しながら南郷は呼び掛けた。
八.惨事

ロケット弾を撃ち込まれたのは、ハンバーガースタンドだった。家族連れで賑わう店内に突如撃ち込まれた弾頭は、たちまちその場を惨劇に変えるまで時間は僅かだった。
「キャップ、渋谷署から緊急連絡です。管内のハンバーガースタンドがロケットでやられたそうです」
刑事たちは一斉に部屋を駆け出た。
既にトラックは姿を消していた。
店内はあらゆる場所が焦げ付き、焼けた鉄と死肉の臭いで異様な臭気を放っている。
「酷いな、女子供関係なく皆殺しだぜ」
「あぁ、こりゃ人間のやることじゃねーな。城さん、どんな感じですかね?」
片岡が鑑識の城山に訪ねる。
「そうだな、ガイシャの死体の様子から見ると、殆どが即死、それ以外も死ぬのにさほど時間はかかってないだろうね」
「苦しまずに死ねたのがせめてもの救いか…」
「なんだとコージ、も一回言ってみろ!苦しもうが苦しまいが、殺られちまった事には変わりないんだよ。みんな不本意に殺されちまったんだ、何の罪もないのに。死んじまった以上救われてないんだよ、どうしてそんな冷たいことが言えるんだか説明しやがれ!」
石田が大声で吠えた。
「いいかい、ぼくらはあくまで警官だ、聖職者じゃない。死んでしまったんであればその現実を受けとめて次のことを考えなければならん。お前さんの過去は知ってる、でもその甘さを捨てなければならない時だってあるんだ」
「だがしかし!」
「二人とも止めるんだ」
坂が割ってはいる。
「確かにコージの言うことにも一理あるし、トシの言うことにも一理ある。だが我々の目的は仲間割れじゃなくて奴らを仕留めることだろ」
現場に再び沈黙が訪れた。

今週は短めです。申し訳ありません。
昨日は特捜警察のVol.4をアップ出来なかったので、代わりにこちらを投稿。本編は今日中には書き上げて投稿する予定なので、お許し下さい。

横溝章一
通称キャップ、横さん。階級は警部。
犯罪者から、特捜軍団として恐れられる特捜課の刑事達のリーダー。
一人称は軍人を連想させる「私」若しくは「自分」。
制式採用のニューナンブは使用せず、ワルサーP38カービンカスタムと、コルト・トルーパーを使用。
基本的には無口でドライな性格で、時に冷酷な手段におよび、部下と対立する事もあるが、部下からの信頼は絶大。
能力は、射撃、格闘、運転技術等、全て並み以上の戦績を誇る。

南郷総太郎
通称ボス、郷さん。
特捜課課長。階級は警視正。
元は本庁捜査一課の高官だったが、現場指揮を望み、自ら捜査課長に志願した。
器の大きい性格で、部下たちの乱暴な捜査を認めており、いざとなれば自分が責任を取る度量の持ち主。
エリートの為、各県警にも顔が利き、部下たちが活動しやすいようにしている。
腕っぷしも強く、チンピラ程度なら簡単に倒せる。
使用拳銃はワルサーPPK/S。
名前の由来は東郷平八郎と、南総里見八犬伝。

片岡弘次
通称コージ。階級は警部補。
特捜課のサブリーダー的存在で、横溝が最も信頼する部下。
くせ者揃いの特捜課では珍しく、クールな良識派。紳士的な性格で、暴走しがちなメンバーのまとめ役でもある。
国立大学卒のインテリで、文学の教養が深い。
使用拳銃はコルト・パイソン4in。

石田敏彦
通称トシ。階級は巡査部長。
片岡と同期の刑事で、元は悪名高き城西署捜査一課勤務だった。
正義感が強く、物怖じしない性格だが、短気さが弱点。口も手癖も悪いが刑事としての腕は確か。
犯罪者に家族を殺された過去があり、犯罪を強く憎み、被害者を最大限に尊重する。
使用拳銃はS&W・M19。

北川拓郎
通称タク。階級は巡査部長。
自衛隊上がりで、課一の武闘派刑事。暴力捜査を信条とする。
タフで腕っぷしが強く、細かいことは気にしない無骨な親分肌。
コンバットスーツ風のツナギを愛用している。
使用拳銃はスタームルガー・セキュリティシックス.357。

