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黄海で韓国が実施した軍事訓練に対して北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃し,民間人の死者や負傷者が出た先月(2010年11月23日)の事件は記憶に新しいだろう。事件直後から多くの専門家が,今回の北朝鮮の砲撃の意図についてコメントを出してきた。軍事アナリストの小川和久氏は,北朝鮮による砲撃の狙いが「金正恩氏による後継体制を軌道に乗せること」であると分析し,朝鮮半島情報誌「コリア・レポート」の辺真一編集長は,今回の砲撃の裏には「米国との国交正常化」という意図が見えると述べた(asahi.com 2010年11月24日配信)。
北朝鮮の砲撃の真意がどこにあるのかは定かでない。
しかし,ゲーム理論を用いると,韓国と北朝鮮がお互いの行動に対する「便益」をどう見積もっていたのかに関しては,簡単な分析によって明らかにできる。
今回の事件における韓国と北朝鮮の状況は,図1に示される「ゲームの木」によって表現できる。まずは,このゲームの木の見方を説明しよう。
ゲームの木に含まれる要素は次の三つである。
・プレーヤー
・行動の選択肢
・利得(便益)
ここで,プレーヤーとは韓国と北朝鮮のそれぞれを指す。そして,各プレーヤー(韓国と北朝鮮)にはそれぞれ二つの選択肢があることが示されている。そして,ゲームの木の終点に与えられた数値の組が,プレーヤーの利得(便益)を表している。左の数値が韓国の利得であり,右の数値が北朝鮮の利得をそれぞれ表す。
例えば,韓国が「軍事訓練する」を選択し,次いで北朝鮮が「砲撃しない」を選択した場合には,ゲームの木の「終点」では利得の組 (1, -1) が実現する。つまり,この結果によって,韓国はプラス1の利得を獲得し,北朝鮮はマイナス1の利得を獲得することになる。この図における利得の数値は便宜的なものであるが,重要なのは数値の大小関係であって,絶対的な大きさではないことに注意が必要である。
では,図1の中で,なぜこのような利得値が与えられているのかを考えてみよう。
<シナリオ1>
北朝鮮は韓国に対し,軍事訓練を実施しないよう要請していた。もし,北朝鮮の要請通りに韓国が軍事訓練を実施しない場合には,両国間では何も起こらず現状維持となる。そのため,利得は両国ともゼロである。
<シナリオ2>
韓国が軍事訓練を実施したにも関わらず,北朝鮮が韓国を砲撃しないとしよう。韓国には軍事訓練を実施することのメリットがある。この場合に韓国は,軍事訓練を実施しない場合の利得(=ゼロ)よりも高い利得(=1)を獲得できる。他方で,北朝鮮にとっては,事前の要請を無視されたことになる。そこで,北朝鮮は,韓国が軍事訓練を実施しない場合の利得(=ゼロ)よりも低い利得(=−1)を獲得することになる。
<シナリオ3>
韓国が軍事訓練を実施し,それに対して北朝鮮が砲撃する場合を考える。今回の事件を考えてみても,北朝鮮が砲撃した場合の韓国の被害は甚大である。この場合に韓国は,軍事訓練を実施しない場合の利得(=ゼロ)よりも低い利得(=−1)を獲得することになる。他方で,北朝鮮にとって,砲撃の利得はどのようになると考えられるだろうか。北朝鮮が韓国に砲撃すれば,その後の両国間の関係が悪化することは容易に想像できるだろう。北朝鮮に対する韓国からの援助は消失し,反撃を含む制裁がなされるかもしれない。このような将来的な韓国からの反撃による北朝鮮の被害は甚大であり,北朝鮮にとっては何も良い事がないと考えられるかもしれない。そうであれば,北朝鮮が「砲撃する」を選択して獲得する利得は,「砲撃しない」場合のマイナス1よりも低いマイナス2と考えられる。
以上を準備として,次回は韓国と北朝鮮がどのような行動を選択するのかを分析してみよう。
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