† THEATER OF MOON †

つきこの創作小説劇場◆愛と幻想・・・妖しくも美しい禁断の物語へようこそ!更新遅れてすみません。

第五章 幻惑

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「どうかなさったのですか?お顔の色がよくありませんが・・・」
 部屋を訪れたエメリア伯爵がシェラ・ドーネの様子が可笑しいのに気付いて声をかけた。シェラ・ドーネは苦しそうに胸を押さえていた。
「痛い・・・胸が痛いんだ・・・」
「シェラ・ドーネさま・・・?」
 エメリア伯爵はシェラ・ドーネに駆け寄ると、急いでシェラ・ドーネの胸元を開いた。
「あっ・・・」
 シェラ・ドーネはエメリア伯爵から顔を背けた。胸の傷が少し開きかけているのか薄っすらと血が滲んでいた。
「何をなさったのです?無茶なことでもなさったのですか?あれほど気をつけていただくようにと・・・」
「ごめんなさい・・・」
 痛そうに顔を歪めるシェラ・ドーネを見てエメリア伯爵は怒っている場合ではないことに気がついた。
「我慢出来ますか?今、先生をお呼びしますから・・・」
 シェラ・ドーネはエメリア伯爵の腕を掴んだ。
「大丈夫だから・・・何処にも行かないで・・・傍にいて・・・放っておけば治るから・・・」
「とても大丈夫には思えませんが・・・いいですか?じっとしてそこから動いてはなりませんよ。すぐに先生をお連れしますから・・・」
「エメリア伯・・・」
 エメリア伯爵は急いで部屋から出て行った。シェラ・ドーネはそれ以上止めることも出来ず大人しくエメリア伯爵の言うとおりにした。エメリア伯爵が戻ってくるまでの時間がとてつもなく長く感じられた。

 もう完治したとばかり思っていたのに・・・忌々しい傷だ・・・シェリークに触られたからか・・・いやシェリークと抱き合ったせいだ・・・それでこんなことになるなんて・・・

 シェラ・ドーネはなんとか痛みを堪えていた。
 エメリア伯爵が侍医を連れてきてようやくシェラ・ドーネも安心したのか、大人しく治療を受けていた。
「少し開いただけですから問題はありません。ですが、しばらく出歩かないほうがよいでしょう。安静が必要です。痛むようならこのお薬を飲んでください。痛み止めです。では私はこれで・・・」
 侍医が少し呆れた顔で話すのを見て、エメリア伯爵はほっと胸を撫で下ろしていた。シェラ・ドーネは気まずいのかエメリア伯爵から目を逸らしていた。
 侍医を見送ってエメリア伯爵がシェラ・ドーネの寝所に戻ってきた。
「シェラ・ドーネさま・・・」
「わかっているよ。反省しているよ。」
 エメリア伯爵の言葉を遮るようにシェラ・ドーネが先に言葉を漏らした。エメリア伯爵は溜息を吐いた。
「昼間どちらに行かれていたのですか?あまり無理をしてはならないと先生からも止められていたことをお忘れになっていらしたのですか?」
「どこに行こうが僕の勝手だ。庭を散歩するのも駄目だって言うの?」
「散歩したくらいで傷口が開くとは思えませんが・・・」
「・・・」
「どなたとお会いになっていらしたのです?シェリークさまですか?」
 シェラ・ドーネは驚いてエメリア伯爵を見た。
「やはりそうなのですね。」
「何を根拠に・・・」
 焦るシェラ・ドーネの頤を持ち上げてエメリア伯爵はふっと冷たい笑みを零した。

