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格差は教育で生まれる

日頃あまり耳にすることはないヨーロッパの小国ルクセンブルグ。しかし、そこが隠れた世界一の豊かな国であり、その理由は何かというコラムでこれからの日本の進むべき方向のヒントがあるような気がしたので紹介致します。
 なお、文字制限のため一部抜粋しております。

格差は教育で生まれる    似た環境でも1人当たりGDPは日本の2.6倍の理由とは?
                                                                  伊東 乾(いとう・けん)

 世界で最も国民1人当たりGDP(国内総生産)の高い国はどこかご存じですか? 
 答えはルクセンブルクで、なんと日本の2.6倍に相当します。例えて言うなら、ルクセンブルクではお父さん1人で、日本の夫婦共稼ぎ程度の収入が得られ、なおかつお母さんは家で趣味や子育てに自由な時間を持つことができる。世界で最も豊かな市民は、ここの有産層だと言えるでしょう。 
 前回、ルクセンブルク興隆の陰に戦争あり、という話を書きました。戦争の惨劇と失敗経験は現在の経済繁栄の大きな背景になっています。でも戦争の悲惨で言えば日本だって十分大変な目に遭っているはずです。日本と、何が違うのでしょう。あるいは、何か共通するものがあるかもしれません。もしも共通項があるとすれば、それは何なのか…。 
 2007年現在、世界遺産のルクセンブルク旧市街と谷を挟んだ向かい側のキルシュベルク地区には、急ピッチで「ヨーロッパ中央」(サントル・ユーロピエン)地区の造成が進められています。 
 風光明媚で緑豊かな古都の景観。そこからたった数キロ先に、景観を損なわないように留意しながら、超近代的な欧州の政治中心が現在進行形で建設されている。自然と歴史と超近代都市とが、ほとんど踵を接して調和している、その風景が奇跡のように見えて、私は大変瞠目させられました。 
 古都と超近代都市が自然の中で共生する町ルクセンブルク。風景を眺めるうち「これはどこかで見た風景と似ている!」という気がし始めたのです。しばらく考えて、ハッと思いつきました。京都です。  
 宝ヶ池にある国立京都国際会館あたりの風景と酷似している気がしたのです。EU(欧州連合)など欧州が主導して地球環境を議論する時、京都という都市が象徴的に語られる1つの背景が理解できたような気がしました。 
 実際、自然環境と歴史と伝統、そして超近代的なテクノロジーの調和を考える時、欧州が奈良や京都など、20世紀日本の古都都市設計をお手本、あるいは参考にしているという話は聞いたことがありました。 
 ルクセンブルクの古都は、古いといっても高々16〜17世紀、大半は19世紀の石造りの建物や橋で、その歴史は高々300年程度に過ぎません。 
 翻って京都は、応仁の乱以後でも540年、開闢以来なら1200年の歴史を持ち、多くの歴史的建造物と緑が調和する景観を保ちながら、日本の誇る先端テクノロジーを駆使した都市計画が着実に推進されている。そういうイメージをもって、欧米人には受けとめられているのだったよなぁ…。 
 そこで英国人建築家の友人にメールで尋ねてみました。果たして、予想以上の反応がありました。 
 日本人の私は、京都という町に古都のイメージが強いわけですが、海外の視線は古都に加えて、確かに自然そしてトヨタ自動車やマツダ、ソニー、パナソニック(松下電器産業)の企業名とともに、先端科学技術と超近代建築が共存する「21世紀・世界の都市のお手本」としての京都像を持っているというのです。 
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                     中 略
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 世界最高の環境規制で世界最高の豊かさ実現