坂修造
通称修さん。階級は警部。
元は警察学校教官で、研修生時代の横溝の講師だった。
定年間近のベテランだがまだまだ元気が有り余っており、捜査にも積極的に参加する。
元々教官だったこともあり、新人の育成が好きで、皆の教育係を自称している。
戦時中は通信兵をしていたため、モールス信号の解読が出来る。
使用拳銃は、コルト・ダイアモンドバック。

佐上太助
特捜課係長。階級は警視。
仕事には厳しいが根は人情家で、どちらかと言うと現場寄りのスタンス。また直々に捜査へ出ることも多い。
しかし、打たれ弱い上に南郷に頭が上がらない為、横溝以外の部下から信用されているとは言い難い。
拳銃は、ニューナンブM60を使用。

山科美沙子
特捜課事務員。年齢21歳。
責任感が強く、自ら捜査に加わる等、行動的な婦人警官。
本質的にはけ純朴でいじらいし性格だが、芯が強く気の回る女性。

因にボスは石原裕次郎、佐上係長は庄司永建、事務員は木之内みどりの配役。
なお、石田のイメージは、中村雅俊から黒沢年雄に、北川のイメージは、刈谷俊介から柴俊夫に変更しました。
六.報告

消えたトラックは依然として姿を見せないまま、既に2時間が経過していた。
「畜生!舐めやがって、暴れるだけ暴れて後はとんずらかい」
怒りを押さえきれない石田が悪態をついて見せる。
「落ち着くんだトシ、今あがいたってどうしようもないんだ」
「どうしようもなくないだろ、此方は何人も警官が殺られてるんだよ」
片岡の言葉も、もはや無意味だった。確かに警察側の一方的な敗北だ、皆が焦っていた。
時を同じくして、聞き込みに行っていた坂と北川が帰ってきた。
「キャップ、トラックの出所がわかりました。横須賀の米軍基地です」
「米軍基地?」
「はい、昨日の夜警備の手薄な深夜を狙って、4人組の日本人が軍用トラックとロケットを盗んでいったそうです」
「盗まれたのはM9装甲トラック、それにRPG7です」
北川が続けると、今度は片岡が口を開いた。
「おい待てよ、確かRPG7はソ連製の兵器の筈だ何で米軍が持ってんだ?」
「其が馬鹿げた話だよ。一週間前中国の密航船が、横浜沖で海上保安庁に逮捕されたろ」
「えぇ、確か武器麻薬の密輸船でしたよね」
「そうだ、んでもってその時押収した武器の中に、そのRPG7が混ざってたてわけだ」
「すると何ですか、取り上げた武器を奪われたって事ですか?」
「その通り、武器は横須賀に預けられていたんだ。それを盗まれたちまったてわけだ、実弾25発のおまけ付きでな」
「修さん、他に盗まれた物は?」
「はい、コルト・ガバメント四十五口径が四挺」
「ちっ、相手はランチャーと拳銃で完全武装って訳か」

七.脅迫

その時、刑事部屋の電話がなった。
「はい捜査課」
「一度しか言わんからよく聞け」
「はい?」
「今から3時間以内に一千万ドルを用意するんだ」
「どういう事だ?」
「トラックを動かしてるのは俺の仲間、いや部下だ」
横溝が全員にアイコンタクトを送りスピーカーのスイッチを入れる。
「美沙ちゃん逆探」
続けて片岡が事務員に指示を出す。
「いったいどういうつもりなんだ?」
「言っただろ、俺たちは一千万ドルが欲んだよ」
「警察をからかっているのか?そんな大金は出せん」
「警察だから頼んでんだよ、国家の犬なんだ、お国からいくらでも出してもらえるだろ」
「馬鹿なことを言うな、何回言っても答えは同じだ、金は払わん」
「そうかい、それなら払わせる気にしてやるよ。今から花火を打ち上げてな」
「おい待て、どういう事だ?」
電話はそこまでで切れた。
「逆探は?」
ヘッドフォンを外し、美沙子は再び受話器にその小さな耳を当てる。
「逆探失敗です」

「俺だ聴こえるか?警察は要求を無視した、花火の時間だ」
運転席に座っていた男に、トランシーバーからの通信が入る。男は荷台と運転席を仕切る金属の壁を叩き合図を送った。
「おい、花火の時間だぜ」
ランチャーを抱えた男がもう一人の男に話しかける。話しかけられた方は無言で頷いて、キャブの扉を開ける。
カチャリという無機質な金属音が荷台の中にすると同時に、爆音と共にロケット弾が発射された…。

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