「紅くなった痕が・・・」

 エメリア伯爵はシェラ・ドーネの首筋をなぞった。

「ここにも同じような痕が・・・」

 エメリア伯爵はすかさずシェラ・ドーネの腕を持ち上げて紅い痕を指摘した。
「なっ・・・」
「シェリークさまの接吻の痕ですね。」
 シェラ・ドーネは言葉を失って顔を紅く染めた。
 迂闊だった。さっき治療のときに肌を出したのをエメリア伯爵にも見られていたのだ。
「そんなに飢えておいでだったのですか?我慢出来ないほどに・・・」
「違う・・・そんなんじゃ・・・シェリークが無理やり僕を部屋に連れて行って・・・」
 エメリア伯爵の手がシェラ・ドーネの顎を掴んだ。
「抱かれたのですか?シェリークさまに・・・」
 エメリア伯爵に見つめられてシェラ・ドーネは躯を強張らせた。シェラ・ドーネの目に涙が滲んだ。
「いけない子ですね。シェリークさまには何処までお許しに・・・?」
「エメリア伯・・・僕を疑っているの?シェリークに襲われて口づけしただけだ。それ以上のことは何も・・・」
 エメリア伯爵は静かに微笑んだ。
「嘘ではありませんね。シェラ・ドーネさま・・・あなたはまだ完全体ではないのですから・・・無茶なことはなさってはいけませぬ。その身を大事にお守りいただかなくては・・・」
 エメリア伯爵の手がシェラ・ドーネの頤からそっと離れた。
「エメリア伯・・・」
「もうしばらくご辛抱なさいませ。」
 シェラ・ドーネは何故だか少し寂しい気持ちになった。
「ねぇ・・・もしかして僕に少しでも嫉妬した?シェリークと口づけしたのが嫌だった?」
 エメリア伯爵は何も答えなかった。ただやさしくいつもの穏やかな笑みでシェラ・ドーネを見ていた。
「シェリークはまだ僕たちのこと疑っている・・・あなたが僕に何もしないのは可笑しいって・・・」
 エメリア伯爵は何も答えずに、静かにシェラ・ドーネの寝所を後にした。

 シェラ・ドーネが両性体から完全体へと変化を終えるのはもう間もなくのことであった。シェラ・ドーネはただひたすらその日が訪れるのを待った。




=外伝 銀の森  第五章 幻惑= 完

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 シェリークは自分の部屋に着くと、扉を次々に開けて奥の間まで行き、そこでようやくシェラ・ドーネを突き放した。シェラ・ドーネの躯は倒れ込むように長椅子に深く沈み込んだ。
「乱暴だな・・・もう少しやさしく出来ないのか?」
 シェラ・ドーネは銀色の瞳で冷たくシェラ・ドーネを見据えた。シェリークが掴んでいたシェラ・ドーネの手首が赤く腫れていた。シェラ・ドーネはそれを痛そうに摩っていた。シェリークはそれを見て慌ててシェラ・ドーネの前に跪いて、シェラ・ドーネの腕をとった。
「ごめん・・・きみが逃げるんじゃないかと思って・・・痛かった・・・?」
 シェリークは申し訳なさそうにシェラ・ドーネの赤くなった手首に接吻をした。

「あっ・・・」

 シェリークは舐めるように何度もシェラ・ドーネの腕に唇を這わせた。その肌を吸われる感触にシェラ・ドーネは思わず身悶えた。

「やめろ・・・シェリー・・・もう・・・あっ・・・」

 シェリークはシェラ・ドーネの腕をそっと離した。
「あいつにも・・・いつもそんな色っぽい顔を見せているのか?」
「何を言って・・・」
「あの男にいつも何をされている?あいつに抱かれて啼いてよがっているのだろう?」
「エメリア伯のこと・・・?違う・・・彼はそんなことしない・・・」
「何が違うって・・・?ずっとあいつがきみの部屋に入り浸っていたことはわかっている。おかげできみに会うことも出来なかった。今更言い訳する気?何もなかったなんて言わせないよ。」
 シェリークはシェラ・ドーネの躯に覆いかぶさるようにして顔を近づけてきた。
「さあ・・・言ってごらん。あいつにどんなことをされているの?あいつはどうやってきみをいかせてくれるの?」
「やめろ・・・エメリア伯はおまえとは違う。彼は僕に手を出さない。」
 シェリークは目を見開いた。
「なんて・・・?あいつがきみに何もしていないとでも言うのか?きみを前にして何もしないなんて信じられない。僕を騙すつもり・・・?」
 シェラ・ドーネは顔を背けた。
「エメリア伯は紳士だ。彼はやさしく僕を抱き締めて髪を撫でてくれる。ときどき僕がせがむと口づけをしてくれる。ただそれだけだ。それ以上のことは何もない。」
「嘘だ。ここも触らせていないのか?」
「あっ・・・」
 シェリークは突然シェラ・ドーネの股間に手を伸ばした。
「そんなわけないよね。シェラ・・・きみの躯は敏感だもの。きみだって我慢出来なくなるときがあるだろう?」
 シェラ・ドーネは身を捩ってシェリークから逃げた。
「だったらなんだって言うの?苦しいときに彼の手を借りたことはある。だけどそれまでだよ。他には何もない。」
 シェリークには信じられなかった。

