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その1よりの続きです。
汚職官僚に死刑を執行 とはいえ、これらの“赤い資本主義者”たちは現状維持に腐心する強大な富と権力を持ったエリート集団に姿を変えた。真の民間資本市場が浸透すれば、銀行融資や株式上場で手心を加えることで見返りを得る権限を官僚から奪うことになる。著作権法を施行すれば中国ソフトウエア業界は一気に浄化されるかもしれないが、自分の仕事と偽造品から懐に入ってくる“寺銭”を必死になって守ろうとする官僚が、地方レベルで阻止している。北京政府は各省に学校や診療所のための財政支援を行っているが、その多くが別の用途に使われている。 中国監査機関である審計署の報告によると、年金や医療保障、失業手当への割り当て分も含めた中央政府からの監査済み資金の10%は、企業への不正融資や豪華な庁舎の建築、怪しげな投資に流用されている。「中国の競争力を強化しているように見えるものすべてが、実は競争力を削いでいるのだ」と、ローゼン氏は言う。 北京政府は汚職官僚を排除すべく最大限の努力を払っている。7月10日、中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)の鄭篠萸(ゼン・シャオユイ)元局長は、製薬会社8社から約85万ドルを収賄、その見返りとして製品の不正認可を行っていたとして死刑に処せられた。最悪だったのは、元局長の在任中にSFDAは多くの欠陥薬品に認可を与えていたことだ。ある抗生物質は10人以上の死者を出した。また、上海市の陳良宇(チェン・リアンユイ)前党書記は、年金基金から4億ドルを不正流用し都市開発計画や有料道路建設につぎ込んだとして告訴され、昨年免職された。さらには昨年9月、国営保険会社の上級幹部2人が、400万ドル相当の保険料を友人や家族の銀行口座に預け入れていたことが発覚している。 こうした厳しい処罰が見せしめとなって法治の現場は改善しつつある。しかし、中央政府は全国の地方官僚への意思徹底にいまだ苦心している。 中央政府と地方官僚を隔てる厚い壁 中国の国家環境保護総局(SEPA)の北京本部には約300人の職員しかいないが、全国の環境保護局では6万人が働いている。米国環境保護庁の1万7500人と比べるとかなり多い。ところが、この6万人は直接的には省や地方政府の配下にあり、環境への配慮よりも経済発展を優先することが求められている。2006年にOECDが行った調査によると、公害に関わる罰金は以前よりは引き上げられているものの、公害削減のための設備を導入する費用よりもはるかに安い。しかも監視当局が罰金の引き下げ交渉に応じる始末だ。「政治的な点数稼ぎのために、一部の地方官僚は棚ぼた式の利益を求める企業と癒着している」と、SEPA副局長の潘岳(パン・ユエ)氏は、7月3日付の英字紙チャイナ・デイリーに語っている。 官僚や企業経営者がいかにSEPAの規則を軽視しているかを理解するには、無錫(ウーシー)の住民230万人の水瓶となっている太湖(タイフ)に行ってみるといい。1990年代、湖畔に次々と工場が建設されて太湖の汚染が進んだため、当局は地元工場に工業廃水の浄化を命じた。99年には工場で処理施設を設置したのでもう大丈夫だと地元の官僚は述べた。ところが、会社側が運転費用の負担を拒否したため実際には浄化施設は稼働していないことが多く、工場は未処理の廃水を湖に垂れ流し続けた。状況は悪化の一途をたどり、この春ついに湖水は不気味な虹色に輝く緑色に変わった。 「公害問題を解決できない政府に怒りを覚える」と話すのは、無錫の外資系メーカーで秘書として働くリディア・リー氏だ。5月には、硫黄臭のする黄色っぽい水が蛇口から出てくるようになったため、ボトル入り飲料水を190リットル近く買い込むはめになった。 食品製造の監視でも問題が絶えない。SFDAには職員が1700人いるが、中国の食品製造者の80%(約35万社)は従業員数10人未満の小企業で、安全基準をよく理解していないことが少なくない。そしてこの場合も、違反業者を厳しく取り締まろうという意欲が地方政府にはほとんど見られない。「地方政府が食品安全規則に違反する業者をすべて業務停止処分にしたら、膨大な数の労働者が失業することになる」と、北京にある中国農業大学の食品科学・栄養科学院院長、羅雲波(ルオ・ユンボ)氏は言う。 貧相極まる社会福祉制度 誤った経済至上主義が、社会福祉の悲惨な状況をもたらした。1980年代に巨大国有企業の解体に着手し、“鉄飯椀”と呼ばれた手厚い生涯福祉制度を廃止してから、党の最高幹部たちは基本的な国民医療保障と退職金制度を作ると言い続けてきた。ところが、その責任は複数の省庁に分散され、社会保障制度の財源は地方政府に委ねられた。経済成長が連呼される一方で、社会保障は見向きもされなかった。 英国のような初期診療制度を確立するためには400億ドル前後が必要だが、これは中国政府にとってさほどの金額でもない。「だが、私は悲観的だ」と、米シートン・ホール大学の世界保健研究プログラム責任者、フアン・ヤンチョン氏は言う。北京では対立する省庁間で責任が細分され、地方では党幹部がいまだにGDP成長率に基づいて評価を受けている。「政治制度の抜本的な改革を避けて、ただ政策を唱えるだけでこの問題に取り組んでも、中国国民にとって利用しやすく負担の軽い医療保障制度はできないだろう」(ヤンチョン氏)。 