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もしかすると、この言葉は患者さんの中でも知っておられる方もいるかもしれません。これはEvidence Based Medicineの略で、日本語にすれば「科学的根拠に基づいた医療」となります。実は、今医師の学会や研究会や、はたまた製薬企業なども、更には厚生労働省も、あらゆる領域でEBMは大はやりです。
「科学的根拠に基づいた医療」とは何かというと、臨床試験の結果(主として無作為化比較試験:これを第III相試験といいます)に基づき、その疾患毎に標準的治療を確立し、広く多くの患者さんに寄与しようという目的があります。すなわち、同じ疾患であれば、これらの無作為化比較試験の結果等を尊重し、北海道であろうが沖縄であろうが同じ治療がなされるようになるということです。これらは、厚生労働省の指導もありいくつかの領域ではガイドラインとしてまとめられています。昨日の報道にもありましたが、今後一部の疾患ではこれら標準治療がサイトで患者さんが確認できるようになるとのことです。
実は、本件に関しては、医師の中でも賛成・反対があります。以下は私見です。
賛成派の医師は(多くはよく勉強されている医師ですが)、多大なコストをかけて(臨床試験には莫大なコストがかかると言われています)、更に臨床試験に参加して頂いた患者さんのためにも、その結果は尊重すべきであるし、科学的に証明された試験結果を、日々目の前にする患者さんの治療に生かすべきだとの意見であると思います。また、無作為化臨床試験以外に、どの治療が最も良いと言える手法はないのだから当然であろうと言うと思います。
一方、反対派の医師については、同じ疾患(病気)であっても、それぞれ病気の性格は異なるのだから、更に患者さんの希望も異なるのだから、一つだけの治療で、更に言えばガイドライン(マニュアル)通りいかないのだから、EBMだけでは治療はできないというと主張されると思います。大事なのは、これまでの医師それぞれの経験や、先人たちが築いた知恵や感覚も重要だと言われるかもしれません。
賛成派・反対派、他にも沢山の意見があると思います。しかし、私が感じるのは、賛成派・反対派ともに、それぞれの立場であっても、その時々によって臨機応変に対応しなければならないでしょうし、両方の立場を取らざるを得ず、EBMに対するバランス感覚であると思います。
実は、その通りでEBM発祥の地カナダのマクマスター大学のサケット先生(本家本元)も、EBMとは科学的根拠だけに立脚するのではなく、もちろん第一に科学的根拠(臨床試験などの結果)を重要視するものの、それに医師個々の技術や経験、更には患者さん個々の好みをも考慮し、決定されるものであるとしています。これは、賛成派、反対派、両方の意見をも抱合するもので、本当にバランスであり、そのバランスを保つにあたっては、やはり少なくとも現在の最新の重要な臨床試験の結果や、ガイドラインに記載されていること位は当然の事として知っておくべきだと言う事だと思います。
例を手術後にリンパ節に転移を有する乳癌の患者さんの化学療法(抗癌剤治療)を取ってみたいと思います。
科学的根拠に基づき治療法を決定するとすれば、この領域におけるEBMの手法に基づいた最新のデータと、許容できるコンセンサスとしては、アンスラサイクリン(アドリアマイシンやエピルビシン)を含む治療の後に、タキサン系抗癌剤(タキソールあるいはタキソテール)を投与するという治療(これをACT療法と呼びます)になるかもしれません。
しかし、治療する医師が、この新しい治療法の経験がない場合は、他の選択肢があるかもしれません。同じく標準的治療の一つであるCEF療法(サイクロフォスファマイド・エピルビシン・5-FU)をACT療法の変わりに勧めるかもしれません。
更に、患者さんの好みは、ACT、CEF共に有する強い脱毛がないという治療法が良いというかもしれません。
このケースを考えると、科学的根拠はACTではあるが、医師にその経験が十分なく、医師は標準治療の一つであるCEFの経験は十分にあっても、患者さんの好みが脱毛がないとなった場合はどうといったことを考え、最終的に治療を決定するのも、十分EBMであり、冒頭に書いた賛成派・反対派の両方の立場から考える必要があると思えます。
実は、これは実例であり、最終的に患者さんは、医師から現在最も期待されるのは米国で発表されたACTであろうことの説明を受け、しかしながらその病院・医師には十分な経験がないことの説明を受けました。それから、ACT、CEFの期待される効果と副作用の説明を受け、脱毛に強い懸念を示され、脱毛が強い治療は職場上選択したくないとの患者さんの好みが示されました。その医師は、ACTやCEFを選択しない場合には、治療成績は劣るかもしれませんが、従来の標準治療であったCMFの説明をし、その治療効果が劣る可能性を許容され、CMFを受けることを決断されました。恐らく、このような事が、サケット先生のいうEBMの手法による治療の選択であろうと思います。
大変、長くなって申し訳ありません。先に消えた記事と全く違う内容になってしまいました。もう、既に消えた記事の事を思い出せません。皆さんのご意見・ご感想お待ち申し上げております。
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