 この美しいシェラ・ドーネを前にして抱きたいと思わないなんてどうかしている。あの男はシェラ・ドーネを見て欲情しないのか・・・?

 シェリークは我慢出来ずにシェラ・ドーネの躯を押さえつけると、胸元を開いて手を差し入れた。
「・・・?!」
 シェラ・ドーネの胸を弄ったシェリークの手の動きが止まった。
「シェラ・・・?」
 滑らかな肌に触れたつもりが指先に何か違和感を覚える。シェリークは思わずシェラ・ドーネの胸を大きく開いて見た。
「これは・・・?」
 シェリークは驚愕した。美しかったシェラ・ドーネの白い肌に一文字の傷跡が残っていた。それはまだ生々しく縫合した痕が浮き上がっていた。
 シェラ・ドーネは肌蹴られた服を手で閉ざして肌を隠した。
「何・・・今の・・・あいつがやったのか?この傷・・・」
 シェラ・ドーネは冷ややかにシェリークを見上げた。
「違うよ。これは僕が自分でやった。剣で胸を刺そうとしたんだ。」
 シェリークは蒼ざめた。何故シェラ・ドーネがそんなことをしたのかわからなかった。
「ふふっ・・・死ねると思ったんだ。でも僕は生きていた。可笑しいだろう?」
「・・・」
 笑っているシェラ・ドーネを見てシェリークは言葉を失った。
「どうしたの?怖い?こんな躯じゃ抱く気も失せた?」
 いつのまにかシェリークの目に涙が浮かんでいた。シェリークはシェラ・ドーネを抱き締めていた。
「一体何があった?きみに何が起こった?僕の知らない間にきみは・・・違うきみになっている。きみは本当にシェラなのか?」
 シェリークの涙がシェラ・ドーネの頬に零れ落ちていた。

「僕は生まれ変わったんだよ・・・新しい僕に・・・」

 シェラ・ドーネはクスクスと笑っていた。何がそんない可笑しいのかシェリークにはわからなかった。シェリークはただシェラ・ドーネを黙って見つめることしか出来なかった。
「どうしたの?僕を抱きたかったのではないの?用がないなら帰るよ。」
 シェラ・ドーネはシェリークの躯を跳ね除けて椅子から立ち上がろうとした。シェリークはそれを見て慌ててシェラ・ドーネの腕を掴んで押さえ込んだ。
「シェラ・・・きみ・・・変だ・・・何がきみを可笑しくさせている?」
 シェラ・ドーネは銀色の瞳を妖しく煌かせた。
「くっくっ・・・何を怯えているの?僕だっていつまでも両性体のままではいられない。変わらなきゃいけない。そうだろう・・・?」
 シェラ・ドーネが呆然としたシェリークの背中に腕を回して抱き寄せた。
「シェラ・・・まさかもう完全体になったの?きみの躯はもう・・・」
「ふふっ・・・確かめてみる?未完成だけど・・・もうじき完全体になる。そうしたらすぐに元服を迎えるよ。」
 シェリークはシェラ・ドーネの躯に手を触れてみた。服の上からでもそれは確かに違いがわかった。
「躯だって今よりももっと大きくなる。背だってすぐにおまえに追いつくよ。」
「だめだ・・・そんなことになったら・・・きみは僕から離れていってしまう。そんなこと許さない。きみは僕だけのものなのに・・・」
「我儘だな。シェリーク・・・僕はおまえだけのものになったつもりはない。」
 シェラ・ドーネはシェリークの腰を抱き寄せて躯を更に密着させた。シェリークの耳元でシェラ・ドーネの熱い息と共に囁くような声が響いた。

