† THEATER OF MOON †

つきこの創作小説劇場◆愛と幻想・・・妖しくも美しい禁断の物語へようこそ!更新遅れてすみません。

全体表示

[ リスト ]

◆初めてお越しの方はトップページよりお入りください。
 
 
 
「それにしても何だ?あの姫・・・気が強いにも程がある。助けてやったというのにお礼の言葉の一つもなかったぞ。」
 シェリークはイリュミナに平手打ちされたことを思い出して、熱くなった頬を指で摩った。
「姫が怒るのは無理もありませんよ。」
 エメリア伯爵は薬を片付けると呆れたようにシェリークを見た。
「何だ?その目は・・・」
「まったく・・・相変わらず女性のことに関しては鈍いのですね。」
「・・・?」
 エメリア伯爵の言葉の意味が理解できずに目を円くさせると、いつのまにか部屋にはファルド侯爵夫人が楽しそうに笑みを浮かべながら立っていた。
「伯爵はあなたのことを女心もわからないと懸念しているのよ。」
「ああ・・・そんなもの、わかってたまるか。わかりたくもない。」
 吐き捨てるように言ったシェリークを見てさすがの夫人も困ったように眉間に皺を寄せた。
「あら・・・本当に困った子ね。姫の心を射止めるのではなかったの?せっかく戦いに勝っても姫に嫌われたら・・・」
「何だ?言いたいことがあるならはっきり言え。」
「ふふっ・・・純粋な乙女心を傷つけて、ただで済むとでも思っているのかしら?」
 愉快そうに呟く夫人の言葉にシェリークも反論する気さえ失せていた。
「もういい。少し休ませてくれ。」
 気怠そうに長椅子に横たわったシェリークを見てファルド侯爵夫人も溜息を漏らした。
「休ませてあげたいのは山々なのだけど・・・今夜は大事な月の宴よ。忘れたわけじゃないでしょうね。」
「・・・?」
「先程大公の使いの方がいらして、今夜は特別に大公の船に私たちをご招待してくださるそうよ。」
「それは本当ですか?」
 誇らしげに話す夫人にエメリア伯爵も思わず驚きの声を上げた。
「もちろんよ。あの剣試合で大公は余程シェリークさまのことが気に入ったみたいよ。もしかしたら彼の正体もすでにばれているのかもしれないわね。」
「その件については私も気がかりではありましたが・・・あの大公のことです。ばれるのも時間の問題かと・・・」
 夫人の憶測にエメリア伯爵も気になる様子で眉を顰めた。ただシェリークだけはそんなことを気にもせず、いつのまにか寝息を立てて眠りについていた。
「まあ・・・余程お疲れだったのね。こうして見ると子供みたいに可愛らしい寝顔なこと・・・」
 嬉しそうにシェリークの寝顔を覗き込んだ夫人の横でエメリア伯爵はまたも深い溜息を漏らした。
「仕方ありませんね。宴まではまだ少し時間がありますからそれまで休ませてあげましょう。」
 エメリア伯爵は自分の上着を脱いでそっとシェリークの身体にかけた。エメリア伯爵はまだ不安が拭えなかったが、覚悟を決めるしかなかった。
 
