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東野圭吾「探偵ガリレオ」シリーズの7作目に当たり、短編4部作集として単行本化されたばかりの
「虚像の道化師 ガリレオ7」(文藝春秋2012年8月) 。
私は、初出した時の雑誌を図書館から借りるという、出版社から見ればケチなクチ。
主人公のガリレオこと、湯川学(帝都大学/理工学部/物理学科/第十三研究室/准教授)のイメージは、
福山雅治さんとダブってしまう。
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◆ 最初から犯人を知ることとなる「倒叙(とうじょ)もの」は、好みではないが、
本作④「演技る(えんじる)」は、トリックも動機も興味深いものだった。
【概要】
① 「幻惑す(まどわす)」・・・初出「別册文藝春秋」2011年3月号の短編。
新興宗教団体「クアイの会」における幹部信者(経理担当部長 "金庫番")の転落死事件。
教祖から教団資金の横領を問い詰められた末の飛び降り自殺?と見られたが、
教祖が、送念(強い念力=気功・超能力の送信)で心理誘導し凶器として使ったと自首した。
この報道が返って超能力人気を引き出し入信者が増えた。
ガリレオは専門の物理学ではなく心理学の問題としてギブアップし掛けた。
ところが、死亡した幹部信者は、ライバル教団へ移籍する意思があったことで、動機が浮上した。
トリック
・・・念力の正体は、マジックミラーの裏からマイクロ波(高周波数の電磁波。応用例として電子レンジ)を照射していた。被害者には極端に周波数を高くした。
信者の中にはプラシーボ効果(暗示や偶然の自然治癒による効果)もあった。
オウム真理教事件が想定される。
本編の「クアイ」とは映画「スター・ウォーズ」のジェダイ・マスター(銀河系共和国の守護者)の1人、QUI (クワイ)からの引用か?
② 「心聴る(きこえる)」・・・初出「オール讀物」2011年4月号の短編。
同一会社社内で不審死が相次ぐ。
不倫相手の自殺後、ノイローゼ気味だった部長が飛び降り自殺した。
幻聴に悩まされ精神を蝕まれていた部員が発狂して暴れた。
OLが始終、耳鳴り(羽虫が飛び回るような音)に悩まされていた。
トリック
・・・携帯型(超小型)の指向性(受信感度)が強いマイクロ波スピーカーから、ターゲットの部長や部員に対して雑音波を浴びせていた。
犯人が可愛いOLまでもターゲットにした動機は、"好きになる好きになる"と繰り返し録音を聴かせ、サブリミナル効果(潜在意識への働き掛け、洗脳工作)を狙った。
マイクロ波スピーカーは未だ実用化されていないと、本編巻末に断り書きあり。
サブミナル効果もまた、心理学会では否定的見解がある一方、音声・映像を悪用した効果を狙って、新興宗教教団の勧誘、霊感商法などが後を絶たず、
メジャーな民放の番組やCMでも使った疑惑で行政指導を受けた例がある。
③ 「偽装う(よそおう)」・・・初出「オール讀物」2011年7月号の短編。 山奥のホテルの結婚式に向かう湯川と草薙刑事の車が、折からの集中雨による土砂崩れで事故る。
そんな時に傘を差し伸べてくれた若い女性・多英。
彼女の両親が別荘で惨殺死体となって発見された。
父は散弾銃で射殺されロッキングアームチェアに座ったままの状態、母は扼殺され横たわっていた。
親の間の殺害と自殺か? それとも多英を含む第三者の犯行か?
トリック
・・・父は他殺なら散弾銃の勢いで吹っ飛んでチェアから落ちている筈。
母を殺害後に自殺、つまり無理心中ではなかったか?
犯行を偽装したのは・・・。
母は父の弟子と不倫し、父はそのストレスの捌(は)け口をぶつけられ性的虐待とそのトラウマ(心的外傷)。
母が父の先に死亡したとすると、多英は遺産相続ができない。
本編だけは、科学的トリック(謎)解き中心の「ガリレオ」シリーズとしては違和感がある。寧ろ「加賀恭一郎」シリーズに多い人情話。
④ 「演技る(えんじる)」・・・初出「別册文藝春秋」2012年3月号の短編。
劇団主宰者によくある女性劇団員との多重恋愛の末の痴情の縺(もつ)れ。 主宰の元カノが本命と察知した今カノが逆上し、手元の裁ち切り鋏(ばさみ)を主宰に突き刺した。
トリック
・・・既に主宰と撚(よ)りを戻す気のない元カノは、庇(かば)うかのように鋏を抜いて、代わりに小道具用のサバイバルナイフを突き刺す。実は捜査を撹乱(かくらん)するため。
次に、携帯電話を使い、これまた死亡推定時刻を撹乱するアリバイ工作を入念にした。
被害者の携帯と類似型の自分が使っていた古い携帯(ダミー)とスリ替えた。
当日の花火の撮影偽装、死直前のコール順序を偽装するためアドレス帳を工作。
被害者の携帯からダミーの携帯へのコール。
仕上げは、隙を見て携帯を元に戻す。
疑い出した湯川が、携帯に撮影された花火の写真から、月の位置が時間的に不整合だと掴む。
犯人の今カノを隠匿(いんとく)し死体を損壊した元カノの呆(あき)れた動機とは-----
女優として殺人者の気持ちを体験するまたとない機会と捉え、フィクションではない殺人犯という役を極限の緊張感の中で演じてみたかった。
本編は、いわゆる倒叙ミステリー。
故に、東野氏は手の込んだトリックと、驚愕(きょうがく)する動機を用意した。
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倒叙ミステリーは好きでないみたいですね。先日紹介した小池さんのミステリーにも倒叙作品があるのですが貴男にとっては子供だましみたいでしょうが日常の中に潜む普通の人が侵す犯罪として読めば楽しいと思います。
2012/9/15(土) 午前 9:15 [ ヤッサン ]
了解しました。
面白ければ全て良しデス。
2012/9/15(土) 午前 9:21 [ doranyankoドラにゃんこ ]
ガリレオシリーズは、最初の巻だけ読んだことがあります。
科学、化学に精通したトリックですよね〜。
「容疑者X」は、福山さんの映画の方のみ観ました。
出演者の皆さんの演技力もすばらしかったですが、
トリックの深さに堪能させられました。
2012/9/16(日) 午前 1:48
はちやまさん
たくさんの原作の中で印象に残るのは、「放課後」85「交通警察の夜」91「むかし僕が死んだ家」94「天空の蜂」95「秘密」98「白夜行」99「加賀恭一郎 嘘をもうひとつだけ」00「片想い」01「時生」02「ガリレオ 容疑者Xの献身」05「使命と魂のリミット」06「ダイイング・アイ」07「流星の絆」08「ガリレオ 聖女の救済」08「ガリレオの苦悩」08「パラドックス13 」09「ナミヤ雑貨店の奇蹟」12 などです。
映像化では、「秘密」東宝99「白夜行」TBS06「ガリレオ 容疑者Xの献身」東宝08 です。
2012/9/16(日) 午前 4:30 [ doranyankoドラにゃんこ ]