「シェリーク・・・僕のものになる・・・?」

 シェラ・ドーネはシェリークの耳朶に口づけをした。シェリークの肌が途端に粟立った。
「僕のことが好きなら僕の言うこと聞けるはずだよ。それとももう終わりにする?」
 シェリークはシェラ・ドーネが何を言っているのかわからなかった。ただ恐怖にも似た何かが自分を包み込もうとしているのだけはわかった。
 シェラ・ドーネの唇がいつのまにかシェリークの首筋を辿って鎖骨を舌で這わせていた。

「あっ・・・」

「ふふっ・・・感じた?シェリークだって案外するよりされるほうが好きなんじゃないの?」
 かっと頭に血が上ったシェリークはいきなりシェラ・ドーネの唇を塞いだ。

「うっ・・・んんっ・・・」

 貪るようにシェラ・ドーネの唇を奪ってシェリークは無理やり舌を潜入させた。だがシェラ・ドーネの熱い舌がシェリークの侵入を防いで応戦したかと思えば、たちまち舌を絡め取られて吸い付かれていた。そのあまりの素早い反撃にシェリークは驚いて身動きも出来ず、シェラ・ドーネにされるがまま唇を奪われていた。

「はっ・・・あっ・・・」

 ようやく唇を解放されたときにはシェリークの息は上がって顔は真っ赤になっていた。
「ふん・・・下手糞。そんなことじゃ僕を満足させられないよ。出直しておいで。」
 シェラ・ドーネは冷ややかに笑うとシェリークの躯を押し退けた。シェリークはまだ呆然としていた。シェリークの躯は震えたままだった。
 部屋を出て行こうとするシェラ・ドーネにようやく気付いて、シェリークは慌てて呼び止めた。
「待って。行かないで・・・」
 シェラ・ドーネは扉の前で足を止めると横目でシェリークを睨んだ。
「おまえが二度と僕に乱暴を働かないと誓えば許してやろう。僕の言うことを聞けば少しくらいやさしくしてやってもいい。」
「シェラ・・・」
 扉は無情にも閉ざされた。
 一人部屋に残されたシェリークはまだ頭の中が混乱していた。シェラ・ドーネの変りようにどうしていいのかわからなくなっていた。
「くっ・・・あいつが現れてからろくなことがない。あいつがシェラを可笑しくさせて僕たちの仲を壊そうとしている。きっとそうだ。エメリア伯爵・・・あいつさえいなければ・・・あいつのせいで僕のシェラは・・・」
 シェリークは悔しさと自分の不甲斐なさで溢れてくる苛立ちをどこにぶつけていいのかわからず床に拳を叩きつけた。


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「あら・・・ご覧あそばせ。」
「あれはシェラ・ドーネさま?」
「まあ・・・しばらくお見かけしないと思っていたら、なんだか少しお変わりになられたような・・・」
「そういえば少し背も大きくなれたのか凛々しくなられて・・・大人びたかんじがいたしますわ。」
「もしやそろそろ元服を迎えられるのでは・・・?」
「まだまだ子供かと思っておりましたが、テリドレアーネ王と見紛うばかりに美しくなられて・・・」
「シェラ・ドーネさまは確かもうすぐ十六におなりのはず。もうご結婚されても可笑しくないお歳ですもの。」
 中庭で遠くからシェラ・ドーネを眺めていた後宮の女官たちが皆一斉に溜息を漏らした。

 シェラ・ドーネは胸の傷も完治し、長い間の休養ですっかり身体も回復していた。エメリア伯爵からの報告を聞いて、テリドレアーネ王はシェラ・ドーネを部屋から外に出ることを許したのだった。シェラ・ドーネは以前のように自由に城の中を歩き回ることが出来るようになった。
 だが何かが違っていた。シェラ・ドーネの成長ぶりは誰の目にもはっきりとわかった。骨格がより男性的になり背も伸びて少し逞しさが感じられるようになった。顔つきもどこか大人びた印象に変わっていたが、色香を漂わせた美しさは以前にも増して磨きがかかったかのように映った。
 シェラ・ドーネの儚いまでの美しさはどこか危うさを秘めたものへと変化し、人々を魅了せずにはいられなかった。