 
男勝りに剣を振り回し汗まみれになって部屋に戻ってきたイリュミナは乳母に無理矢理風呂に入れられ湯浴みをさせられていた。大人しく湯に浸かったまま三人の小間使い達に髪と身体を洗われていたイリュミナは疲れたように大きな溜息を漏らした。
「一体どうなさったというのです?先程から溜息ばかり・・・」
 イリュミナの様子が何処か可笑しいことに気付いて、乳母は心配そうに声をかけた。
「お聞きしましたよ。姫さま・・・異国の若者が颯爽と現れてあの騎士団のドナール・ランデスを打ち負かしたとか・・・それはもう大変な騒ぎに・・・」
 イリュミナの濡れた長い銀色の髪を櫛で梳いていた若い小間使いが嬉しそうに話し始めた。だがイリュミナは不機嫌そうに眉間に皺を寄せるばかりだった。
「あの男・・・私に無礼を働いたあの異国者・・・許さない・・・」
 イリュミナが呟いたのを聞いて、乳母は思わず目を細めた。
「姫さまを助けた勇敢な若者だったとお聞きしましたが・・・?」
 納得がいかないとばかりにイリュミナは乳母を睨み付けた。
「私は助けてほしいなどと一言も言わなかった。それなのにあの男は勝手な真似をして私に・・・」
 イリュミナは自分の唇を奪われたことを思い出して、かっと頬を紅潮させた。それを見た乳母が嬉しそうに笑みを零した。
「ほほ・・・聞けばその若者、大層素敵な殿方だとか・・・女たちが皆噂しておりましたよ。」
「何処が・・・あんな野蛮な男。私は認めない。」
「珍しいこと。姫さまがそれほど殿方のことを気になさるなんて・・・そういえばその方、銀の森からのお客人なのですって?」
「銀の森・・・?」
「おや?ご存じではなかったのですか?」
 不思議そうな顔をした小間使いたちを見て、イリュミナは思いがけない男の素性に目を円くさせた。
「あの男、銀の森から来たのか?なんて名前だ?貴族なのか?」
「さあ・・・名前までは・・・ああ確かファルド侯爵夫人の従者とか・・・」
「ファルド侯爵夫人?」
「ええ・・・姫さまも昔お会いなさったことがあるはずですが、銀の森でも有数の名門貴族でそれはもう美しいと評判の夫人ですよ。大旦那さまも大層なご執心ぶりで・・・」
 ファルド侯爵夫人の名前は何処となく覚えていた。昔、祖父であるゼア大公から大事な客人だと紹介されたことを思い出していた、だがイリュミナが気になるのは男が何者なのかということだった。
「あの夫人のことですからお気に入りの若いツバメでも連れてきたのではないかと囁かれていますけどね。」
「ツバメ・・・?」
「あら・・・初心な姫さまには知らない方がよいことでしたかしら。」
「ば、馬鹿にしないで。そんなことぐらい私だって・・・」
 乳母の言葉を思わず否定したイリュミナだったが、その言葉が意味するものが何なのか気にならない訳はなかった。
 何・・・?あの男、夫人の恋人なの?どういうこと?だったら何故私にあんなことをしたの?信じられない。まさか私のことをからかっただけ?
 そんな思いが頭の中を過って困惑せずにはいられないイリュミナであった。
「そんなことより姫さま・・・そろそろご準備していただかないと・・・」
「・・・?」
「宴に間に合いませんよ。今夜は特別に姫さまを綺麗に仕立てなければ・・・」
 突然煌びやかな宝飾を付けた白い衣装を手にして現れた小間使いたちを見て、イリュミナは目を瞬かせた。
「ほら、ぼうっとしている場合では・・・美しい姫さまをご覧になればどんな殿方も皆虜になります。」
「待て、私は・・・」
「今日こそは覚悟をお決めなさいませ。私たちの自慢の姫さまを披露しなければ・・・」
 そう言うと小間使いたちは一斉にイリュミナの濡れた身体に布を被せて風呂から連れ出した。有無を言わせず身体を綺麗に磨き上げていく小間使い達に囲まれて、イリュミナは逃げることも出来ずに衣装を着せられていた。
 瞬く間に美しく髪を結われ華やかな装飾品を纏わされたイリュミナは昼間の男装していた姿からは想像もできないほどの変身ぶりだった。
「これならあの方も姫さまに心奪われるのは間違いなしですわ。」
 小間使い達は皆うっとりと美しいイリュミナの姿に見惚れていた。着慣れないドレスを着せられてすっかり疲れ果てたイリュミナは言葉もなく大きな溜息を吐くことしか出来なかった。
 