 さて、日本なら過疎化が問題になりそうな、鄙びたこの村落都市は、もう1つ面白い戦略を掲げています。 
 大都市ブリュッセルから電車で3時間の小さな村ルクセンブルク。かつては貧しい農業国であったものが、19世紀後半には鉄鉱石の輸出を中心に工業立国へ移行します。戦後は石油ショックを受けてはいち早く金融中心の経済を打ち立てることに成功。脱工業化社会で他国を一歩リードする立場を確立しました。 
 結果的に重化学工業開発を免れたルクセンブルクは、その経緯自体を脱工業化社会でのブランド化戦略に読み替えるというウルトラCを演じます。 
 いまだ緑のたくさん残るルクセンブルク市。この谷あいの小さな村の環境を壊さないような企業は「最も地球に優しい会社」に限られなければなりません。逆にルクセンブルクで通用する企業は、世界のどんな環境基準でもクリアできる優良企業でもあるとするならば、企業は一種の免罪符を手に入れたような意識を持つことができます。 
 一方で厳密な環境基準を設けながら、ルクセンブルクは外国資本の誘致に徹底的に前向きで、各種の税制優遇措置を設けました。「世界最高の環境基準を達成している企業は、どうぞルクセンブルクに来てください。優遇税制で歓迎しますよ」という企業誘致のメカニズムです。 
 この戦略は大ヒットしました。実際、著しい税制優遇措置は近隣各国から猛反発を食らい「EU内で国別税制の不平等は是正されなければならない」と圧力をかけられています。ちなみに経済事案の各種裁判が争われる欧州裁判所も、この小さな都市に誘致されているのです。なんという政治巧者ぶりでしょう。 
 ルクセンブルクのGDP(2006年)は406億ドル、世界で66位の経済規模の国家に見えます。ところが、上記のような巧妙な戦略性によって、あまり突出することなく、したたかに「国民1人当たりGDP世界第1位」という、冒頭に記した「知られざる豊かな国」の地位を獲得しているわけです。 
 1人当たり8万7955ドル。米国の4万4190ドル、日本の約3万4188ドルと比較すれば、この数字の意味はさらに切実です。佐賀県程度の面積に46万人が暮らすルクセンブルク。佐賀の人口は90万人弱ですから、人口密度は佐賀の半分程度の村落国家です。それが、世界で最も個人が豊かに暮らせる国を作っている。 
 戦争の惨劇と失敗経験が大きな背景になっていることは、いまさら強調するまでもないでしょう。しかし、この国際政治での巧者ぶりは、残念ながら日本には、全く見ることができないものです。戦争の悲惨で言えば日本だって十分大変な目に遭っているはず。しかしここでは何かが決定的に違う。それはいったい何なのか… 
 世界遺産に認定されている旧市街と、超近代的な「ヨーロッパ中央」キルシュベルク地区の間の超一等地は、軽井沢の別荘地のような住宅街になっています。 
 そのど真ん中に広々とした芝生やバスケットコートが嫌でも目に入ります。小学校です。 
 ルクセンブルク市の有産階級子弟は幼時から、谷あいの田園から見上げる一方の丘に世界遺産として誇るべき美しい歴史と伝統、そしてレジスタンスの強烈な記憶を学びつつ、他方の丘では雑木林の緑の頂に続々と建て続けられる、EUヘッドクオーターの超近代高層ビル群を当たり前のように眺めながら、徹底した少人数制で極めて高度な教育を受けています。 
 どうやら日本との違いは教育にありそうです。 
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                     中 略
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 国境の英知が日本の驚異的復興にも大きな役割を演じた

 日本国憲法を「米国の押しつけ憲法」と呼ぶ人がいます。一方で、新法制を指導したGHQの法律顧問が、1945年になって米国籍を取得した、アルザス・ロレーヌ生まれの亡命ユダヤ人ドイツ法律家だという事実があります。 
 私には、日本国憲法の条文からは、米国型民主主義という以上に、独仏国境の悲劇を踏まえた強力な平和への意思が感ぜられるような気がします。そう考える時、「EUの構想」と「日本国憲法」は、いわば双子のような関係にあることが、おのずから浮かび上がってきます。 
 戦後日本の驚異的復興と高度成長は、間違いなく様々な要因が重なり合って達成されたものです。その中の一因、その最も深い根の部分に、戦禍と暴政の経験を経て得られた「国境の英知」の固い決意が存在していること。これは間違いありません。 

 「国境(ボーダー)での決意」 

 日本も一方でボーダーレス社会と言い、グローバル化を語ります。でも島国の外のことは対岸の火事と見るホンネも存在しています。EUの賢察を他山の石とするばかりでなく、私たち日本の「戦後の根っこ」にも、知らぬ間に同じ石が埋められている、と知ること。 
 こうした観点は、今日の私たちに大変重要な教訓を与えてくれるのではないでしょうか。そのような認識を共有することもまた、一種の教育目的に違いありません。 
 平岩外四、宮澤喜一…。このところ、リベラルで経済的な目先の利く重鎮の逝去の報を立て続けに聞きました。自らゲートルを巻いた経験を持つ世代の語る、落ち着いて経済的なバランス感覚を持ったハト派の議論には、戦後生まれの私たちにはない強い説得力がありました。戦争を再び経験するのはまっぴらですが、その決意の部分だけは、追体験したいと私は思っています。 

 過去の経験を血肉化するのが教育というもの

 一方に、CSR(企業の社会的責任)の最重要ターゲットである「環境、平和、教育、芸術、文化」が、骨肉から一体のものであることを、国民が子供時代から空気のように呼吸して、常識以前に身につけている国があります。他方に、イジメや下流社会化が教育問題の焦点になっている、GDP総額は高いけれど1人当たりに直すとあまり豊かでない国があります。 
 ルクセンブルクが世界で最も豊かな国であり続けられるのは、過去の事実認識を絵空事でなく、完全に血肉化して決意と行動にまで移せる人材を生み出す「教育」の上に立つものだからにほかなりません。 
 さていったい、日本はどうすればよいのでしょう? 
                                           以上

 格差是正や環境問題そして平和外交や教育問題すべての面で手詰まり感のある現状の中、問題解決の糸口がなかなか見つからない日本。新内閣には、その場しのぎのパフォーマンスや権力抗争をやめ、一つ一つの課題をじっくりと取り組み深く議論し、すべての政策の最終目的である、国民一人一人が豊かで文化的な生活を送れるような国づくり、仕組みづくりを期待したい。再生不能の手遅れにならない内に…


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