 シェラ・ドーネは女官たちの姿に気付いて近付いてきた。女官たちはそれを見て驚きのあまり皆固まっていた。女官たちは近くで見るシェラ・ドーネの美しさに圧倒されていた。
「きみたち・・・エメリア伯爵を見かけなかった?」
 突然シェラ・ドーネに声をかけられて皆戸惑って顔を見合わせた。
「いえ・・・見かけてはおりませんが・・・」
「そう・・・」
 シェラ・ドーネは少し残念そうな顔を見せると、すぐにニコリと微笑んだ。
「ありがとう。邪魔をして悪かったね。」
 それはまるで美しい調べのように心地よく耳に響く声だった。女官たちは皆うっとりとシェラ・ドーネに見蕩れていた。シェラ・ドーネは踵を返して立ち去ろうとしたとき、一人の女官が慌てて声をかけた。
「あの・・・これを・・・」
 まだ若い女官は顔を赤らめながら手に持っていた一輪の白い花をシェラ・ドーネの前に差し出した。シェラ・ドーネは不思議そうに花を見つめた。
「これを私に・・・?」
「はい・・・お嫌でなければ・・・」
 シェラ・ドーネは花を受け取るとやさしく笑みを浮かべた。
「綺麗な花だね。とてもいい香りがする・・・あなたたちのように・・・」
 シェラ・ドーネの銀色の瞳に射抜かれたようになって女官たちは皆卒倒しそうになった。シェラ・ドーネは銀色の髪を靡かせてその場を立ち去った。唖然としたままその姿を女官たちは見送っていた。
「ご覧になった?今のシェラ・ドーネさま・・・」
「ええ・・・あの銀色の瞳で私を見つめてくださったわ。」
「何ですって?シェラ・ドーネさまは私を見てくださったのよ。」
「ああ・・・なんて素敵。あんなにやさしい方だとは思わなかったわ。」
「今まで私たちにはお声もかけてはくださらなかったのに・・・」
「シェラ・ドーネさまの美しさにもう蕩けてしまいそうでしたわ。」
「でもエメリア伯爵を捜していらしたなんて・・・やはりあの噂は本当なのかしら。」
「殿方にシェラ・ドーネさまを奪われるなんて悔しいですわ。」
「あら、あなたこの前エメリア伯爵がいいって言ってなかった?」
「あら、そうでしたかしら。」
 女官たちは興奮冷めやらぬ様子でシェラ・ドーネに心を奪われていた。

 シェラ・ドーネは久しぶりに城の中を歩き回ることが出来て嬉しかった。女官からもらった白い花を手にしてシェラ・ドーネは楽しそうに庭の中を歩いていた。
「ご機嫌だね。シェラ・・・」
 背後から突然抱き締められてシェラ・ドーネは驚いて振り返った。シェラ・ドーネの手から白い花が落ちた。
「シェリーク?!」
「ふふっ・・・もう僕のことなんか忘れたかと思っていたよ。」
「何をしている?離せ・・・」
 シェリークはシェラ・ドーネを抱き締めて腕の自由を奪っていた。シェリークの息遣いがシェラ・ドーネの首筋に触れて躯を熱くさせた。
「久しぶりに会ったというのにきみは冷たいな・・・でもきみの躯はそうじゃないよね・・・?」
「あっ・・・」
 シェリークに服の上から躯を弄られて、シェラ・ドーネは思わず甘い声を漏らした。シェリークの指に触れられるだけで甘い疼きが躯の奥から湧き上がってくるのをシェラ・ドーネは止められなかった。
 シェリークはどこか以前とは違うシェラ・ドーネの様子に戸惑いを感じた。抱き締めると折れてしまいそうだったシェラ・ドーネの華奢な肢体は前よりも少し逞しくなったような気がした。いつのまにかシェラ・ドーネの背は伸びて骨格が男らしくなっていた。
シェラ・ドーネはシェリークを睨み付けながらシェリークの腕を振り解こうとした。
「よさないか・・・こんな所で・・・」
「ここだと人に見られるから嫌・・・?だったら僕の部屋においでよ。誰にも邪魔されない。二人きりで楽しもう。」
 シェリークは不敵な笑みを浮かべると、シェラ・ドーネの腕を引っ張って足早に歩き出した。
「痛い・・・離して・・・」
「手を離したらきみは逃げるつもりだろう?そんなことはさせないよ。」
 シェリークの有無を言わさぬ強引な態度にシェラ・ドーネは半ば諦めながらシェリークの後をついていくしかなかった。