 夜の森に陽が沈み、いつしか宵闇が空を覆い尽くした。代わりに美しい満月が森の向こうから姿を現すと湖面を蒼白く照らして宴の時を知らせた。
「今宵は一段と美しい満月ですな。」
「月の宴に相応しい見事な月だ。」
 人々は空に浮かぶ月を眺めると誰もが感嘆の溜息を漏らした。
 普段は静かな森の湖もこのときばかりは人々で賑わい、水辺に浮かべた自慢の船で舟遊びを楽しんでいた。湖上で月を眺めながら楽師たちが奏でる静かな楽器の音色に酔い痴れ、夜明けまで酒を酌み交わしながら宴を楽しむというものだった。
 湖上に浮かぶ船の中でも一際目を惹くのは見事な龍の彫刻が施された船首を高く掲げたゼア大公の豪華な船であった。ゆっくりと波に揺られて漂うその姿はまるで優雅に波と戯れる龍そのもののようでさえあった。
「さすがですな。今年も大公の船は何とも贅沢ですな。」
「おや・・・孫娘のイリュミナ姫さま以外に客人を招待なさるとは珍しい。」
「あれは確か銀の森のご一行ですよ。昼間の剣試合で勝利したという若者がほれ・・・」
「まさか本気で姫さまにあの若者を・・・?」
「はは・・・酔狂にも程がある。」
 そんな噂話が囁かれている中、ゼア大公の船はゆったりと湖面の中央を進んで天高く浮かんだ満月にきらきらと照らされていた。
「今宵は船にお招きいただいてありがとうございます。見事な宴ですわ。」
 ファルド侯爵夫人はうっとりと空の景色を眺めると、傍にいた大公に微笑した。
「気に入っていただけたかな?宴はまだ始まったばかり・・・まだまだお楽しみはこれからですぞ。」
 大公が誇らしげに黒い顎髭を撫でると、女たちが次々と豪勢なご馳走を運んで船の中央に並べだした。月の明かりにほのかに照らされた美しい彩のご馳走は馨しい香りを漂わせて人々の鼻を擽らせた。
「それよりもお客人、先ほどは見事な試合を拝見させていただいたが怪我の具合はいかがかな?」
 突然ゼア大公に怪我のことを尋ねられて、シェリークは一瞬目を円くさせた。だがそんなシェリークを気遣うように、エメリア伯爵が代わりに返答をした。
「ご心配には及びませぬ。傷は思いの外軽傷でございました。」
「ほう・・・それはよかった。勇猛果敢な若者で頼もしい限りだ。のう・・・イリュミナ?」
 エメリア伯爵の言葉に目を細めたゼア大公は隣にいた孫娘のイリュミナに視線を落とした。するとイリュミナは何処か上の空の様子で遠くを見ていた。
「ん・・・?どうした?イリュミナ・・・何をぼうっとしておる。銀の森からの大事なお客人だ。ファルド侯爵夫人のことは存じておろう?」
 ゼア大公の言葉にイリュミナはちらりと夫人を見ると、間が悪そうに会釈した。
「ええ・・・夫人のことは覚えております。以前お会いした時と変わらず美しい方で・・・」
 ふと見た夫人の隣に見慣れない男性が座っているのを見てイリュミナは怪訝そうな顔を向けた。
「ああ・・・エメリア伯爵とは初めてであったか?彼はあのテリドレアーネ王の片腕としても名高い側近だ。親しくしておいて損はないぞ。」
 意味深な笑みを浮かべたゼア大公に紹介されたエメリア伯爵を見てイリュミナは何だか腑に落ちなかった。
 テリドレアーネ王といえば文武両道の美しい王として、この夜の森でもその評判を知らない者がいないほどであった。そんな銀の森の王の側近が何故この国に来ているのかイリュミナは不思議でならなかった。
 
 
 

.
アバター
つきこ
女性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

ブログバナー

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事