結果、国民の多くが医療難民となる。政府調査によれば、中国国民の半数近くが病気になっても医者にかかれず、70%が健康保険に未加入であり、30%が経済的理由から入院を自ら拒否せざるを得ない。医療システムも腐敗している。病院は収益の大半を薬の販売で上げ、製薬会社からリベートを受け取るという構造が、過剰処方を招いている。哈爾浜(ハルビン)に住む75歳のガン患者は輸入薬を処方され50万ドル以上を請求されたが、その多くが治療に必要ないものだった。中国ではこのような話が日々報じられている。 株式市場でも、党の役人の干渉が足かせになっている。活況を呈している上海証券取引所は1990年に国有企業の資金調達のため設立された。最高の施設を誇り、上場株式は2005年から3倍近くに増えた。今年1〜5月に企業が調達した資金は170億ドルに上り、さらに数百億ドル規模の株式発行が予定されている。 だが、監視は多少強化されたものの、取引は乱高下が続き、ルールは甘く、投機がはびこる場になっている。その大きな原因は、ここが相変わらず国有企業の資金調達の場所に過ぎないからだ。市場の役割は優良企業に効率良く資本を配分することだが、中国では「国有企業に資金を送り込むこと」が最優先される機能なのだと、北京のJPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPM)のマネージング・ディレクター、カール・E・ウォルター氏は言う。 ここでもやはり官民の癒着という問題に帰着する。上海証券取引所の上場銘柄の95%は国有企業である。昨年について見れば、民間企業は1社も上場を許可されなかったのに国有企業は14社も上場している。国有企業は自社株の10〜30%を売り出すことで支配権を譲ることなく銀行融資への依存を軽減でき、内部関係者は株式公開によって棚ぼた式に利益を得ることができる。たまに重要情報を公開しない企業に対して規制当局が罰金を科すこともあるが、上場廃止やコーポレートガバナンス遵守違反による起訴は滅多にない。 巨額の研究開発投資も“物真似”に使われるだけ 「中央政府は健全な株式市場を求めているが、企業を所有しているのは強大な権力を持つ省や地方政府であり、党内に人脈も多い。(規制当局は)企業や地方官僚を追及することに恐れをなしているし、追及するための力もない」と、中欧国際商工学院で金融学を教える張春(チャン・チュン)教授は言う。 政策の方向を誤っているのは地方の党組織だけではない。北京政府には科学技術大国への道を開く責任がある。中国には、生命科学からナノテクノロジー、光技術を含むあらゆる分野でも極めて高度な設備を備えた研究所がある。科学技術系の修士や博士は毎年6万人以上輩出し、軍事技術や有人宇宙飛行でも成果を上げている。中国人科学者は膨大な量の論文を国際的な学会誌に発表している。 もちろん、科学論文を書くことが技術革新に結びつくわけではない。「中国の努力は空回りしている」と指摘するのは、米カーネギー・メロン大学電気工学学部部長で、武漢(ウーハン)にある国立光学研究所でアドバイザーも務めるジュウ・ジェンガン氏だ。政府や大学の研究所には最高の施設が整っているが、行われている研究の大半はたいしたことではないとジュウ氏は言う。力を入れているのは、画期的な発明よりも、金儲けができる製品づくりへの技術の転用だ。「多くの研究をしてはいるが重要性は低い」。問題は、業績ではなく年功序列や人脈に基づいて昇進が決まることだ。「それで若者を引きつける環境を作れるはずがない」(ジェンガン氏)。 もう1つの問題は、政府機関が手っ取り早い結果を求めることだ。「中国の官僚主導型プロセスのせいで、“研究開発”のための資金が“製品開発”につぎ込まれてしまう」と語るのはアン・スティーブンソン・ヤーン氏だ。米国情報技術局北京事務所の前主席代表で、革新的な中国企業のインキュベーションに注力している新興企業、米ツイン・ポプラーズの現社長である。その結果、「企業は既存の技術を模倣することによって利益を得るようになった」。 北京政府はどこか別の国で開発された技術の中国版を作ることに非常に積極的である。DVDやWi-Fi、超高速の第3世代(3G)携帯電話サービスに関して中国独自の技術を持っていると誇らしげに言うが、中国企業にとってのコストは大きい。中央政府が2つの世界標準(W-CDMAとCDMA2000)を採用しようとしているにもかかわらず、規制当局は中国独自規格(TD-SCDMA)の開発が予定よりも数年遅れていることを理由に3Gサービス自体の提供開始を遅らせた。 その判断が、華為技術有限公司(ファーウエイ・テクノロジーズ)や中興通訊股分有限公司(ZTE)といった中国通信機器ベンダーやTCL集団股分有限公司や寧波波導股分有限公司(ニンボー・バード)といった中国携帯端末メーカーの足を引っ張っている。「中国の3G導入が遅れていることで、業界全体が痛手を被っている」と語るのは、米クアルコム(QCOM)のアジア代表ジン・ワン氏だ。「もし中国で既に3Gサービスが始まっていたら、これらの企業はより重要なプレーヤーになっていただろう」(ワン氏)。その3に続く |
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