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 侍医の手がゆっくりとシェラ・ドーネの胸の包帯を剥がしていった。包帯の下から白い肌が現れて、そこにはまだ生々しい傷痕が残っていた。
「ずいぶんよくなられたようです。傷痕もしばらくすれば目立たなくなるでしょう。よくぞ我慢なさいましたな。」
 侍医の言葉を聞いてシェラ・ドーネは微笑んだ。傍にいたエメリア伯爵もほっと息を吐いた。
「もうこの包帯とってもいいの?」
「そうですね。もうお取りになられてもよいでしょう。ただしまだ無理は禁物です。軽くお身体を動かされるくらいはかまいませんが、激しい運動は御法度です。よろしいですか?」
「わかっているよ。」
 シェラ・ドーネは少し拗ねた顔をしたが、包帯をしなくてもいいのが嬉しかったらしくすぐに機嫌は直った。
 侍医は包帯と薬を片付けるとシェラ・ドーネの部屋を後にした。
「ようございましたな。シェラ・ドーネさま・・・」
 エメリア伯爵はシェラ・ドーネにやさしく微笑んだ。シェラ・ドーネも笑っていた。
「あなたのおかげだよ。エメリア伯・・・あなたには感謝している。」
「私は何も・・・シェラ・ドーネさまの回復力には目を見張るものがございました。あなたご自身のお力に因るものでございます。」
「でもあなたがいなければ僕は変われなかったよ。」

 シェラ・ドーネの躯は完全体になるべく変化を始めていた。突然訪れた急激な変化に最初戸惑いを見せたシェラ・ドーネであったが、エメリア伯爵がずっと傍についていてくれたので安心して過ごすことが出来た。身体つきも以前より大きく成長し、少女のような華奢な印象は薄らいだ。見た目にも明らかにシェラ・ドーネは変わっていった。このまま順調に成長すれば近いうちに完全体となるのは間違いなかった。

 長椅子にもたれていたシェラ・ドーネは立ったままのエメリア伯爵を傍に呼び寄せた。シェラ・ドーネは横にエメリア伯爵を座らせるとすぐさま抱きついた。
「シェラ・ドーネさま・・・?」
「ねぇ・・・エメリア伯・・・僕を抱いて・・・」
 エメリア伯爵は自分に絡められたシェラ・ドーネの腕を解放すと、シェラ・ドーネを見つめた。
「先程の先生のお言葉をもうお忘れですか?」
「覚えているよ。ずっと部屋の中にいて躯が鈍っている。少しくらい・・・軽い運動ならいいのでしょう?」
 シェラ・ドーネの銀色の瞳で見つめられてエメリア伯爵は困った顔をした。
「では我が君にお願いいたしましょう。あなたの運動不足解消の為にお部屋を出て庭を散歩する許可をいただきましょう。」
「そんなこと・・・僕はあなたと一緒なら外に出られなくてもいいのに・・・」
「外に出られなくてもよろしいのですか?」
「・・・」
 シェラ・ドーネは子供のように頬を膨らませてエメリア伯爵を睨んだ。
「あなたはいつになったら僕の願いを聞いてくれるの?」
「それはあなたがご成人なされてご無事に元服なさいましたら・・・」
「あなたは意地悪だ。そうやって僕をずっと焦らす気?」
 エメリア伯爵はシェラ・ドーネの手を取りそっと口づけをした。
「シェラ・ドーネさま・・・あなたが元服なさる日を私は心待ちにしております。そのときには私をいかようにも・・・」
「エメリア伯・・・」
 シェラ・ドーネはエメリア伯爵の手を両手で握り締めた。
「あなたはいつも僕によくしてくれるのに・・・あなたはそれでいいの?あなたは我慢出来るの?」
 真剣な眼差しのシェラ・ドーネにエメリア伯爵は可笑しそうにクスッと笑みを零した。
「私がどれだけ我が君のお傍に仕えているとお思いですか?我慢には慣れております。」
「あ・・・ごめんなさい。僕・・・」
 シェラ・ドーネはエメリア伯爵に悪いことを言ってしまった気がして、咄嗟に俯いてしまった。

 エメリア伯爵が本当に心から愛しているのは自分ではなく父のテリドレアーネ王なのだ。エメリア伯爵は父の命令で自分に付いていてくれたに過ぎない。彼があまりにやさしくしてくれるから、そのことをつい忘れてしまいそうになる。

 そう思うとシェラ・ドーネは急に寂しい想いに駆られた。
「どうかなさいましたか?」
 黙り込んだシェラ・ドーネをエメリア伯爵は心配そうに見つめた。シェラ・ドーネは口を結んだまま首を横に振った。
 エメリア伯爵はシェラ・ドーネの肩をそっと抱き寄せると、銀色に輝く髪を静かに撫でた。
「以前にも増してあなたは我が君によく似ていらっしゃる。この髪も・・・もっとお伸ばしになればいい。さぞかし美しいことでしょう。」
「父上みたいに・・・?」
「ええ・・・我が君の御髪も素晴らしいですが、あなたもきっと・・・」
「あなたがそう言うのならもっと伸ばすよ。」
 シェラ・ドーネは嬉しそうに微笑んだ。
 エメリア伯爵はそんなシェラ・ドーネの姿にテリドレアーネを重ねて見ていた。






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 シェラ・ドーネの花茎が熱くなっているのが寝間着の上からでもわかった。エメリア伯爵はそっと手を差し入れるとその小さな花茎に指を這わせた。

「あっ・・・はっ・・・」

 シェラ・ドーネはエメリア伯爵の指の感触に思わず躯を仰け反らせた。苦しそうに身を捩るシェラ・ドーネの肢体が艶かしい色香を放っていた。エメリア伯爵は早くシェラ・ドーネをこの苦しみから解放してやりたいと思いながら、その苦しさに喘ぐシェラ・ドーネの美しい姿をいつまでも眺めていたいと思う自分がいることに気付いて戸惑った。
 シェラ・ドーネの熱くなった先はすでに濡れ始めていた。エメリア伯爵はふと違和感を覚えた。手の中のシェラ・ドーネの未熟な牡がいつのまにか容を変えていることに気付いた。それは完全な男のものに近かった。熱を帯びたそれはどんどん容を変化させていった。

「あっ・・・ああっ・・・熱い・・・可笑しくなる・・・躯が変・・・」

 シェラ・ドーネ自身その変化に気付いているようだった。息を乱して喘ぐシェラ・ドーネの躯は震え、美しく光る汗がその肌を煌かせていた。
 エメリア伯爵は思わずシェラ・ドーネの下肢を纏っていた衣を剥がした。そこにあったものを見てエメリア伯爵は目を見開いた。それは今まで見たこともない美しい姿であった。両性体がこんなふうに変化をするとは思いも寄らず、エメリア伯爵はその眩いばかりに美しいシェラ・ドーネの股間に目を奪われていた。まるで蝶の変化を見るかのようであった。シェラ・ドーネは蛹から羽を広げて美しく姿を変える蝶そのものだった。

「ああっ・・・いやっ・・・止めて・・・」

 シェラ・ドーネは急激な変化に自分でもどうしていいのかわからず、エメリア伯爵の躯に必死でしがみ付いた。エメリア伯爵は思わずシェラ・ドーネの躯を抱き締めていた。熱で火照ったその躯は燃えるように熱くエメリア伯爵の躯まで熱くさせた。

「あっ・・・ああ・・・うっ・・・」

 シェラ・ドーネは痛みを堪えて涙を流しているかのようだった。それは悲痛な叫びだった。

「シェラ・ドーネさま・・・」

 長い葛藤の末、悶えるシェラ・ドーネの躯がようやく熱を引いたように治まりだした。シェラ・ドーネはエメリア伯爵の腕の中で崩れ落ちた。
 エメリア伯爵は汗で濡れたシェラ・ドーネの額に付いた銀色の髪を掻き分けると、そこに口づけを落とした。シェラ・ドーネはそっと目を開けてエメリア伯爵を見上げた。
「エメリア伯・・・?」
「落ち着かれましたか?シェラ・ドーネさま・・・」
 シェラ・ドーネの躯は汗でしとどに濡れていた。
「お着替えをなさいますか?そのままではお風邪を引いてしまいます。」
 エメリア伯爵が寝台から降りて新しい寝間着を用意した。シェラ・ドーネはゆっくり起き上がると、寝台の中で躯に張り付いた寝間着を自分で剥がした。エメリア伯爵はシェラ・ドーネの汗で濡れた背中を拭いた。白く透けるような肌は汗で美しく光っていた。
 エメリア伯爵が新しい寝間着をシェラ・ドーネに着せようとしたとき、シェラ・ドーネは突然躯を隠すように前屈みになった。

「シェラ・ドーネさま・・・?」

 シェラ・ドーネは震える躯を押さえるように両腕を抱え込んだ。
「どうなさったのです?」
「いや・・・僕を見ないで・・・僕に触らないで・・・」
「シェラ・ドーネさま・・・一体何を・・・」
 シェラ・ドーネは顔を真っ赤にしていた。見慣れない自分の姿を見て驚いたのか、シェラ・ドーネの顔は羞恥で戸惑っているようだった。
「大丈夫ですよ。何も心配することはございません。あなたの躯が無事に男としての変化を始めただけですから・・・」
「・・・」
「ご安心なさいませ。急なことで驚かれたのでしょう?恥じることは何もないのですよ。」
 エメリア伯爵の宥めるようなやさしい言葉と穏やかな笑顔がシェラ・ドーネの怯えた心を解きほぐしていた。シェラ・ドーネは涙を流しながらエメリア伯爵を見上げた。
「僕・・・変じゃない・・・?醜くない・・・?」
 エメリア伯爵は不安そうに見つめるシェラ・ドーネにそっと微笑んだ。
「いいえ・・・あなたはとても美しい。どうか自信をお持ちください。」
「エメリア伯・・・」
 シェラ・ドーネの前にエメリア伯爵が近付いてきた。

「シェラ・ドーネさま・・・どうかその美しいお姿をもう一度私に・・・」

 シェラ・ドーネは躊躇った。頭を下げたエメリア伯爵の前で、シェラ・ドーネは恐る恐る足を広げてみせた。エメリア伯爵は顔を上げてシェラ・ドーネを見た。シェラ・ドーネは見られているのが恥ずかしくて思わず顔を手で隠した。
「シェラ・ドーネさま・・・もっとお傍に行ってもよろしいですか?」
 シェラ・ドーネは恥ずかしくて返事が出来ずに頷いてみせた。エメリア伯爵はそんなシェラ・ドーネの仕草から目が離せなかった。
 エメリア伯爵はシェラ・ドーネににじり寄ると、シェラ・ドーネの足の間に顔を埋めた。

「あっ・・・」

 気が付くとシェラ・ドーネの牡の先に何かが触れていた。エメリア伯爵に口づけされているのがわかってシェラ・ドーネは更に恥ずかしくなって身動きも出来ないでいた。
 エメリア伯爵は顔を上げるといつもの穏やかな笑顔でシェラ・ドーネを見つめた。
「これはあなたへの忠誠の証でございます。これからもあなたをお守りいたします。その美しい剣に誓って・・・」
 シェラ・ドーネはどうしていいのかわからず、エメリア伯爵に抱きついていた。
「エメリア伯・・・」
 シェラ・ドーネは言葉にならず、ただエメリア伯爵を抱き締めることしか出来なかった。


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